屋形船営業に関する手続きのご案内
こちらに添付している画像の数々は、かつて乗船した大阪天満橋の屋形船上において撮影した大阪の夜景です。普段見慣れたはずの大阪の街並みも、船上から眺めているとまた違った趣(おもむき)があることに気づかされます。
件数こそ多くはありませんが、当事務所では海事代理士事務所として屋形船営業に関するご相談を承ることがあります。海や河川は公共の場ですから、船舶を使用して営業を行うときには然るべき手続きを経る必要があるのです。
そこで本稿では、過去画像から屋形船紀行を回顧しつつ、屋形船の法的取扱い及び必要とされる手続きについて、ざっくりとご案内させていただこうと思います。
法律上の位置づけ
海上運送法では、海上(湖、沼又は川を含む)において船舶により人又は物の運送をする事業を船舶運航事業として定義していますが、航路、旅客定員、対象旅客及び日程表(時刻表)の有無といった要件の違いによって、事業区分はさらに細分化されています。
法律上、「屋形船」という事業を独立して定義する規定は特に存在していませんが、遊覧船の一形態として捉えることができるため、実態に応じて、一般旅客定期航路事業、旅客不定期航路事業又は人の運送をする内航不定期航路事業の3タイプのいずれかに該当するものと思われます。
一般旅客定期航路事業 | 旅客船(13人以上の旅客定員を有する船舶)により、2地点間や寄港地のある一定の航路において、定時運航で不特定の人の乗合運送を行う事業 |
旅客不定期航路事業 | 旅客船(13人以上の旅客定員を有する船舶)により、起終点が同じで寄港地のない一定の航路において、人の運送を行う事業 |
人の運送をする内航不定期航路事業 | ①非旅客船(旅客定員が12人以下の船舶)により人の運送を行う事業 ②旅客船(13人以上の旅客定員を有する船舶)により人の運送を行う事業のうち、年間(暦年)3日間以内に限り、かつ、一定の航路に就航しないもの |
必要となる手続き
営業許可を取得すべきケースもあれば、届出のみで手続きが完結するケースもあり、どの事業区分に該当するのかによって、必要とされる手続きは大きく異なります。
なお、年1〜2回程度自慢のクルーザーを出して友人数人と船上パーティーを楽しむ程度の行為であれば、金銭の受け渡しがない限り個人の自由の範疇として許可申請も届出も不要です。
手続き | 一般旅客定期航路事業 | 旅客不定期航路事業 | 人の運送をする不定期航路事業 |
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事業の開始 | 許可申請 | 許可申請 | 届出 |
事業計画変更 | 認可申請 ※軽微な変更は届出 | 認可申請 ※軽微な変更は届出 | 届出 |
船舶運航計画 | 届出 | − | − |
運賃料金の設定 | 届出 | 届出 | 営業所・発着場所掲示 船内公示 |
運賃料金の変更 | 届出 | 届出 | − |
運送約款の設定(※) | 認可申請 | 認可申請 | 営業所・発着場所掲示 船内公示 |
運送約款の変更 | 認可申請 | 認可申請 | − |
事業の譲渡譲受等 | 届出 | 届出 | − |
事業の休廃止 | 届出 | 届出 | 届出 |
住所、氏名・名称、役員の変更 | 届出 | 届出 | 届出 |
上記はあくまでも海上運送法に基づく事業区分であるため、他の法令による規制に優先するものではありません。
たとえば海上及び一定の水面において操業する屋形船上で釣りを興じさせることは「遊漁」に該当し、併せて遊漁船業としての登録を受ける必要がありますし、船上で飲食を提供する事業を営もうとするときは、飲食店としての営業許可が必要になります。
以上を踏まえると、私が乗船した屋形船は、日程表に沿わず航行する旅客定員13人以上の旅客船による不特定多数の旅客を対象とした遊覧事業であることから旅客不定期航路事業に該当し、遊漁をさせず、飲食を提供していることから、遊漁船ではない移動式の飲食店であるものと推察します。
なお、航路を利用するマナーとして、組合があれば組合に挨拶しておくことが慣例となっています。旧態然とした習わしであるような印象を受けますが、気持ち良く航路を利用するためには必要なことなのかもしれません。
必要となる資格
船舶を航行させる以上、船舶を操縦するための免許を保有していることが大前提になりますが、保有する免許が小型船舶操縦士免許である場合は、併せて特定操縦免許を取得する必要があります。
特定操縦免許は、自動車でいうところの二種免許に相当するものですが、小型旅客安全講習を受講することによって、比較的簡単に取得することができるため、未取得であれば早めに受講することをお薦めしておきます。
なお、総トン数20トン以上の船舶を操縦するためには小型船舶操縦士免許では足りず、海技免状を保有する必要があります。
以上が操縦者に関する資格ですが、自動車免許と自動車があっても未登録の車両を公道で走行させることができないことと同様に、使用する船舶については、登録や登記といった適正な手続きを経る必要があります。
まとめ
日常の中の非日常を体験することができる屋形船は、同時に危険と隣り合わせの空間でもあります。それゆえ事業者に対しては複雑な手続きを経由することが要求されますが、海や船舶の法令に精通していることは少ないことから、計画が思うように進行しないことは珍しいことではありません。手続きは海と船に情熱を傾ける海事代理士に任せて、船上での演出や飲食メニューの開発に注力することをお薦めいたします。