船舶登記原因証明情報について

契約成立後に握手を交わすビジネスマン

船舶について所有権の保存の登記以外の登記を申請するときは、登記原因及びその日付を申請する必要がありますし、権利に関する登記を申請する場合には、法令に別段の定めがある場合を除き、申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供する必要があります。

登記の原因とは、たとえば所有権移転の場合における売買や相続等のように、登記を必要とする状況の原因となった事実のことを指します。また、船舶登記原因証明情報とは、登記の原因となった事実又は法律行為とこれに基づき現に権利変動が生じたことを証する情報のことをいいます。

ざっくり言ってしまえば、「申請するなら証拠を提示してくださいね!」ということなのですが、小難しい表現や耳慣れない単語が飛びかったりで、そもそも分かりづらい制度を、ことさら難解に感じてしまうのが船舶登記の実務です。

そこで本稿では、入門編である船舶登記の基礎知識、基本編である船舶登記の登記事項、実践編である船舶登記申請書の作成方法に続く応用編として、船舶登記における登記原因証明情報について、詳しく解説していきたいと思います。

船舶登記原因証明情報

船舶登記原因証明情報の一番分かりやすい例は売買契約書(電子契約書含む)ですが、売買契約書を船舶登記原因証明情報とする場合には、その写しに売主が記名押印したものを添付すれば十分です。この際売買について所有権の移転時期の特約があるときは、その条件成就の事実を証する情報も併せて必要となります。

売買契約書がないときは、契約の当事者、日時及び対象船舶のほか、売買契約の存在とその売買契約に基づき所有権が移転したことを登記義務者(売主)が確認した書面又は情報が登記原因証明情報となります。

売渡証書であっても、登記義務者が署名しているものは、それが売買契約とこれに基づく所有権の移転を内容としているものである限り、船舶登記原因証明情報に該当します。

次項からは、契約書に代わる船舶登記原因証明情報の報告書の作成方法について解説していきたいと思います。

船舶登記原因証明情報報告書

船舶登記原因証明情報

船舶登記申請書の稿でもお伝えしましたが、登記は何も小難しい内容を申告するものではなく、その構成はいたってシンプルです。重要なことは、誤字脱字が無いことはもちろんのこと、求められている情報を漏れなく正確に記載することです。特に定められた様式もありませんが、タイトルは「船舶登記原因情報」として、頭には必ず「船舶」の文字を付すようにします。

上記事例では1枚でコンパクトにまとめていますが、書類が2枚以上にわたる場合には、ホチキスどめし、見開きページの上部中央に義務者が契印します。本事例においては、登記義務者たる「株式会社尼水」「代表取締役 尼港舟太郎さん」が書類を作成していますので、尼港さんがこの契印を行います。

押印制度の撤廃により、大部分の行政手続きについて押印を省略することができるようになりましたが、登記制度において押印はまだまだ現役です。いたるところで押印と印鑑証明書が求められますので、この点には注意が必要です。

登記の目的

登記の目的の記載欄には、「船舶所有権の保存」「船舶所有権の移転」等、登記をする目的を記載します。ここでも「所有権の移転」という記載では足らず、文頭には必ず「船舶」の文字を付すようにしましょう。

登記の原因

登記の原因の記載欄には、登記を必要とする原因となった事実を日付とともに記載します。本事例では、令和3年10月15日付の売買によって船舶の所有権が移転したため、「令和3年10月15日売買」と記載しています。

なお、売買に「金銭の受領をもって所有権を移転する」旨の特約を付す場合における記載方法については後述させていただきます。

権利者

権利者とは、登記が実行された際に何らかの権利を得る者の事を指します。本事例においては、船舶の売買によって所有権を取得する「買主の海釣遊作さん」が権利者に当たります。

義務者

義務者とは、登記により形式的に不利益を受ける者のことを指します。売買による所有権移転登記の場合であれば、移転登記により不利益を受けるのは従前の所有権名義人であるので、本事例においては「売主の株式会社尼水さん」が登記義務者となります。

本事例の「株式会社尼水さん」は法人ですが、この欄においては代表者の資格氏名の記載は必要とされていません。ただし、最下欄の記名押印欄には代表者である「代表取締役 尼港舟太郎さん」の資格氏名までしっかりと記載する必要があります。

船舶の表示

登記の対象となる船舶を明示する必要があるため、登記簿の表題部に記載される船舶の基本情報(下記)について記載します。

  • 船名
  • 船舶の種類(帆船又は汽船の別)
  • 船籍港
  • 船質(船舶を構成する材料による分類)
  • 総トン数
  • 推進機関があるときは、その種類及び数
  • 推進器があるときは、その種類及び数
  • 帆船にあっては、帆装(帆の装着の形式)
  • 進水の年月
  • 日本において船舶を製造した場合を除き、国籍取得の年月日

登記の原因となる事実又は法律行為

この欄で記載する内容は、前述した「登記の目的」と「登記の原因」が確認することができるように、「明確」かつ「簡潔」に記載します。船舶登記原因証明情報における重要なポイントとなるため、長文でダラダラと物語を紡いでいくことはお薦めしません。笑

なお、売買には「金銭の受領をもって所有権を移転する」旨の特約を付すことが多いため、この場合には、その特約についても事実関係をしっかりと記載する必要があります。

その他の記載すべき事項

公文書に当たるため、宛名と日付を記載する必要があります。本事例においては「神戸地方法務局西宮支局」が申請先となっているため、宛名はもちろん神戸地方法務局西宮支局になります。

また、作成した報告書に誤りがないことを確認したことを証し、内容の正確性について誓約する意味合いを込めて、「上記のとおり相違ありません。」とう文言を付す必要があります。

最下欄では、船舶登記原因証明情報報の提供を行った登記義務者(売主)の住所氏名を記載して押印します。本事例においては、売主である「株式会社尼水」「代表取締役 尼港舟太郎さん」が記名押印を行います。

まとめ

登記は権利関係を公示するための重要な制度ですから、一見するとシンプルな情報を羅列しただけのような書面であっても、その内容は非常に濃密かつ繊細です。特に本稿で紹介した船舶登記原因証明情報報告書は、契約書に準ずるものとして取り扱われるため、記載上のミスは後々のトラブルに発展するリスクが潜んでいます。

一般的とはいえない登記制度にあって、さらにレアとされている船舶登記の手続きを不慣れな方が進めることはあまりお薦めできません。船舶登記の本人申請を行われる方は、細心の注意を払って手続きにあたるようにしてください。ご面倒なことにならぬよう、海事代理士や司法書士といった専門家に相談するといった選択肢があることを進言して本稿を締めくくりたいと思います。

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