マグロでも分かる船員法の解説⑨【災害補償編】

船員法は、船員の雇入契約や給料、労働時間、有給休暇などを定めた法律であり、一般労働者で言うところの、労働基準法にあたる法律です。
船員労働には、長時間陸上から孤立し、「労働」と「生活」とが一致した24時間体制の就労があり、かつ、常に動揺にさらされる船内では、危険な作業をともなうなどの特殊性があることから、労働基準法とは異なる規律が必要です。そのため、船員には、厚生労働省が所管する労働基準法ではなく、国土交通省が所管する船員法が適用されます。
他方、一般社会において船員法を意識する機会はほとんどなく、改めてこれを検索しようにも、そもそも詳しく解説した文献はほとんど存在していません。
そこで当サイトでは、「マグロでも分かる海事法令」シリーズとして、「船員法」について深掘りした解説を行うことにしました。本編では、船員の「災害補償」について解説しています。労働者災害補償保険法や船員保険法の規定と重複する部分やその違い等を意識しながら読み込むようにしてください。
★船員法の構成
- 第1章 – 総則
- 第2章 – 船長の職務及び権限
- 第3章 – 紀律
- 第4章 – 雇入契約等
- 第5章 – 給料その他の報酬
- 第6章 – 労働時間、休日及び定員
- 第7章 – 有給休暇
- 第8章 – 食料並びに安全及び衛生
- 第9章 – 年少船員
- 第9章の2 – 女子船員
- 第10章 – 災害補償
- 第11章 – 就業規則
- 第11章の2 – 船員の労働条件等の検査等
- 第11章の3 – 登録検査機関
- 第12章 – 監督
- 第13章 – 雑則
- 第14章 – 罰則
- 附則
療養補償
船員が職務上負傷し、又は疾病にかかったときは、船舶所有者は、その負傷又は疾病がなおるまで、その費用で療養を施し、又は療養に必要な費用を負担する必要があります。
また、船員が雇入契約存続中職務外で負傷し、又は疾病にかかったときは、その負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあったときを除き、船舶所有者は、3か月の範囲内において、その費用で療養を施し、又は療養に必要な費用を負担する必要があります。
★療養の内容
- 診察
- 薬剤又は治療材料の支給
- 処置、手術その他の治療
- 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
- 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
- 治療に必要な自宅以外の場所への収容(食料の支給を含む)
- 移送
傷病手当
船員が職務上負傷し、又は疾病にかかったときは、負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあったときを除き、船舶所有者は、4か月の範囲内においてその負傷又は疾病がなおるまで毎月1回、標準報酬の月額に相当する額の傷病手当を支払い、その4か月が経過してもその負傷又は疾病がなおらないときは、そのなおるまで毎月1回、標準報酬の月額の6割に相当する額の傷病手当を支払う必要があります。
標準報酬
標準報酬とは、基準日(負傷し、疾病にかかり、行方不明となり、又は死亡した日(負傷又は疾病に因り死亡した場合には、負傷し、又は疾病にかかった日))の報酬月額に基いて下表により算定します。

報酬月額
報酬月額とは、その月の報酬総額より臨時に支払われる賞与その他これに準ずる報酬を除いたものを指し、下表の規定によって算定します。
日によって報酬を定めるとき | 日額の30倍 |
日又は月以外の期間によって報酬を定めるとき | その報酬の額をその期間の日数で除して得た額の30倍 |
歩合による報酬(※) | 歩合制度の種類ごとに、労働協約又は船舶所有者とその使用する船員の過半数を代表する者との協議によって基準日の前1年以内又はその後に定めた額(これによることができないときは、所轄地方運輸局長が定めた額) |
複数に該当する報酬を受けるとき | その各々について、上記の規定によって算定した額の合算額 |
予後手当
船舶所有者は、負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあったときを除き、船員の職務上の負傷又は疾病がなおった後遅滞なく、標準報酬の月額の6割に相当する額の予後手当を支払う必要があります。
障害手当
船員の職務上の負傷又は疾病がなおった場合において、なおその船員の身体に障害が存するときは、その負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあったときを除き、船舶所有者は、なおった後遅滞なく、標準報酬の月額に障害の程度に応じて定められた月数を乗じて得た額の障害手当を支払う必要があります。
第1級 | 48か月 |
第2級 | 42か月 |
第3級 | 39か月 |
第4級 | 36か月 |
第5級 | 33か月 |
第6級 | 30か月 |
第7級 | 25か月 |
第8級 | 20か月 |
第9級 | 15か月 |
第10級 | 12か月 |
第11級 | 9か月 |
第12級 | 6か月 |
第13級 | 4か月 |
第14級 | 2か月 |
障害の程度の区分
障害の程度の区分は、下表により定められており、身体障害が複数ある場合は、より重い身体障害の該当する等級によることとなります。
下表に掲げるもの以外の身体障害がある者については、その障害程度に応じ、下表に掲げる身体障害に準じて、障害手当を支払う必要があります。



また、下表のいずれかに該当する場合には、上表による等級をそれぞれ繰り上げます。ただし、その障害手当の金額は、各々の身体障害の該当する等級による障害手当の金額を合算した額を超えることはできません。
第13級以上に該当する身体障害が複数ある場合 | 1級 |
第8級以上に該当する身体障害が複数ある場合 | 2級 |
第5級以上に該当する身体障害が複数ある場合 | 3級 |
なお、既に身体障害がある者が、負傷又は疾病によって同一部位について障害の程度を加重した場合には、その加重された障害の該当する障害手当の金額より、既にあった障害の該当する障害手当の金額を差し引いた金額の障害手当を支払う必要があります。
行方不明手当
船舶所有者は、船員が職務上行方不明となったときは、3か月の範囲内において、行方不明期間中毎月1回、行方不明の期間が1か月に満たない場合を除き、被扶養者に対し、標準報酬の月額に相当する額の行方不明手当を支払う必要があります。
ここで言う「被扶養者」とは、下表のいずれかに該当する者のうち、船員の行方不明当時主としてその収入によって生計を維持していたものとされています。
第1順位 | ①船員の配偶者(婚姻の届出をしないでも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む) ②子 ③父母 ④孫 ⑤祖父母 |
第2順位 | 第1順位の者以外の船員の3親等内の親族で船員と同居のもの(親等の少ない者を先にし親等の多い者を後にすること) |
第3順位 | 船員の配偶者で婚姻の届出をしないでも事実上婚姻と同様の関係にある者の子(①)及び父母(②)で船員と同居のもの |
なお、行方不明手当を受けるべき同順位の者が2人以上あるときは、行方不明手当は、その人数により等分するものとされています。
遺族手当
船員が職務上死亡したとき又は職務上の負傷若しくは疾病により死亡したときは、船舶所有者は、遅滞なく、下表に該当する遺族に対し、標準報酬の月額の36か月分に相当する額の遺族手当を支払う必要があります。
第1順位 | 船員の配偶者(婚姻の届出をしないでも事実上婚姻と同様の関係にある者を含む) |
第2順位 | 船員の子(①)、父母(②)、孫(③)及び祖父母(④)で船員の死亡当時(失踪の宣告を受けた船員であった者にあっては、行方不明となった当時)その収入によって生計を維持し、又はこれと生計を共にしていた者 |
第3順位 | 第1順位及び第2順位の者を除き船員の死亡当時その収入によって生計を維持していた者 |
第4順位 | 船員の子(①)、父母(②)、孫(③)及び祖父母(④)で船員の死亡当時(失踪の宣告を受けた船員であった者にあっては、行方不明となった当時)その収入によって生計を維持し、又はこれと生計を共にしていなかった者 |
(※)胎児については、既に生れたものとみなされる
船員が遺言若しくは船舶所有者に対してした予告で、第3順位又は第4順位の者の中特定の者を指定した場合においては、第3順位であるか第4順位であるかにかかわらずその者を先にします。
なお、遺族手当を受けるべき同順位の者が2人以上あるときは、遺族手当は、その人数により等分するものとされています。
また、遺族手当を受けるべきであった者が死亡した場合においては、その者は遺族手当を受ける権利を失いますが、この場合においては、船舶所有者は、その死亡者を除いて遺族手当を支払う必要があります。
葬祭料
船員が職務上死亡したとき又は職務上の負傷若しくは疾病により死亡したときは、船舶所有者は、遅滞なく、遺族であって葬祭を行う者に対し、標準報酬の月額の2か月分に相当する額の葬祭料を支払う必要があります。
他の給付との関係
災害補償を受けるべき者が、その災害補償を受けるべき事由と同一の事由により労働者災害補償保険法若しくは船員保険法による保険給付又は労働基準法等の施行に伴う政府職員に係る給与の応急措置に関する法律に基いて災害補償に相当する給付を受けるべきときは、船舶所有者は、災害補償の責を免れます。
審査及び仲裁
職務上の負傷、疾病、行方不明又は死亡の認定、療養の方法、災害補償の金額の決定その他災害補償の実施に関して異議のある者は、国土交通大臣に対して審査又は事件の仲裁を申し立てることができます。
また、国土交通大臣は、必要があると認めるときは、船長その他の関係人の意見を聴いた上で、職権による審査又は事件の仲裁をすることができます。
審査又は事件の仲裁の申立て及び審査又は事件の仲裁の開始は、時効の完成猶予及び更新に関しては、これを裁判上の請求とみなします。
審査又は事件の仲裁の申立てをしようとする者は、災害補償審査(仲裁)申請書(第十七号書式)を、その住所地を管轄する地方運輸局長(又は運輸支局長等)を経由して国土交通大臣に提出する必要があります。
まとめ
船員法における災害補償の規定は、労働者災害補償保険法や船員保険法の規定と重複する部分も多いため、混同しないようこれらの法律と比較しつつ、主にその違い等を意識しながら、横断的に学んでいくようにしましょう。