船舶登記の基礎知識

登記は重要な権利義務を保護するとともに、円滑な取引を実現するための公示制度です。登記といえば、「商業登記」や「不動産登記」などがありますが、実は船舶にも「船舶登記」の制度が存在しています。

そもそも登記そのものが一般層にはそこまで耳慣れていない制度なのですが、船舶登記になると、普段登記に慣れているはずの法務局の担当者ですら少し眉を潜めるくらいレアな手続きとなります。

海事代理士はこの船舶登記に関する手続きを船舶所有者に代理して行うことができますが、ご相談を含めても取扱件数は決して多いものではありません。ここでは船舶登記制度に関する基礎的な部分についてざっくりと記述しますので、まずは全体像をしっかりとイメージするようにしてください。

登記を必要とする船舶

船舶登記の対象とされているのは、総トン数20トン以上の推進機関を有する日本船舶に限られ、総トン数20トン未満の小型船舶や櫓櫂船(ろかいせん)については、登記の対象とはされていません。

少しややこしいのは、船舶の公示が、登録制度登記制度という二元制度を採用しているという点にあります。

バイクや自動車における登録制度と同様に、船舶登録は行政監督をスムーズに行うことを目的とするベーシックな公示制度です。これに対して船舶登記は、私法上の権利関係を公示することを目的とすることから、両者は密接な関係を持ちながら、目的を異にする別制度として取り扱われています。

総トン数20トン以上の大型船舶については、登記によって権利関係が公示されますが、あくまでも私法上の権利関係が公示されただけに過ぎず、登記した大型船舶を航行の用に供するためには、登記とは別に船舶登録を受ける必要があります。

総トン数20トン未満の小型船舶については小型船舶登録、漁船法第2条1項に定める漁船については漁船登録を受けることになりますが、櫓櫂船(主として櫓櫂により運転する舟を含む)については、登記も登録も不要とされています。

総トン数20トン以上の日本船舶船舶登記 + 船舶登録
総トン数20トン未満の船舶小型船舶登録
漁船法第2条1項に定める漁船(総トン数1トン未満の無動力船を除く)漁船登録
櫓櫂船(主として櫓櫂により運転する舟を含む)対象外

登記の種類(抜粋)

船舶登記を必要とする場面は多岐にわたるため、登記義務者は状況に応じた適正な登記を行う必要があります。以下に代表的な船舶登記を抜粋して記載しているので、内容をしっかりと確認するようにしてください。

船舶所有権保存登記

総トン数20トン以上の大型船舶を新造し、もしくは輸入し、又は小型船舶の総トン数が改造等により20トン以上となった場合等であって、初めて日本船舶を航行の用に供する場合に行う登記です。

船舶所有者は、船舶所有権保存登記をした後に、船舶国籍証書の交付を受けます。

船舶所有権移転登記

所有権保存登記と登録がなされた船舶を売買や相続により取得した場合に行う登記です。不動産登記とは異なり、船舶所有権移転の対抗要件は船舶所有権移転登記のみでは足らず、船舶国籍証書への記載をもってようやく具備するに至ります。このため、船舶所有権移転登記の際は、登記と併せて変更登録と船舶国籍証書の書換が必要となります。

船舶抵当権等の登記

登記船舶は抵当権の目的とすることができるほか、不動産と同様に、賃借権や根抵当権を設定することも可能です。賃貸借を登記したときは、以後その船舶について物権を取得した者に対しても効力は及び、抵当権を登記したときは、船舶の属具にまでその効力が及びます。

船舶表示変更登記

船名や船籍港、総トン数など、船舶の表示について変更を生じた場合に行う登記です。

船舶管理人に関する登記

船舶管理人とは、船舶の共有者がその全員の同意によって選任した代表者をいいますが、この船舶管理人を選任した場合は、その氏名、名称及び住所について、丙区に記録する必要があります。

不動産登記や商業登記にはない船舶特有の登記区分です。

船舶登記の手続き

登記の申請は、船籍港を管轄する法務局に対して行います。船舶登記は船舶登録に先立って行い、船舶登録の際には船舶登記簿謄本を添付します。登記完了後は船籍港を管轄する管海官庁(地方運輸局等)に対して登録を申請し、船舶原簿に登録する手続きを経た後、管海官庁から船舶国籍証書が交付されることになります。

ご記憶いただきたいのは、船舶登録よりも先に船舶登記の手続きを行う必要があるという点です。登記はいわば船舶についての身元保証(戸籍)の役割を果たし、登録は実際に船舶を航行するための条件(免許証)であるという風にイメージすると伝わりやすいように思います。

また、登記された事項に変更を生じた場合には、2週間以内にその事実を船舶国籍証書に反映させるべく、変更の登記及び登録手続きを行うことが義務づけられています。

まとめ

登記は権利関係を公示してその保護を図りつつ、取引の安全性を高めることを目的とする重要な制度です。船舶登録制度とは不可分の関係でもあり、全体を通して制度を把握することは、海事に関して熟達していなければなかなか難しいように思います。日常的に接することが少ない船舶登記ですが、いざ手続きが必要になった際にお困りになられることのないよう専門家に相談することのできる環境を整えることをお薦めしておきます。

船舶所有権保存登記110,000円〜
船舶所有権移転登記 110,000円〜
船舶新規登録66,000円〜
変更・訂正・抹消登録22,000円〜
船舶国籍証書交付・再交付・書換22,000円〜
総トン数測度申請22,000円〜
※税込み

※難易度により報酬額が変わる点については、あらかじめご承知おきください。

事務所の最新情報をお届けします

次の記事

小型船舶操縦士免許