船舶における運航管理者について

セーヌ川を進む遊覧船

運航管理者とは、気象海象(天候や海の状況)などの情報を適時適切に収集し、船舶の運航の可否を判断するなど、船舶の運航を全般的に管理する責任者です。

海上運送法および内航海運業法では、事業を実施するにあたり各事業者において運航管理者の選任を義務付けており、その役割についても明確に規定しています。2022年4月に起きた知床沖での遊覧船沈没事故以降、運航管理者の役割に注目が集まっており、選任についての確認も厳格化傾向にあります。

そこで本稿では、海上運送事業および内航海運業を実施する際に選任する必要のある運航管理者の役割や資格要件について詳しく解説していきたいと思います。

運航管理者

冒頭でお伝えしたとおり、運航管理者とは天候や海の状況などの情報を適時適切に収集し、船舶の運航の可否を判断するなど、船舶の運航を全般的に管理する責任者を指します。

これはバス事業やトラック事業における運行管理者や航空運送事業における運航管理者と類似する役職であり、具体的には以下のような事業を実施する際において運航管理者の設置と運用が義務付けられています。

  • 一般旅客定期航路事業
  • 特定旅客定期航路事業
  • 貨物定期航路事業
  • 旅客不定期航路事業
  • 人の運送をする内航不定期航路事業
  • 内航運送業

なお、同一事業者の経営する航路が遠隔の2以上の地域に分れている場合は、それぞれに運航管理者を選任させることが望ましいものとされています。

運航管理者の職務及び権限

  • 運航管理員及び陸上作業員を指揮監督すること
  • 運航計画、配船計画及び配乗計画の作成、改訂及び臨時変更に際し、安全性を検討し、承認すること
  • 気象及び海象が運航を中止すべき条件に達した場合に接岸している船舶に対し発航中止の指示をすること(発航の指示をする権限は与えられない)
  • 航路の自然的性質及び海難その他の事故例を調査研究し、航行経路、航海速力等を示した運航基準図の作成及び改訂をすること
  • 気象通報、港長公示等官公庁の発する運航に関する情報を収集し、船長に提供すること
  • 危険物の取扱いについて関係法令の実施を確保すること
  • 陸上における旅客又は自動車の整理及び誘導並びにその乗下船の際及び船舶の離着岸の際の陸上における作業を指揮監督すること
  • 船舶の点検及び整備の状況を把握し、その他の輸送施設を点検、整備し及び管理すること
  • 輸送中の船舶における旅客数及び自動車台数並びに船舶の動静を把握すること
  • 海難その他の事故が発生した場合に関係者に通報し、救難その他の作業の指揮をとること
  • 運航管理員、陸上作業員及び乗組員に対し安全教育を実施すること

船長との関係

船員法では、発航前検査、入出港時等における甲板上の指揮、火災の予防、水密の保持、および船内にある海員の指揮監督等を船長の職務権限として定め、船長が船舶の航海の安全に関する最高の責任者であることを明確にしています。

運航管理者は、配船、船員の配乗、船舶の整備、発航前又は離岸後の船客の乗降等の指揮の総括、運航に関する情報の収集等の事項を統括する責任者であり、船長に対しては、助言又は勧告を与えることにより運航全般を通じての安全を確保する責任を負います。したがって、原則として運航管理者と船長は別人とすることが求められます。

ただし、以下に該当する場合については、船長が運航管理者を兼務して差し支えないものとされています。

  • 常時運航している船舶が1隻のみであり、かつ、総トン数がおおむね100トン未満である場合
  • 航路距離が短く、常時就航している船舶数が2~3隻であって、一船の船長が他船の運航について管理可能である場合

運航管理者の資格

運航管理者は国家資格として位置づけられていますが、特に試験等を受験する必要はなく、18歳以上の者であって、かつ国土交通大臣の命令により解任された日から2年を経過しない者のうち、下記のいずれかの要件を満たす者から選任します。

  1. 事業に使用する船舶のうち最大のものと同等以上の総トン数を有する船舶に船長として3年又は甲板部の職員として5年以上乗り組んだ経験を有する者であること
  2. 船舶の運航の管理を行おうとする事業と同等以上の規模の事業における船舶の運航の管理に関し3年以上の実務の経験を有する者であること
  3. 船舶職員及び小型船舶操縦者法の規定により船長として乗り組むことができる資格を有する者であること(総トン数100トン未満の船舶1隻のみを使用して事業を営む場合に限る)
  4. 事業における船舶の運航の管理に関し上記の者と同等以上の能力を有すると地方運輸局長が認めた者であること

運航管理員

運航管理員とは、運航管理者の補助者、副運航管理者及び副運航管理者の補助者をいい、実際に現場において安全確保のための作業をするもの(陸上作業員や船内作業員等)は含まれません。

国土交通省の通達においては、運航管理者の補助者は、必ず選任することとされており、副運航管理者についても、航路の数が多数ある場合に現場業務を担当させるため必要に応じて選任することとされています。また、副運航管理者を選任する場合は、副運航管理者の補助者を選任させることが望ましいものとされています。

運航管理者の勤務体制

運航管理規程には運航管理者および副運航管理者の勤務体制について以下の事項を記載し、運航の際には運航管理規程に基づいて運用することが求められています。

  • 使用船舶が運航している間は、原則として運航管理者が勤務している旨を定めること
  • 副運航管理者は、原則として当該営業所の管理下に使用旅客船が運航している間は、勤務している旨定めること
  • 運航管理者及び副運航管理者が職場を離れるときは、各営業所及びそれぞれの補助者と連絡できる体制をとる旨定めること
  • 運航管理者が職務を執行することができない場合、連絡不能の場合等において運航管理者の職務を代行する者をあらかじめ、代行者が職務を行なう旨定めること

運航管理者の選任等の届出

運航管理者の選任又は解任の届出をしようとする者(対外旅客定期航路事業を営む者を除く)は、以下の事項を記載した運航管理者選任(解任)届出書および運航管理者資格証明書を所轄地方運輸局長に提出するものとされています。

  • 届出者の住所及び氏名
  • 運航管理者の氏名及び生年月日
  • 選任し、又は解任した年月日
  • 解任の届出の場合は解任の理由
運航管理者選任(解任)届出書
運航管理者選任(解任)届出書
運航管理者資格証明書
運航管理者資格証明書

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