船員派遣事業について
船員派遣とは、「船舶所有者が、自己の常時雇用する船員を、雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、その他人のために船員として労務に従事させることをいい、その他人に対し船員をその他人に雇用させることを約してするものを含まないもの」とされています。
そもそも特殊な船員の世界にあって、ことさら耳馴染みのない船員派遣事業ですから、実際に携わろうとする際は、情報収集の段階から苦行を強いられることは間違いありません。
そこで本稿では、船員派遣事業に関心のある皆さまに向けて、事業の概要を紹介するとともに、船員派遣事業を営むために必要となる手続きや法的知識について詳しく解説していきたいと思います。
目 次
船員派遣事業
冒頭で触れたとおり、船員派遣とは、「船舶所有者が、自己の常時雇用する船員を、雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、その他人のために船員として労務に従事させることをいい、その他人に対し船員をその他人に雇用させることを約してするものを含まないもの」をいいます。
平たく言えば、自ら雇用する常勤の船員を、派遣先となる事業者に派遣し、派遣先の指揮命令下において労働させる事業がこれに当たり、派遣先が船員を直接雇用することを前提とするものを除きます。
原則として、船員派遣を反復継続して行うことは禁止されていますが、国土交通大臣の許可を受けた者は、船員派遣を事業として行うことができます。
なお、許可の有効期間は3年間とされており、有効期間の満了後も引き続き船員派遣事業を行おうとするときは、有効期間が満了する日の30日前までに申請し、許可の更新を受ける必要があります。
船員派遣事業の許可
船員派遣事業の許可を受けようとする者は、以下の事項を記載した申請書を国土交通大臣(事業主の主たる事務所を管轄する地方運輸局)に提出して申請を行います。
- 氏名又は名称及び住所並
- 法人にあっては代表者の氏名並びに役員の氏名及び住所
- 船員派遣事業を行う事業所の名称及び所在地
- 選任する派遣元責任者の氏名及び住所
- その他国土交通省令で定める事項
許可申請書には、船員派遣事業を行う事業所ごとに、船員派遣事業に係る派遣船員の数、船員派遣に関する料金の額その他船員派遣に関する事項を記載した事業計画書を添付する必要があります。
欠格事由
許可の前提として、許可を受けることができない事由が定められており、以下のいずれかの事由に該当する者は、船員派遣事業者としての適格性を欠く者として、許可を受けることができません。
- 禁錮以上の刑に処せられ、又は船員職業安定法その他労働に関する法律の一定の規定若しくは暴力団対策法により、若しくは刑法上の一定の罪、暴力行為等処罰に関する法律の罪若しくは出入国管理及び難民認定法の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
- 健康保険法、船員保険法、労働者災害補償保険法、厚生年金保険法、労働保険徴収法又は雇用保険法の規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
- 精神の機能の障害により船員派遣事業を的確に遂行するに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者
- 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
- 船員派遣事業の許可を取り消され、取消しの日から起算して5年を経過しない者
- 営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者であって、その法定代理人が欠格事由に該当するもの
- 法人であって、その役員のうちに欠格事由に該当する者があるもの
許可の基準
許可を受けるためには、以下の基準にすべて適合させる必要があります。なお、たとえ基準にすべて適合する場合であったとしても、国土交通大臣により許可について条件を付されることがあります。
- 申請者が船員派遣事業の派遣船員に係る雇用管理を適正に行うに足りる能力を有するものであること
- 個人情報を適正に管理し、及び派遣船員等の秘密を守るために必要な措置が講じられていること
- 申請者が船員派遣事業を的確に遂行するに足りる能力を有するものであること
許可申請に必要となる書類
- 許可申請書
- 住民票の写し及び履歴書(申請者、役員、法定代理人、派遣元責任者)
- 精神の機能の障害に関する医師の診断書(申請者、役員、法定代理人、派遣元責任者が精神の機能の障害により認知、判断又は意思疎通を適切に行うことができないおそれがある者である場合)
- 定款又は寄附行為(法人)
- 登記事項証明書(法人)
- 船員派遣事業を行う事業所ごとの個人情報の適正管理及び秘密の保持に関する規程
- 最近の事業年度における貸借対照表及び損益計算書(法人)
- 船員派遣事業に関する資産の内容及びその権利関係を証する書類
許可証
許可後は、船員派遣事業を行う事業所の数に応じて許可証が交付されますが、許可証の交付を受けた者は、この許可証を船員派遣事業を行う事業所ごとに備え付け、関係者から請求があったときはいつでも提示する義務を負います。
このため許可証を亡失又は滅失したときは、速やかにその旨を国土交通大臣に届け出て、許可証の再交付を受ける必要があります。
変更・廃止の届出
船員派遣元事業主は、申請事項に変更があったときは、変更事項に係る書類(事業所の廃止に係る変更の届出にあっては、廃止した事業所に係る許可証)を添付し、遅滞なく、その旨を国土交通大臣に届け出る必要があります。
また、船員派遣事業を廃止したときは、遅滞なく、その旨を国土交通大臣に届け出るものとされており、この届出があったとき、許可はその効力を失うものとされています。
届出に係る事項が許可証の記載事項に該当するときは、併せて許可証の書換えを受けることも必要とされています。
なお、事業所の新設に係る変更の届出を行う場合、申請書には以下の書類を添付します。
- 事業計画書
- 船員派遣事業を行う事業所ごとの個人情報の適正管理及び秘密の保持に関する規程
- 船員派遣事業に関する資産の内容及びその権利関係を証する書類船員派遣事業を行う事業所ごとに選任する派遣元責任者の住民票の写し及び履歴書
- 船員派遣事業を行う事業所ごとに選任する派遣元責任者の精神の機能の障害に関する医師の診断書(派遣元責任者が精神の機能の障害により認知、判断又は意思疎通を適切に行うことができないおそれがある者である場合)
船員派遣元事業主の義務
求職者の個人情報の取扱い | 業務に関し、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合を除き、船員の個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で船員の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない |
必要な措置 | 船員の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければならない |
争議行為に対する不介入 | 同盟罷業、閉出又はけい船の行われている船舶につき、船員派遣をしてはならない(同盟罷業、閉出又はけい船の行われる際現に当該船舶につき船員派遣をしている場合は、当該船員派遣及びこれに相当するものを除く) |
名義貸しの禁止 | 自己の名義をもって、他人に船員派遣事業を行わせてはならない |
事業報告書及び収支決算書 | 毎事業年度経過後3か月以内に船員派遣事業を行う事業所ごとの事業報告書及び収支決算書を作成し、国土交通大臣に提出しなければならない(貸借対照表及び損益計算書を提出したときは、収支決算書の提出は不要) |
事業報告書 | 事業報告書には、船員派遣事業を行う事業所ごとの当該船員派遣事業に係る派遣船員の数、船員派遣の役務の提供を受けた者の数、船員派遣に関する料金の額その他船員派遣に関する事項を記載しなければならない |
外国船舶派遣 | 派遣船員を船員法第一条第一項に規定する船舶以外の船舶において就業させるための船員派遣をしようとするときは、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない |
派遣船員等の福祉の増進 | 雇用する派遣船員又は派遣船員として雇用しようとする船員について、各人の希望及び能力に応じた就業の機会及び教育訓練の機会の確保、労働条件の向上その他雇用の安定を図るために必要な措置を講ずることにより、これらの者の福祉の増進を図るように努めなければならない |
適正な派遣就業の確保 | 雇用する派遣船員に係る派遣先がその指揮命令の下に当該派遣船員に労働させるに当たって当該派遣就業に関し適用される法律の規定に違反することがないようにその他当該派遣就業が適正に行われるように、必要な措置を講ずる等適切な配慮をしなければならない |
船員派遣契約
船員派遣契約の当事者は、船員派遣契約の締結に際して以下の事項を定めるとともに、その内容の組合せが一であるときはその組合せに係る派遣船員の数を、組合せが二以上であるときはそれぞれの組合せの内容及び当該組合せごとの派遣船員の数を定め、許可を受けた旨を明示し、これらを併せて書面に記載する必要があります。
- 派遣船員が従事する業務の内容
- 派遣船舶の名称、総トン数、用途(漁船にあっては、従事する漁業の種類を含む)及び就航航路又は操業海域
- 船員派遣の役務の提供を受ける者のために、就業中の派遣船員を指揮命令する者に関する事項
- 船員派遣の期間
- 基準労働期間、労働時間及び休息時間に関する事項安全及び衛生に関する事項
- 派遣船員から苦情の申出を受けた場合における当該申出を受けた苦情の処理に関する事項
- 船員派遣契約の解除に当たって講ずる派遣船員の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項
- 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
- 船員派遣元事業主が、派遣先である者又は派遣先となろうとする者との間で、これらの者が当該派遣船員に対し、陸上における宿泊、休養、医療及び慰安の施設であって現に当該派遣先である者又は派遣先になろうとする者に雇用される船員が通常利用しているものの利用、レクリエーション等に関する施設又は設備の利用、制服の貸与その他の派遣船員の福祉の増進のための便宜を供与する旨の定めをした場合における当該便宜供与の内容及び方法
書面には、以下の区分に応じて定められた事項を記載する必要があります。
事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務であって一定の期間内に完了することが予定されているものについて行われる船員派遣の場合 | 事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務であって一定の期間内に完了することが予定されているものに該当する旨 |
その業務が1か月間に行われる日数が、当該派遣就業に係る派遣先に雇用される通常の船員の1か月間の所定労働日数に比し相当程度少なく、かつ、国土交通大臣の定める日数以下である業務について行われる船員派遣の場合 | その業務が1か月間に行われる日数が、当該派遣就業に係る派遣先に雇用される通常の船員の1か月間の所定労働日数に比し相当程度少なく、かつ、国土交通大臣の定める日数以下である業務に該当する旨 |
派遣先において当該業務が1か月間に行われる日数 | |
派遣先に雇用される通常の船員の1か月間の所定労働日数 | |
派遣先に雇用される船員が産前産後休業、育児休業、並産後休業若しくは育児休業に後続する休業であって母性保護若しくは子の養育をするためのものをする場合における当該船員の業務について行われる船員派遣の場合 | 産前産後休業、育児休業、又は産後休業若しくは育児休業に後続する休業であって母性保護若しくは子の養育をするためのものをする船員の氏名及び業務 |
上記の船員がする産前産後休業、育児休業又は産後休業若しくは育児休業に後続する休業であって母性保護若しくは子の養育をするためのものの開始及び終了予定の日 | |
派遣先に雇用される船員が介護休業をし、及び介護休業に後続する休業であって対象家族を介護するためにする休業をする場合における当該船員の業務について行われる船員派遣の場合 | 介護休業又は介護休業に後続する休業であって対象家族を介護するためにする休業をする船員の氏名及び業務 |
上記の船員がする介護休業又は介護休業に後続する休業であって対象家族を介護するためにする休業の開始及び終了予定の日 |
船員派遣元事業主は、外国船舶派遣に係る船員派遣契約の締結に際し、派遣先が以下の措置を講ずべき旨を定めて書面に記載し、派遣先に交付(若しくはファクシミリ装置を用いてする送信又は電子メールの送信)をしなければならないものとされています。
- 派遣先責任者の選任
- 派遣先管理台帳の作成、記載及び通知
- 船員派遣契約に関する措置
- 苦情の内容の通知及び当該苦情の処理
- 疾病、負傷等の場合における療養の実施その他派遣船員の福祉の増進に係る必要な援助
- その他派遣就業が適正かつ円滑に行われるようにするため必要な措置
抵触日
一般労働にせよ船員労働にせよ、派遣労働者の利用は、あくまでも臨時又は一時的なものであるという考え方を原則としています。そして派遣労働者の雇用安定やキャリアアップを図るために設けられているのが「抵触日」と言われる制度であり、つまりこの「抵触日」が船員派遣契約の「最大期限」であると捉えることができます。
新たな船員派遣契約に基づく船員派遣の役務の提供を受けようとする者は、船員派遣契約を締結するにあたり、あらかじめ、船員派遣元事業主に対し、船員派遣の役務の提供が開始される日以後その業務について派遣可能期間と抵触することとなる最初の日を通知する必要があります。この通知がないときは、船員派遣元事業主は、新たな船員派遣契約に基づく船員派遣の役務の提供を受けようとする者との間で、船員派遣契約を締結することはできません。
船員派遣元事業主は、派遣先からこの通知を受けたときは、遅滞なく、通知に係る業務に従事する派遣船員に対し、書面の交付等により、業務について派遣先が派遣可能期間に抵触することとなる最初の日を明示しなければなりません。
また、船員派遣元事業主は、派遣先が当該船員派遣元事業主から船員派遣の役務の提供を受けたならば派遣可能期間に抵触することとなる場合には、当該抵触することとなる最初の日以降継続して船員派遣を行うことはできず、当該抵触することとなる最初の日の1か月前の日から当該抵触することとなる最初の日の前日までの間に、当該抵触することとなる最初の日以降継続して船員派遣を行わない旨を当該派遣先及び当該船員派遣に係る派遣船員に通知する必要があります。
なお、船員派遣の役務の提供を受けようとする者は、船員派遣契約の締結に際し、当該船員派遣契約に基づく船員派遣に係る派遣船員を特定することを目的とする行為をしないように努めなければなりません。
就業条件等の明示
船員派遣元事業主は、船員派遣をしようとするときは、あらかじめ、当該船員派遣に係る派遣船員に対し、原則として書面を交付することにより次の事項を明示する必要があります。
- 船員派遣をしようとする旨
- 派遣船員が従事する業務の内容
- 派遣船舶の名称、総トン数、用途(漁船にあっては、従事する漁業の種類を含む)及び就航航路又は操業海域
- 船員派遣の役務の提供を受ける者のために、就業中の派遣船員を指揮命令する者に関する事項
- 船員派遣の期間
- 基準労働期間、労働時間及び休息時間に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 派遣船員から苦情の申出を受けた場合における当該申出を受けた苦情の処理に関する事項
- 船員派遣契約の解除に当たって講ずる派遣船員の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項
- 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
- 船員派遣元事業主が、派遣先である者又は派遣先となろうとする者との間で、これらの者が当該派遣船員に対し、陸上における宿泊、休養、医療及び慰安の施設であって現に当該派遣先である者又は派遣先になろうとする者に雇用される船員が通常利用しているものの利用、レクリエーション等に関する施設又は設備の利用、制服の貸与その他の派遣船員の福祉の増進のための便宜を供与する旨の定めをした場合における当該便宜供与の内容及び方法
- 派遣船員が従事する業務について派遣先が派遣可能期間に抵触することとなる最初の日
船員派遣元事業主は、船員を派遣船員として雇用しようとするときは、あらかじめ、その船員にその旨を明示しなければなりません。また、雇用する船員であって、派遣船員として雇用した船員以外のものを新たに船員派遣の対象としようとするときは、あらかじめ、その船員にその旨を明示した上で、その同意を得なければなりません。
契約の解除等
船員派遣をする事業主は、船員派遣の役務の提供を受ける者が、派遣就業に関し、この通知がないとき、若しくは船員職業安定法又は法令の規定に違反した場合においては、船員派遣を停止し、又は船員派遣契約を解除することができます。
派遣船員に係る雇用制限の禁止
船員派遣元事業主は、その雇用する派遣船員又は派遣船員として雇用しようとする船員との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先である者(派遣先であった者を含む)又は派遣先となることとなる者に当該船員派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用されることを禁ずる旨の契約を締結することはできません。
同様に、雇用する派遣船員に係る派遣先である者又は派遣先となろうとする者との間で、正当な理由がなく、その者が当該派遣船員を当該船員派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結することもできません。
派遣先への通知
船員派遣元事業主は、船員派遣をするときは、原則として書面を交付することにより、次の事項を派遣先に通知しなければなりません。
- 船員派遣に係る派遣船員の氏名
- 船員派遣に係る派遣船員に関する健康保険被保険者資格取得届、厚生年金保険被保険者資格取得届、雇用保険被保険者資格取得届及び船員保険被保険者資格取得届の提出の有無
- 派遣船員の性別(18歳未満である場合は、年齢及び性別)
- 派遣船員に係る船員派遣の期間、基準労働期間、労働時間、休息時間、又は派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項等の内容が船員派遣契約に定めた当該派遣船員に係る組合せにおけるそれぞれの事項の内容と異なる場合における当該内容
派遣元責任者
派遣元責任者とは、派遣就業に関し、派遣船員に対する必要な助言及び指導を行い、苦情の処理、個人情報の管理に関すること船員の安全及び衛生に関する業務を統括管理並びに派遣先との連絡調整等を行う責任者のことを指します。
船員派遣元事業主は、自己の雇用する者の中から以下の欠格事由に該当しない者を、事業所に専属の派遣元責任者として選任する必要があります。
- 未成年者
- 禁錮以上の刑に処せられ、又は船員職業安定法その他労働に関する法律の一定の規定若しくは暴力団対策法により、若しくは刑法上の一定の罪、暴力行為等処罰に関する法律の罪若しくは出入国管理及び難民認定法の罪を犯したことにより、罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
- 健康保険法、船員保険法、労働者災害補償保険法、厚生年金保険法、労働保険徴収法又は雇用保険法の規定により罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
- 精神の機能の障害により派遣元責任者の職務を的確に遂行するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者
- 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
- 船員派遣事業の許可を取り消され、取消しの日から起算して5年を経過しない者
事業所の派遣元責任者の数は1名以上とされていますが、派遣船員が100人を超えるごとに1名以上を選任する必要があります。
派遣元管理台帳
船員派遣元事業主は、船員派遣元事業主の事業所ごとに、派遣就業に関し、派遣元管理台帳を作成し、当該台帳に派遣船員ごとに次の事項を記載し、3年間保存しなければなりません。
- 派遣先の氏名又は名称及び住所並びに法人にあってはその代表者の氏名
- 事業所の所在地及び派遣船舶の名称
- 船員派遣の期間及び派遣就業をした日
- 基準労働期間及び労働時間
- 従事する業務の種類
- 派遣船員から申出を受けた苦情の処理に関する事項
- 派遣船員の氏名
- 派遣先の事業所の名称
- 派遣元責任者及び派遣先責任者に関する事項
- 事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務であって一定の期間内に完了することが予定されているものについて船員派遣をするときは、その旨
- その業務が1か月間に行われる日数が、当該派遣就業に係る派遣先に雇用される通常の船員の1か月間の所定労働日数に比し相当程度少なく、かつ、国土交通大臣の定める日数以下である業務について船員派遣をするときは、その旨並びに当該業務が1か月間に行われる日数及び当該派遣先に雇用される通常の船員の一月間の所定労働日数
- 当該派遣先に雇用される船員が産前産後休業、育児休業、並産後休業若しくは育児休業に後続する休業であって母性保護若しくは子の養育をするためのものをする場合における当該船員の業務について船員派遣をするときは、産前産後休業、育児休業、又は産前産後休業若しくは育児休業に後続する休業であって母性保護又は子の養育をするためのものをする船員の氏名及び業務
- 産前産後休業、育児休業、又は産前産後休業若しくは育児休業に後続する休業であって母性保護又は子の養育をするためのものをする場合における休業の開始及び終了予定の日
- 当該派遣先に雇用される船員が介護休業をし、及び介護休業に後続する休業であって対象家族を介護するためにする休業について船員派遣をするときは、介護休業又は介護休業に後続する休業であって対象家族を介護するためにする休業をする船員の氏名及び業務
- 介護休業又は介護休業に後続する休業であって対象家族を介護するためにする休業の開始及び終了予定の日
- 派遣先への通知の内容
派遣先の義務
船員派遣契約に関する措置 | 船員派遣契約の定めに反することのないように適切な措置を講じなければならない |
適正な派遣就業の確保等 | 指揮命令の下に労働させる派遣船員から当該派遣就業に関し苦情の申出を受けたときは、当該苦情の内容を当該船員派遣元事業主に通知するとともに、当該船員派遣元事業主との密接な連携の下に、誠意をもって、遅滞なく、当該苦情の適切かつ迅速な処理を図らなければならない |
指揮命令の下に労働させる派遣船員について、当該派遣就業が適正かつ円滑に行われるようにするため、適切な就業環境の維持、陸上における宿泊、休養、医療及び慰安の施設等の施設であつて現に当該派遣先に雇用される船員が通常利用しているものの利用に関する便宜の供与等必要な措置を講ずるように努めなければならない |
船員派遣の役務の提供を受ける期間
派遣先は、以下の業務を除き、派遣船舶ごとの同一の業務について、船員派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して船員派遣の役務の提供を受けることはできません。
業務の内容 | 期間が定められている場合 | 期間が定められていない場合 |
---|---|---|
事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務であって一定の期間内に完了することが予定されているもの | 定められている期間 | 1年 |
その業務が1か月間に行われる日数が、当該派遣就業に係る派遣先に雇用される通常の船員の1か月間の所定労働日数に比し相当程度少なく、かつ、国土交通大臣の定める日数以下である業務 | 定められている期間 | 1年 |
当該派遣先に雇用される船員が産前産後休業、育児休業、並産後休業若しくは育児休業に後続する休業であって母性保護若しくは子の養育をするためのものをする場合における当該船員の業務 | 定められている期間 | 1年 |
当該派遣先に雇用される船員が介護休業をし、及び介護休業に後続する休業であって対象家族を介護するためにする休業について船員派遣をするときは、介護休業又は介護休業に後続する休業をする場合における当該船員の業務 | 定められている期間 | 1年 |
派遣先は、派遣船舶ごとの同一の業務について、船員派遣元事業主から1年を超え3年以内の期間継続して船員派遣の役務の提供を受けようとするときは、あらかじめ、当該船員派遣の役務の提供を受けようとする期間を定める必要があります。
派遣先がこの期間を定めるに当たっては、次の事項を書面に記載し、当該船員派遣の期間の終了の日から3年間保存しなければなりません。
- 意見を聴いた船員の過半数で組織する労働組合(過半数組合)の名称又は過半数代表者の氏名
- 過半数組合又は過半数代表者に通知した事項及び通知した日
- 過半数組合又は過半数代表者から意見を聴いた日及び当該意見の内容
- 意見を聴いて、船員派遣の役務の提供を受けようとする期間又は変更しようとする期間を変更したときは、その変更した期間
派遣先は、この期間を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、当該派遣先の事業所に、船員の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合に対し、船員の過半数で組織する労働組合がない場合においては船員の過半数を代表する者に対し、当該期間を通知し、その意見を聴くものとされています。
この場合は、当該過半数組合又は過半数代表者に、やむを得ない事由によりあらかじめ書面の交付による通知ができない場合において、書面の交付以外の方法により通知したときを除き、次の事項を書面の交付により通知するものとされています。また、当該過半数組合又は過半数代表者から請求があったときは、遅滞なく、当該事項を記載した書面を交付しなければなりません。
- 船員派遣の役務の提供を受けようとする業務
- 船員派遣の役務の提供を受けようとする期間を新たに定める場合にあっては当該船員派遣の役務の提供を受けようとする期間及び開始予定時期、船員派遣の役務の提供を受けようとする期間を変更しようとする場合にあつては当該変更しようとする期間
派遣先は、船員派遣契約の締結後に当該船員派遣契約に基づく船員派遣に係る業務について船員派遣の役務の提供を受ける期間を定め、又はこれを変更したときは、速やかに、当該船員派遣をする船員派遣元事業主に対し、当該業務について派遣可能期間に抵触することとなる最初の日を書面等により通知しなければなりません。
過半数代表者
過半数代表者は、船長、甲板部、機関部又は無線部の最上位にある職員で航海当直をしない者及び事務長でない者に限られ、意見を聴取される者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者でなければなりません。該当する者がいない事業所にあっては、聴取される者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続によって選出します。
派遣船員の雇入れ
派遣先は、派遣船舶ごとの同一の業務について船員派遣元事業主から継続して1年以上派遣可能期間以内の期間船員派遣の役務の提供を受けた場合において、引き続き当該同一の業務に船員を従事させるため、当該船員派遣の役務の提供を受けた期間(派遣実施期間)が経過した日以後船員を雇い入れようとするときは、当該同一の業務に派遣実施期間継続して従事した派遣船員であって次のいずれにも適合するものを、遅滞なく、雇い入れるように努めなければなりません。
- 派遣実施期間が経過した日までに、当該派遣先に雇い入れられて当該同一の業務に従事することを希望する旨を当該派遣先に申し出たこと
- 派遣実施期間が経過した日から起算して7日以内に当該船員派遣元事業主との雇用関係が終了したこと
派遣先は、派遣可能期間に抵触することとなる最初の日以降継続して船員派遣を行わない旨の通知を受けた場合において、当該船員派遣の役務の提供を受けたならば派遣可能期間に抵触することとなる最初の日以降継続して通知を受けた派遣船員を使用しようとするときは、当該抵触することとなる最初の日の前日までに、当該派遣船員であって当該派遣先に雇い入れられることを希望するものに対し、雇入契約の申込みをしなければなりません。
また、派遣船舶ごとの以下の同一の業務について、船員派遣元事業主から3年を超える期間継続して同一の派遣船員に係る船員派遣の役務の提供を受けている場合において、当該同一の業務に船員を従事させるため、当該3年が経過した日以後船員を雇い入れようとするときは、当該同一の派遣船員に対し、雇入契約の申込みをしなければなりません。
- 事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務であって一定の期間内に完了することが予定されているもの
- その業務が1か月間に行われる日数が、当該派遣就業に係る派遣先に雇用される通常の船員の1か月間の所定労働日数に比し相当程度少なく、かつ、国土交通大臣の定める日数以下である業務
- 当該派遣先に雇用される船員が産前産後休業、育児休業、並びに産後休業若しくは育児休業に後続する休業であって母性保護若しくは子の養育をするためのものをする場合における当該船員の業務
- 当該派遣先に雇用される船員が介護休業をし、及び介護休業に後続する休業であって対象家族を介護するためにする休業について船員派遣をする場合における当該船員の業務
派遣先責任者
派遣先責任者とは、派遣就業に関し、法令や船員派遣契約の定め等の内容を指揮命令する職務上の地位にある者その他の関係者に周知し、苦情の処理に当たり、船員の安全及び衛生に関する業務を統括管理する者並びに当該船員派遣元事業主との連絡調整等を行う責任者のことを指します。
派遣先は、派遣船舶ごとに、自己の雇用する者の中から、事業所に専属の派遣先責任者として選任する必要があります。事業所の派遣先責任者の数は1名以上とされていますが、派遣船舶において派遣先がその指揮命令の下に労務に従事させる派遣船員の数が100人を超えるごとに1名以上を選任する必要があります。
派遣先管理台帳
船員派遣元事業主は、船員派遣元事業主の事業所ごとに、派遣就業に関し、派遣元管理台帳を作成し、当該台帳に派遣船員ごとに次の事項を記載し、3年間保存しなければなりません。
派遣先は、派遣船舶ごとに、派遣就業に関し、派遣先管理台帳を作成し、当該台帳に派遣船員ごとに次の事項を記載し、3年間保存しなければなりません。
- 船員派遣元事業主の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
- 派遣就業をした日
- 派遣就業をした日ごとの労働時間
- 従事した業務の種類
- 派遣船員から申出を受けた苦情の処理に関する事
- 派遣船員の氏名
- 船員派遣元事業主の事業所の名称及び所在地
- 派遣先責任者及び派遣元責任者に関する事項
- 事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務であって一定の期間内に完了することが予定されているものについて船員派遣をするときは、その旨
- その業務が1か月間に行われる日数が、当該派遣就業に係る派遣先に雇用される通常の船員の1か月間の所定労働日数に比し相当程度少なく、かつ、国土交通大臣の定める日数以下である業務について船員派遣をするときは、その旨並びに当該業務が1か月間に行われる日数及び当該派遣先に雇用される通常の船員の一月間の所定労働日数
- 当該派遣先に雇用される船員が産前産後休業、育児休業、並びに産後休業若しくは育児休業に後続する休業であって母性保護若しくは子の養育をするためのものをする場合における当該船員の業務について船員派遣をするときは、産前産後休業、育児休業、又は産前産後休業若しくは育児休業に後続する休業であって母性保護又は子の養育をするためのものをする船員の氏名及び業務
- 産前産後休業、育児休業、又は産前産後休業若しくは育児休業に後続する休業であって母性保護又は子の養育をするためのものをする場合における休業の開始及び終了予定の日
- 当該派遣先に雇用される船員が介護休業をし、及び介護休業に後続する休業であって対象家族を介護するためにする休業について船員派遣をするときは、介護休業又は介護休業に後続する休業であって対象家族を介護するためにする休業をする船員の氏名及び業務
- 介護休業又は介護休業に後続する休業であって対象家族を介護するためにする休業の開始及び終了予定の日
- 派遣先への通知の内容
派遣先は、上記の事項を船員派遣元事業主に通知する必要があります。なお、派遣船員ごとの氏名、派遣就業をした日並びに派遣就業をした日ごとの労働時間については、1か月ごとに1回以上、一定の期日を定めて、書面の交付等により通知する必要があります。また、船員派遣元事業主から請求があつたときは、これらの事項を、遅滞なく、書面の交付等により通知しなければなりません。
まとめ
内容が大ボリューム、かつ「派遣元」と「派遣先」とで同じような規定が存在するため、読み進めていくうちに混乱をきたした方も多いのではないかと思います。労働基準法とはまったく異なる体系の船員法とは違い、基本的には一般労働者に適用される「労働者派遣事業法」を踏襲した内容となっているため、労働者派遣事業法に馴染みのある方であれば、割とすんなり受け入れられるように思います。
船員労働の特殊性については、様々な記事において発信しているとおりです。船員の雇用については、船員法や船員職業安定法といった船員労働法規に精通した専門家に相談することができる環境を整えることが重要です。弊所においても船員労働や雇用に関するサポートを取り扱っておりますので、海や船舶の手続きのほか、これらのご相談についてもどうぞお気軽にお問い合わせください。