船舶登記を申請しよう│船舶登記申請書の作成方法について

契約書と印鑑

総トン数20トン以上の推進機関を有する日本船舶の所有者は、船舶の船籍港の所在地を管轄する法務局において登記を行うことを義務付けられています。

とはいえ船舶登記に関しては、全国的にそもそも取扱件数が極めて少なく、情報を収集しようにもインターネット不審に陥るくらい検索にもまったくヒットしてくれません。まぁ普段登記を扱い慣れているはずの法務局の担当者ですら電話口で明らかにソワソワするくらいですから、これは致し方ないことなのかもしれません。

そこで本稿では、入門編である船舶登記の基礎知識、基本編である船舶登記の登記事項に続く実践編として、船舶登記の申請書の作成方法について詳しく解説していきたいと思います。

船舶登記申請書

船舶登記申請書

上記が船舶登記申請書の雛形になりますが、登記は何も小難しい内容を申告するものではなく、ご覧のとおり、その構成は意外にシンプルそのものです。重要なことは申請すべき情報を正確に記載することですから、誤字脱字があると後々大変なことになってしまいます。

ちなみに本事例における申請書は2枚綴りの構成となっており、この続きが以下の書面になります。

船舶登記申請書(2)

文字をコンパクトにして1枚に詰め込んでも構いませんが、情報量が多くなってごちゃごちゃしがちなので2枚綴りにした方が無難かもしれません。このように書類が2枚以上にわたる場合にはホチキスどめし、見開きページの上部中央に申請人又は代理人が契印します。

本事例においては代理人たる「海事代理士の津名久さん」が書類を作成していますので、津名久さんが海事代理士の職員を押印します。

登記の目的

登記の原因の記載欄には、登記を必要とする原因となった事実を日付とともに記載します。本事例では、令和3年10月15日付の売買によって船舶の所有権が移転したため、「令和3年10月15日売買」と記載しています。

なお、売買には「金銭の受領をもって所有権を移転する」旨の特約を付すことが多いため(決済)、その場合、特約についてはこの申請書ではなく、船舶登記原因証明情報において記載します。

登記の原因

登記の目的の記載欄には、「船舶所有権の保存」「船舶所有権の移転」というように、登記をする目的を記載します。これはたとえば「所有権の移転」という文言では足らず、文頭には必ず「船舶」の文字を付すようにしてください。

権利者

権利者とは、登記が実行された際に何らかの権利を得る者の事を指します。本事例においては、船舶の売買によって所有権を取得する「買主の海釣遊作さん」が権利者となります。

義務者

義務者とは、登記により形式的に不利益を受ける者のことを指します。売買による所有権移転登記の場合であれば、移転登記により不利益を受けるのは従前の所有権名義人であるため、本事例においては「売主の株式会社尼水さん」が登記義務者となります。

また、「株式会社尼水さん」は法人なので、その代表者である「代表取締役 尼港舟太郎さん」の氏名もしっかりと記載します。

添付書類

登記事項を客観的に証明するために、申請情報と併せて提供する書類(情報)を記載します。登記の目的や原因により求められる書類は異なりますが、本事例においては、登記済権利証、登記原因証明情報、代理権限証書(委任状)、印鑑証明書、住所証明書(住民票)、会社法人等番号(登記事項証明書)、登記申請書の写し及び船舶登記規則第48条第2項の証明書を添付しています。

実は船舶登記の際に最も煩雑なのがこの部分です。

どのような情報が必要になるかなど、詳しくは以下の記事で確認するようにしてください。なお、書面の提出により登記を申請する場合、添付書類は作成後3か月以内のものでなければなりません。

申請日・申請先

申請日と申請先を記載します。船舶には船籍港という概念が存在するため、申請先は船舶の船籍港の所在地を管轄する法務局になります。最寄りの法務局ではないことにご注意ください。

代理人

代理人に船舶登記を委任した場合は代理人について記載します。なお、船舶登記申請について代理権が認められているのは、海事代理士のほかは司法書士と弁護士のみです。たとえ無償であったとしても、これら以外の者が手続きを代理することはできませんのでご注意ください。

課税価格

船舶登記は、申請すべき情報に登録免許税が含まれているため、その標準となる課税価格を申請する必要があります。

実務上課税価格は、「船舶の価額」を基準とすることが多いのですが、この「船舶の価額」が曲者で、総トン数、船質、船種、用途、製造年月、経過年数、トン当たり船価、特殊船増価率、船価残存率、特殊船減価率及び持分割合といったちょっと何を言ってるかわからない情報を基に、非常にややこしい計算式を用いて算出します。

本人申請の場合、恐らくはこの部分でつまづかれるのではないかと思います。課税価格は費用的な部分でも非常に重要な要素となるため、間違わないよう十分に注意するようにしましょう。自信が無ければ海事代理士や司法書士といった専門家に依頼することもご検討ください。

登録免許税

上述した面倒な計算によって導いた課税価格に、区分に応じ下表の登録免許税率を乗じて算出します。本事例は「その他の原因による移転の登記」に該当するため、課税価格である1億円に1,000の28を乗じた280万円が登録免許税として法務局に納める額になります。

登記の区分登録免許税率
所有権の保存の登記1,000の4
所有権の移転の登記 
②イ相続又は法人の合併による移転の登記1,000の4
②ロ遺贈、贈与その他無償名義による移転の登記1,000の20
②ハその他の原因による移転の登記1,000の28
委付の登記1,000の4
賃借権の設定、転貸又は移転の登記1,000の1.5
抵当権の設定、強制競売若しくは競売に係る差押え、仮差押え、仮処分又は抵当付債権の差押えその他権利の処分の制限の登記1,000の4
抵当権の移転の登記 
⑥イ相続又は法人の合併による移転の登記1,000の1
⑥ロその他の原因による移転の登記1,000の2
根抵当権の一部譲渡又は法人の分割による移転の登記1,000の2
抵当権の順位の変更の登記一件につき1,000円
賃借権の先順位抵当権に優先する同意の登記一件につき1,000円
信託の登記 
⑩イ所有権の信託の登記1,000の4
⑩ロ抵当権の信託の登記1,000の2
⑩ハその他の権利の信託の登記1,000の1.5
仮登記 
⑪イ所有権の移転の仮登記又は所有権の移転請求権の保全のための仮登記1,000の4
⑪ロその他の仮登記一隻につき1,000円
付記登記、抹消された登記の回復の登記又は登記事項の更正若しくは変更の登記(これらの登記のうち①〜⑩を除く)一隻につき1,000円
登記の抹消一隻につき1,000円

船舶の表示

登記簿の表題部に記載される船舶の基本情報(下記)について記載します。

  • 船名
  • 船舶の種類(帆船又は汽船の別)
  • 船籍港
  • 船質(船舶を構成する材料による分類)
  • 総トン数
  • 推進機関があるときは、その種類及び数
  • 推進器があるときは、その種類及び数
  • 帆船にあっては、帆装(帆の装着の形式)
  • 進水の年月
  • 日本において船舶を製造した場合を除き、国籍取得の年月日

まとめ

登記は権利関係を公示するための制度ですから、行政機関が主体的に事務を進める許認可制度とは異なります。基本的には義務者の申請に基づいて手続きが進んでいくため、ミスがあれば取り返しのつかない損害を被ることがあります。本事例においては、1億円の価値がある「尼ちゃん丸」の権利が危険に晒されることになってしまいます。

また、船舶登記には引き続き船舶登録という手続きが待っています。登記事項に変更が生じた場合、原則として2週間以内にその事実を船舶国籍証書に反映させるべく、登録手続きを行うことが義務づけられているため、出発点である船舶登記を急がなければ、期間中に登録までたどり着くことができません。

以上のようなことからも、ただでさえ一般的ではない船舶登記の手続きを不慣れな方が進めることはあまりお薦めしていません。ご面倒な手続きは専門家に任せて、引き続き良き船舶ライフを楽しむことを進言させていだきます。

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