海上運送事業

海上運送法では、船舶運航事業、船舶貸渡業、海運仲立業及び海運代理店業を総称して海上運送事業と呼んでいます。

字面から何となくそのイメージは伝わってきますが、水面(海、湖、沼及び川)という特殊な環境下での事業形態であることから、その内容については、一般的にあまり詳しくは知られていないのが現状です。

そこで本稿では、普段あまり知られることのない海上運送事業にスポットを当て、各事業区分の内容や特長に触れながら、その全体像について、ざっくりと解説していきたいと思います。

船舶運航事業

船舶運航事業とは、海上において船舶により人又は物の運送をする事業のことをいいます。海上での運送(旅客・貨物)を前提としているため、港湾において行われる港湾運送事業及び港湾運送関連事業はこれに含まれません。

船舶運航事業は、一定の日程表(時刻表)に沿って運航する定期航路事業と、日程表に沿うことなく不定期に運航する不定期航路事業とに大別されますが、事業種別が多く複雑化しているため、分かりやすく図解した以下の資料で大まかな区分を確認するようにしてください。

海上運送法事業種別一覧表
出典元:九州運輸局公式サイト

このうち代表的な事業において必要とされている手続きは下表のとおりですが、いずれの区分であっても、事業を開始しようとするときには、許可申請や届出といった一定の手続きを経由する必要があります。

手続き一般旅客定期航路事業旅客不定期航路事業人の運送をする不定期航路事業
事業の開始許可申請許可申請届出
事業計画変更認可申請
※軽微な変更は届出
認可申請
※軽微な変更は届出
届出
船舶運航計画届出
運賃料金の設定届出届出営業所・発着場所掲示
 船内公示
運賃料金の変更届出届出
運送約款の設定(※)認可申請認可申請営業所・発着場所掲示  船内公示
運送約款の変更認可申請認可申請
事業の譲渡譲受等届出届出
事業の休廃止届出届出届出
住所、氏名・名称、役員の変更届出届出届出
※標準運送約款を使用する場合は、許可申請書にその旨を記載することで約款の認可申請は不要となります。

このほかにも、事業を開始し、又は変更等をしようとする際には、安全管理規程、安全統括管理者及び運航管理者に係る届出(変更届)が必要になります。

定期航路事業

定期航路事業とは、一定の航路に船舶を就航させ、一定の日程表に従って運送する旨を公示して行う船舶運航事業のことをいいます。旅客船により人を運送する事業を旅客定期航路事業一般旅客定期航路事業及び特定旅客定期航路事業)、その他の定期航路事業を貨物定期航路事業として区分しています。

なお、旅客船とは13人以上の旅客定員を有する船舶を指し、非旅客船とは旅客定員が12人以下の船舶を指します。旅客船であるか否かは、海上運送法に基づく制度上の重要なポイントになるため、旅客定員数については、特にしっかりと確認するようにしてください。

一般旅客定期航路事業

一般旅客定期航路事業とは、一定の航路において、不特定多数の人を運送するために旅客船を就航させ、一定の日程表に従って運送する旨を公示して行う船舶運航事業をいいます。

例)フェリー、定時運航の遊覧船

特定旅客定期航路事業

特定旅客定期航路事業とは、特定の者の需要に応じ、特定の範囲の人の運送を行う旅客定期航路事業をいいます。

特定旅客定期航路事業では、原則として路線バスのような乗合旅客の運送1はできませんが、陸上と船舶その他海上の特定の場所との間の運送(通船)と、起点と終点とが一致する航路であって寄港地のない運送(遊覧)における旅客の運送については、例外的に乗合運送が許容されています。

  1. 路線バスのように、不特定多数の旅客を乗り合わせて乗船させる運行方法 ↩︎

例)契約に基づく通勤者や通学者のみの運送

貨物定期航路事業

貨物定期航路事業とは、旅客定期航路事業(一般・特定)に該当しない定期航路事業であって、旅客定員12人以下の非旅客船を航行させて人や貨物を運送するものをいいます。

例)渡し船、定時貨物船

不定期航路事業

不定期航路事業とは、日程表に沿わずに運航する船舶運航事業全般を指し、使用する船舶が旅客船(定員13名以上)であるか否かによって、「旅客不定期航路事業」と「人の運送をする内航不定期航路事業」とに区分されています。

旅客不定期航路事業

旅客不定期航路事業とは、起終点が同じで寄港地のない一定の航路において、旅客船により人の運送を行う事業をいいます。

例)屋形船、花火観覧船

人の運送をする内航不定期航路事業

人の運送をする内航不定期航路事業とは、旅客不定期航路事業、一般旅客定期航路事業及び特定旅客定期航路事業のいずれにも該当しない人の運送をする航路事業をいいます。

例)クルーズ船、海上タクシー

船舶貸渡業

船舶貸渡業とは、船舶の貸渡し(定期傭船を含む)又は運航の委託をする事業をいいます。船舶のリース事業や船舶の派遣業といったイメージですが、貸渡しの対象は内航船舶(日本国内の貨物輸送だけに使用される船)に限定されているため、レンタルボート等を貸し出す事業は船舶貸渡業に該当しません。

船舶貸渡業を営む者は、事業開始及び事業変更の日から30日以内に、主たる営業所の所在地を管轄する地方運輸局長に対して届出を行う必要があります。

海運仲立業

海運仲立業とは、海上における船舶による物品の運送又は船舶の貸渡し、売買若しくは運航の委託の媒介を行う事業をいいます。

日本においては、伝統的かつ比較的ポピュラーなビジネスモデルであり、海運業者と荷主との間に介在して取引の取りまとめを行ういわゆる海運ブローカーといわれる事業がこれに該当します。

海運仲立業を営む者は、事業開始及び事業変更の日から30日以内に、主たる営業所の所在地を管轄する地方運輸局長に対して届出を行う必要があります。

海運代理業

海運代理業とは、船舶運航事業又は船舶貸渡業を営む者のために、通常その事業に属する取引の代理をする事業をいいます。主に船舶の入出港に伴う関係官庁への許認可申請や届出の業務を船会社に代理して行う船舶代理店と呼ばれる事業がこれに該当します。

海運代理業を営む者は、事業開始及び事業変更の日から30日以内に、主たる営業所の所在地を管轄する地方運輸局長に対して届出を行う必要があります。

海上運送事業関連サポート

当事務所では、専門家が極めて少ない海上運送事業に関する手続きの代行を全国から承っております。許認可見込みの事前調査から、関係各所との協議調整、複雑な書類の作成、必要書類の収集及び申請の代行に至るまで、しっかりとフルサポートいたします。

当事務所は「話しの分かる海事代理士・行政書士事務所」を標榜しているため、さまざまな事情をくんだ上での柔軟な対応には自信を持っています。海上運送事業に関する手続きでお困りの際は、当事務所までどうぞお気軽にご相談ください。

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