小型船舶操縦士免許

モーターボートや水上オートバイは、年代を問わず根強い人気を誇るマリンスポーツですが、これらに代表される小型船舶は、皆さまにとって最も身近に感じる船舶であるように思います。

船舶を操縦するためには、自動車運転でいうところの自動車運転免許に相当する免許が必要になりますが、広く認知されている自動車運転免許とは異なり、その取得方法は一般にはあまり知られていません。

そこで本稿では、改めて小型船舶に関する基礎知識に触れるとともに、小型船舶を操縦するために必要となる免許の取得方法や手続きについて詳しく解説していきたいと思います。

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小型船舶とは

船舶とはいえ、筏(いかだ)と軍艦とではまったく別物であることはご理解いただけるように思います。バイクや自動車にも原付や特殊車両といった区分が存在するのと同様に、船舶にもまた様々な区分が存在しています。

船舶職員及び小型船舶操縦者法(以下、小型船舶操縦者法)では、以下のいずれかに該当する船舶であって、漁船やろかい船以外のものを小型船舶として定義しています。

  • 総トン数20トン未満の日本船舶
  • 総トン数20トン未満の日本船舶以外の船舶であって、国内の各港間又は湖、川若しくは港のみを航行するもの
  • 総トン数20トン以上のプレジャーボートであって、次の要件をすべて満たすもの
    • 一人で操縦を行う構造であるもの
    • 長さが24m未満であるもの
    • スポーツ又はレクリエーションのみに用いられるもの(漁船や旅客船等の業務に用いられないもの)

具体的には、プレジャーボート、モーターボート、ホバークラフト、エンジン付ヨット、水上オートバイ及び海上タクシー等であって。上記のいずれかに該当するものが小型船舶として取り扱われています。

未登録の自動車が公道を走行することができないことと同様に、登録を受けた後でなければ、原則として船舶を航行することはできません。(臨時航行を除く)

小型船舶操縦士免許

前述した小型船舶を操縦するために必要となる免許が、一般的に「ボート免許」と呼ばれる小型船舶操縦士免許です。小型船舶操縦者法では、小型船舶操縦士免許を受けた者を小型船舶操縦士として定義し、海技従事者の一つに位置づけています。

下表が小型船舶操縦士免許の免許区分ですが、取得する免許区分ごとに操縦することができる船の大きさや航行区域が細かく定められています。

免許区分操縦できる船の大きさ航行区域取得可能年齢
一級小型船舶操縦士総トン数20トン未満または特定の条件を満たす全長24m未満制限無し満18歳以上(満17歳9か月より受験可能)
二級小型船舶操縦士総トン数20トン未満または特定の条件を満たす全長24m未満平水区域および海岸から5海里(約9km)以内満16歳以上(満15歳9か月より受験可能)
ニ級小型船舶操縦士(湖川小出力限定)
総トン数5トン未満エンジン20馬力未満湖川、一部の海域満16歳以上(満15歳9か月より受験可能)
特殊小型船舶操縦士特殊小型船舶(水上オートバイ)制限無し満16歳以上(満15歳9か月より受験可能)
限定解除

18歳に達するまでの間は、小型船舶の操縦には5トン未満という限定条件が付されます。したがって、免許取得者が18歳に達した時には、特に手続きを経ることなく自動的にこの限定が解除されたものとみなされます。

海技士免状との関係

機関長又は通信長の設置を必要とする小型船舶の場合は、一級小型船舶操縦士のほかに海技士免状を有する者を乗務に当たらせる必要があります。逆に総トン数20トン未満の船舶の場合は、海技士免状のみではこれを操縦することができず、小型船舶操縦士を乗務に当たらせる必要があります。

特殊小型船舶操縦士免許

特殊免許では水上オートバイ以外の船舶を操縦することが出来ませんが、逆に一級又は二級小型船舶操縦士免許では水上オートバイを操縦することは出来ません。これはバイクと自動車の免許の違いのようなもので、大型自動車運転免許を保有していても、普通自動二輪車を運転することが出来ないことと理屈は同じです。

なお、特殊小型船舶操縦士自体に航行区域の制限は設けられていませんが、水上オートバイについては、海岸から2海里(約3.7km)以内(水上オートバイを降ろした地点から沿岸方向に15海里(約27.8km)以内)という制限区域が設けられています。

特定操縦免許

旅客船や遊漁船など旅客を輸送するための船舶を操縦する場合は、一級又は二級小型船舶操縦士免許のほかに特定操縦免許も必要となります。特殊小型船舶操縦士免許と名称が類似していますが、特定操縦免許は自動車免許における二種免許に相当する免許です。

免許が不要な船舶

以下の要件をすべて満たす船舶については、危険性が低いことから、特に免許や船舶検査を受けることなく操船を行うことができます。

  • 登録長が3m未満であるもの
  • 推進機関の出力が1.5kw(約2馬力)未満であるもの
  • 直ちにプロペラの回転を停止することができる機構を有する船舶、その他プロペラによる人の身体の傷害を防止する機構を有する船舶
★登録長の計算式

登録長 ≒ 船の全長 × 0.9

免許の取得方法

免許の取得方法には、受験コースと教習所コースの2つのルートがあり、免許を取得しようとするときは、どちらかのコースを選択して免許取得を目指します。

このうち受験コースは、いわゆる「飛び込み」と言われる免許取得方法ですが、完全独学では実技に対応するのが困難ということもあり、通常は教習所やスクールで実技講習を受講する方法が一般的です。

試験の合格率も90%を超えており、しっかり対策していればそこまで難しい試験ではありません。

受験コース

一般財団法人日本海洋レジャー安全・振興協会が実施する国家試験(身体検査、学科試験及び実技試験)を受験して合格することにより免許を取得する方法です。

教習所コース

国土交通省に登録されている登録小型船舶教習所(水産海洋系高校、海上技術学校、海上技術短期大学校、及び一般財団法人日本船舶職員養成協会等の各種民間企業等)に入校(入学)して免許取得を目指すコースです。

カリキュラム履修後に国家試験と同じ内容の修了試験に合格すると修了となり、修了証明書が交付されます。この証明書に必要書類を添付して、一般財団法人日本海洋レジャー安全・振興協会に受検申請を行うと、学科試験と実技試験が免除され、身体検査のみを受検することになります。

身体検査

小型船舶操縦士免許に高い身体能力は求められませんが、身体的事項について検査が行われ、その適合性が判断されます。

視力両眼ともに矯正視力込みで0.5以上あること(片眼の視力が0.5に満たない場合、0.5以上見えるほうの眼の視野が150度以上あること)
色覚夜間において船舶の灯火(赤、緑、白)が識別できること
聴力5m以上離れた距離で話声語が識別できること(矯正可)
疾病及び身体機能の障害疾病または身体機能の障害があっても軽症で業務に支障をきたさないこと

学科(四肢択一)

学科試験は各科目50%以上の正答、かつ総合65%以上の正答が合格基準です。海技士(航海)を保有する場合は、学科試験のうち「交通の方法」「運航(特殊の「運航」は除く)」「上級運航Ⅰ」が免除され、海技士(機関)を保有する場合には、「上級運航Ⅱ」が免除されます。

一般科目
小型船舶操縦者の心得及び遵守事項12問中6問以上の正答で合格
交通の方法一級、二級は14問中7問以上の正答で合格、特殊は10問中5問以上の正答で合格
運航一級、二級は24問中12問以上の正答で合格、特殊は18問中9問以上の正答で合格
上級科目(一級のみ)
上級運航I 8問中4問以上の正答で合格
上級運航II 6問中3問以上の正答で合格

実技

一級又は二級操縦士免許は、総トン数5トン未満長さ4m以上9m未満の滑走型船、特殊免許は定員3名の水上オートバイを用いて行います。

小型船舶の取扱い
発航前の準備及び点検、解らん及び係留、結索、方位測定一級、二級
発航前の準備及び点検特殊
操縦(一級、二級)
基本操作安全確認(見張り及び機関の状態確認)、発進、直進及び停止、後進、変針、旋回及び連続旋回
応用操縦回頭(5トン限定無し)、人命救助、避航操船、離岸及び着岸
操縦(特殊)
安全確認、発進、直進及び停止、後進、変針、旋回及び連続旋回、危険回避、人命救助

免許の更新

小型船舶操縦士免許証の有効期間は5年間です。免許そのものは終身有効の永久ライセンスですが、免許の更新を受けずに有効期間が満了したときは、小型船舶操縦士免許証(又は海技免状)が失効し、小型船舶に船長として乗船することができなくなってしまいます。仮に有効期間を過ぎてしまった場合には、更新ではなく後述する失効再交付の手続きを行います。

免許の更新は、最寄りの運輸局等においておいて有効期間満了日の1年前から申請することができますが、住所又は氏名等に変更があった場合は、変更があったことを証明するための書類が必要になります。

更新の要件

免許を更新する際に、新たに試験(身体検査を除く)を受ける必要はありませんが、更新の申請までに以下の基準を満たす必要があります。

  • 更新講習機関の身体検査員又は医師による身体検査を受検し身体検査基準を満たしていること
  • 講習を修了し、又は以下のいずれかの乗船履歴を有することから
    • 船長として1か月以上の乗船履歴を有すること
    • 国土交通大臣が認める乗船履歴を有する者と同等以上の知識及び経験を有していると地方運輸局長が認める職務に一定期間従事していたこと

更新講習

更新講習は登録講習実施機関が全国各地で実施しており、身体検査を含めて約2時間程度で修了します。更新の要件となる身体検査も併せて受検することができますが、身体検査のみ受検することはできません。

なお、更新講習は各免許区分で共通のものを受講するため、一級又は二級小型船舶操縦士免許と特殊小型船舶操縦士免許の両方の資格を所有している方は、1回の受講で講習に関する要件を満たすことができます。

失効再交付

更新手続きをせずに免許を失効させてしまった場合は、失効再交付を申請することにより有効な免許証が再交付されます。失効再交付講習は、登録講習実施機関が全国各地で実施しており、身体検査を含めて半日程度で修了します。

訂正

氏名、本籍地(同一都道府県内での本籍地変更を除く)、住所若しくは生年月日に変更が生じたとき、 又は免許証の記載に誤りがあることを発見したときは、遅滞なく、運輸局等に対して免許証及び登録事項の訂正を申請する必要があります。

また、更新又は失効再交付申請と同時に訂正を申請することもできます。

紛失(滅失・毀損)再交付

小型船舶操縦免許証を失ったとき、又は汚したり傷つけてしまったときは、運輸局等で免許証の番号や有効期限等を確認し、紛失(滅失・毀損)再交付申請をすることにより再交付を受けることができます。

また、訂正申請と同様に、更新又は失効再交付申請と同時に紛失(滅失・毀損)再交付を申請することもできます。

必要となる費用

ご自身でお手続きをされる場合、海事代理士報酬は不要ですが、交通費、通信費及び郵送費等の諸経費が必要となります。海事代理士による代行を希望される方は、本稿最下段に記載のある連絡先までお気軽にご連絡ください。

手続講習受講料身体検査料収入印紙代海事代理士
報酬及び諸実費
合計額
①更新3,700円800円1,350円5,500円10,100円
②失効再交付8,600円800円1,250円5,500円16,100円
③訂正のみ1,250円5,500円4,600円
④紛失再交付のみ1,250円5,500円5,600円
⑤更新or失効再交付+訂正6,600円①or
②+1,000円
⑥更新or失効再交付+紛失再交付7,700円①or
②+2,000円
⑦更新or失効再交付+訂正+紛失再交付7,700円①or
②+2,500円
⑧紛失再交付+訂正1,250円5,500円4,600円

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