遺品から船│こんな時どうすればいいの?船舶と相続の手続きについて

ヨットハーバーのシルエット

相続は誰しもがいずれ直面する問題です。遺された財産の中にはちょっと変わったモノが含まれるケースも珍しいことではありません。例えば遺品の整理中、書類から船舶検査証書や船舶登記済権利証が出て来るケースなんかもその典型といえるでしょう。

亡くなったおじいさんが船や漁業に関わる仕事をしていた場合はもちろんのこと、長らく疎遠だったお父さんが実は趣味で船舶を所有していたなんてことも十分あり得るお話しです。

そこで本稿では、亡くなったご親族の遺品の中から船舶に関するモノが出てきた場合の対処法について、できる限り詳しく解説していきたいと思います。

一般的な相続手続き

一般的な相続では、まず相続人を調査するために被相続人(故人)の出生から死亡までの戸籍謄本を取得して確認を行います。同時に相続人(相続するご親族)の戸籍謄本や住民票等を取得し、調査結果と照らし合わせて相続関係説明図を作成します。

次に必要に応じて作成した財産目録を基に、相続人全員の合意で船舶の承継人と共有割合を決め、最終的には遺産分割協議書を作成して、戸籍謄本一式と承継人の印鑑証明書等とともに各機関に届出を行うというのが一連の流れです。

これを船舶に当てはめると、以下のような流れになります。

①戸籍謄本の収集

②相続関係説明図の作成

③財産目録の作成

④分割の方法や割合等の協議

⑤遺産分割協議書の作成

⑥法務局に対する所有権移転登記(大型船舶のみ)

⑦日本小型船舶検査機構(小型船舶)又は国土交通省(大型船舶)に対する移転登録申請、及び都道府県知事に対する漁船登録申請(漁船)

また、遺産分割協議で持分割合を決めて共有名義にすることや、名義変更と同時に申請することにより、相続人以外の親族名義にすることも可能です。未成年者を相続人名義にすることももちろん可能ですが、その場合は、未成年者ではなく、その親権者が手続きを行います。

船舶の区分について

船舶は、その大きさ(総トン数)や用途により、登録先や手続きの方法が異なるなど取扱いが異なります。以下、確認方法とともに記載しますので、ご確認のうえご参考いただくようお願いいたします。

区分内容確認できる資料
小型船舶総トン数20トン未満の船舶船舶国籍証書、船舶検査証書、船舶検査手帳
大型船舶総トン数20トン以上の日本船舶船舶登記済権利証、船舶国籍証書
漁船もっぱら漁業に従事する船舶等、漁船法第2条1項に定める漁船漁船登録票
櫓櫂船等主として櫓(ろ)と櫂(かい)により運転する舟、総トン数1トン未満の無動力船なし(登録不要)

必要となる手続き

原因手続き申請先
小型船舶の相続による所有権の移転所有権の移転登録日本小型船舶検査機構
大型船舶の相続による所有権の移転所有権の移転登録管海官庁(運輸局)
所有権の移転登記船籍港を管轄する法務局
相続による漁船の取得(相続した漁船を漁船として使用する場合)漁船登録都道府県知事

小型船舶の場合

原因手続き申請先
小型船舶の相続による所有権の移転所有権の移転登録日本小型船舶検査機構

小型船舶とは、総トン数20ト未満の船舶を指します。個人の所有する船であれば、だいたいが小型船舶に該当します。小型船舶を相続により新たに取得した場合、日本小型船舶検査機構(JCI)に対し、所有権の移転登録を申請します。

売買等による所有者変更に伴う移転登録等の手続きは、新所有者(買主)が行います。譲渡人(相続人)は、新所有者に対し、譲渡証明書、印鑑証明書、船舶検査証書及び船舶検査手帳を交付します。

大型船舶の場合

原因手続き申請先
大型船舶の相続による所有権の移転所有権の移転登録管海官庁(運輸局)
所有権の移転登記船籍港を管轄する法務局

大型船舶とは、総トン数20トン以上の日本船舶を指します。個人で大型船舶を所有していることは稀ですが、海釣りや船が大好きだったお父上であれば、十分にあり得るケースです。ひとくちに「大型船舶」と言っても、外見だけで判断することは難しいため、まずは資料の中から「総トン数20トン以上」であるかどうかを必ず確認するようにしてください。

大型船舶を相続により新たに取得した場合、管海官庁(運輸局)に対し、所有権の移転登録を申請します。また、登録に先立っては、船籍港を管轄する法務局において、船舶所有権移転登記を申請する必要があります。

つまり大型船舶の所有権移転については、①まず船舶登記を行い②その後船舶登記に基づいて移転登録を行う、という2ステップの手続きが要求されていることになります。

漁船の場合

原因手続き申請先
相続による漁船の取得漁船登録都道府県知事
※相続により取得した漁船を漁船として使用する場合

漁船登録は、既に説明した登録や登記の制度に加えて、船舶を漁船として使用するために必要となる手続きです。漁船登録は、登録を受けた漁船の所有者が死亡した場合には失効しますが、再度漁船として使用するときは、新たに漁船登録の申請を行う必要があります。

漁船として使用しない場合は、臨時船舶検査を受けて漁船以外の船舶へ変更し、漁船登録票を返納する必要があります。ただし、12海里以内の水域限定で操業する総トン数20トン未満の小型漁船であれば、船舶検査を受ける必要はありません。

必要となる書類

  • 遺産分割協議書
  • 船舶検査証書
  • 船舶検査手帳
  • 被相続人の全ての戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 中間の戸籍謄本(代襲相続の場合)
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 相続関係説明図

まとめ

ただでさえ煩雑な相続ですが、その上に船舶に関する手続きが加わるとなれば、その労力たるや並大抵のものではありません。いくら亡きご親族が船舶を所有していたとはいえ、一般的には周辺知識に乏しいケースがほとんどではないかと思います。大型船舶にもなると、その価額は不動産と変わらないものもありますし、実際、国もその価値を認めているからこそ、不動産と同様に登記制度を採用したりしているわけです。

このため、不慣れな手続きを失敗することにより、莫大な損失を被ってしまうことも考えられます。船舶を含めた相続の際は専門家の適切なアドバイスのもと、丁寧に勧めていくことをお薦めいたします。

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