漁業権とは│知られざる漁業の世界
漁業権とは、定置漁業権、区画漁業権及び共同漁業権の総称で、一定の水面において特定の漁業を一定の期間排他的に営む権利のことを指します。
日本の漁業権は、沿岸漁業の秩序維持と漁民の経済的保護を目的に、漁業法において公法上の権利として定められています。本質はどちらかと言えば特許権に近いものがあり、古来より存在する日本漁業の慣習を、近代的に整備して法制化した制度です。
漁業権は、漁業権制度及び沿岸漁場管理制度を合わせた全体計画として、都道府県知事が5年ごとに作成する海区漁場計画及び内水面漁場計画において設定され、申請に基づいて行政庁が免許を付与することにより行使されます。
なお、漁業権を分割し、又は変更しようとする場合も、都道府県知事に申請して、その免許を受けなければならないものとされています。
漁業権の種類
定置漁業権 | 定置漁業を営む権利 |
区画漁業権 | 区画漁業を営む権利 |
共同漁業権 | 共同漁業を営む権利 |
漁業法においては、上記3つの漁業権が認められていますが、便宜上、このほかにも「団体漁業権」や「入漁権」といった権利を漁業権に含めることもあります。なお、都道府県知事は、漁業調整その他公益上必要があると認めるときは、海区漁業調整委員会の意見を聴いたうえで、漁業権に条件を付けることができます。
定置漁業
定置漁業とは、漁具を定置して営む漁業であって、次のいずれかに該当するものをいいます。漁業権の存続期間は、免許の日から起算して5年、又は都道府県知事が海区漁場計画若しくは内水面漁場計画において定めたこの期間より短い期間とされています。
- 身網の設置される場所の最深部が最高潮時において水深27m(沖縄県にあっては15m)以上であるもの(瀬戸内海におけるます網漁業並びに陸奥湾における落とし網漁業及びます網漁業を除く)
- 北海道においてさけを主たる漁獲物とするもの
区画漁業
区画漁業とは、いわゆる養殖業のことを指し、その態様によって、以下のように第一種区画漁業から第三種区画漁業に区分されています。漁業権の存続期間は、免許の日から起算して5年、又は都道府県知事が海区漁場計画若しくは内水面漁場計画において定めたこの期間より短い期間とされていますが、真珠養殖業、築堤式養殖業又は網仕切り式養殖業については、免許の日から起算して10年、又は都道府県知事が海区漁場計画若しくは内水面漁場計画において定めたこの期間より短い期間とされています。
第一種区画漁業 | 一定の区域内において石、瓦、竹、木その他の物を敷設して営む養殖業 |
第二種区画漁業 | 土、石、竹、木その他の物によって囲まれた一定の区域内において営む養殖業 |
第三種区画漁業 | 一定の区域内において営む養殖業であって上記以外のもの |
共同漁業
共同漁業とは、次の漁業であって一定の水面を共同に利用して営むものをいいます。漁業権の存続期間は、免許の日から起算して10年、又は都道府県知事が海区漁場計画若しくは内水面漁場計画において定めたこの期間より短い期間とされています。
第一種共同漁業 | 藻類、貝類又は農林水産大臣の指定する定着性の水産動物を目的とする漁業 |
第二種共同漁業 | 海面(海面に準ずる湖沼として農林水産大臣が定めて告示する水面を含む)のうち農林水産大臣が定めて告示する湖沼に準ずる海面以外の水面(特定海面)において網漁具(えりやな類を含む)を移動しないように敷設して営む漁業であつて定置漁業以外のもの |
第三種共同漁業 | 特定海面において営む地びき網漁業、地こぎ網漁業、船びき網漁業(動力漁船を使用するものを除く)、飼付漁業又はつきいそ漁業 |
第四種共同漁業 | 特定海面において営む寄魚漁業又は鳥付こぎ釣漁業 |
第五種共同漁業 | 内水面(海面以外の水面)又は農林水産大臣が定めて告示する湖沼に準ずる海面において営む漁業であって第一種共同漁業以外のもの |
団体漁業権
団体漁業権とは、その内容たる漁業を自ら営まない漁業協同組合又は漁業協同組合連合会が免許を受けた区画漁業権又は共同漁業権のことをいいます。
団体漁業権を有する漁業協同組合又は漁業協同組合連合会は、漁場における漁業生産力を発展させるため、組合員が相互に協力して行う生産の合理化、組合員による生産活動のための法人の設立その他の方法による経営の高度化の促進に関する計画を作成し、定期的に点検を行うとともに、その実現に努めるものとされています。
入漁権
入漁権とは、設定行為に基づき、団体漁業権に属する漁場において当該団体漁業権の内容たる漁業の全部又は一部を営む権利をいいます。
漁業権の性質
漁業権は、公法上の権利でありながら、民法における物権のひとつとみなされ、土地に関する規定が準用されます。したがって、たとえば個別漁業権について抵当権を設定したり、先取特権の目的とすることも可能です。また、個別漁業権について抵当権を設定した場合における漁場に定着した工作物は、漁業権に付加してこれと一体を成す物とみなされます。これは個別漁業権が先取特権の目的である場合も同様です。
ただし、漁業権を貸付けの目的とすることはできず、また、個別漁業権を目的とする抵当権の設定は都道府県知事の認可を受けなければ効力は発生せず、相続又は法人の合併若しくは分割による場合を除き移転の目的とすることもできません。このように、漁業権の処分には一定の制限が存在し、このことから漁業権は、私法上の「制限付物権」であるものと捉えることができます。
そのほかにも漁業権については、以下のような取扱いがなされています。
水面使用の権利義務 | 漁業権者が有する水面使用に関する権利義務は、漁業権の処分に従う |
登録した権利者の同意 | 漁業権は、登録した先取特権若しくは抵当権を有する者又は登録した入漁権を有する者の同意を得なければ、分割し、変更し、又は放棄することができない |
漁業権の共有 | 漁業権の各共有者は、他の共有者の3分の2以上の同意を得なければ、その持分を処分することができない |
先取特権者及び抵当権者の保護 | 登録先取特権者等は、都道府県知事から漁業権を取り消した旨の通知を受けた日から30日以内に漁業権の競売を請求することができる(公益上の必要による漁業権の取消し又は錯誤によってした免許の取消しの場合を除く) |
競売による売却代金は、競売の費用及び登録先取特権者等に対する債務の弁済に充て、その残金は国庫に帰属する | |
買受人が代金を納付したときは、漁業権の取消しは、その効力を生じなかつたものとみなす | |
漁場に定着した工作物の買取り | 漁場に定着する工作物を設置して漁業権の価値を増大させた漁業権者は、その漁業権が消滅したときは、その消滅後に当該工作物の利用によって利益を受ける漁業の免許を受けた者に対し、時価で当該工作物を買い取るべきことを請求することができる |
注意すべき点
漁業権に基づく漁業を営む権利を侵害する行為は、漁業権侵害罪に該当することがあります。ただ、漁業権はあくまでも「特定の漁業を排他的に営むための権利」であるため、漁場そのものを排他的に支配する権利ではありません。このような事情から、漁業権の侵害について画一的な判断基準を設けることは困難であるとされていますが、水産庁においては以下のような基準を示して、その様態を類型化しています。
- 敷設若しくは使用中の漁具又は養殖施設の毀損等によって、現実に採捕又は養殖行為を妨害する他人の行為
- 以下のような他人の行為であって、漁場内における漁業の価値を量的又は質的に減少又は毀損する場合
- 漁場内における採捕又は養殖の目的物たる水産動植物を採捕する行為
- 水質の汚濁や工作物の設置等によって、漁場内における採捕又は養殖の目的物たる水産動植物の棲息及び来遊等を阻害する行為
漁業は国民に対して水産物を供給する使命を有していおり、その使命の実現のためには漁業者の秩序ある生産活動が不可欠です。漁業法においては、水産資源の保存及び管理のための措置並びに漁業の許可及び免許に関する制度その他の漁業生産に関する基本的制度を定めて、水産資源の持続的な利用の確保を図っています。
いずれにせよ、漁業が持続的に発展するためには国民全体で共通意識を持つことが必要です。まずは遵法精神に則ったうえで、基本的制度についてしっかりと把握することを心がけるようにしましょう。