漁船の登録について

青い空と漁船

漁船法では、漁船の性能の向上を図り、漁業生産力の合理的発展に資することを目的として、漁船について他の船舶とは異なる登録制度を設けています。

決して複雑な制度ではありませんが、制度の認知度が低いため、実際に手続きが必要となった際にはそれなりの苦労を強いられるのではないかと思います。

そこで本稿では、漁船法を下敷きとして、普段あまり知られることのない漁船登録制度とその手続方法について、詳しく解説していきたいと思います。

漁船とは

漁船とは、漁業の用に供する船舶のことを指しますが、漁船法ではより詳細に、以下のいずれかに該当する日本船舶を漁船として定義しています。

  • もっぱら漁業に従事する船舶
  • 漁業に従事する船舶で漁獲物の保蔵又は製造の設備を有するもの
  • もっぱら漁場から漁獲物又はその製品を運搬する船舶
  • もっぱら漁業に関する試験、調査、指導若しくは練習に従事する船舶又は漁業の取締に従事する船舶であって漁ろう設備を有するもの

また、推進機関を備える漁船については、漁船法では、特に「動力漁船」と呼称しています。(反対は「無動力漁船」)

なお、漁船については、船舶の総トン数の測度及び船名の標示に関する部分を除き、船舶法第21条の規定に基づく命令は適用されません。

漁船の登録

総トン数1トン未満の無動力漁船を除き、所有者がその主たる根拠地を管轄する都道府県知事の備える漁船原簿に登録を受けた船舶でなければ、これを漁船として使用することはできません。

要するに、小型で動力の無い船舶以外の船舶は、都道府県知事の登録を受けた後でなければ、漁船として利用することができません。

ただし、漁船の定義に「もっぱら」「漁業に従事する」という文言が付されていることから、単に自ら所有するプレジャーボートに乗船して釣りを楽しむ程度のものであれば、特に漁船として登録を受ける必要はありません。

★登録謄本の交付

何人でも、都道府県知事に対し、漁船の登録の謄本の交付を請求することができます。

登録の申請

漁船の登録を受けようとする者は、次の事項について記載した申請書を都道府県知事に提出します。

  • 申請者の氏名又は名称及び住所
  • 船名
  • 総トン数
  • 船舶の長さ、幅及び深さ
  • 船質
  • 進水年月日
  • 造船所の名称及び所在地
  • 推進機関の種類及び馬力数
  • 無線電波の型式及び空中線電力
  • 漁船の使用者の氏名又は名称及び住所
  • 主たる根拠地
  • 漁業種類又は用途
  • 漁船の建造、取得等登録の原因

必要となる書類

  • 登録申請書
  • 建造、改造及び転用の許可の通知書(建造、改造及び転用の許可を受けた動力漁船の場合)
  • 変更の許可の通知書(変更の許可を受けた動力漁船の場合)
  • 認定通知書(認定を受けた動力漁船の場合)
  • 船舶原簿に記録されている事項を証明した書面(総トン数20トン以上の動力漁船の場合)
  • 行政庁の発行した船舶の総トン数の測度に関する証明書(総トン数20トン未満の漁船の場合)

登録の基準

申請すればもれなく登録が完了するわけではなく、以下の事由のいずれかに該当する場合は、その船舶を漁船として登録することができません。

  • その申請に係る漁船について漁船の建造、改造及び転用の許可(変更の許可を含む)を受けなければならない場合において、その許可がないとき、又は許可の要件に違反しているとき
  • その申請に係る動力漁船の従事する漁業が、農林水産大臣の許可その他の処分を要する漁業又は知事許可漁業若しくは都道府県知事の許可その他の処分を要する漁業に該当する場合において、その漁業につき起業の認可を受けていることその他その漁業に必要な許可その他の処分の見込みがあると認められるものでないとき
  • その申請に係る漁船の従事する漁業が、総トン数20トン以上の動力漁船を用いる漁業に該当する場合において、その漁業につき、起業の認可又は許可その他の処分がないときその申請に係る漁船が認定を要する動力漁船である場合において、その認定がないとき
  • その申請に係る漁船が登録の取消しを受けたものであるときその申請に係る事項が虚偽であるとき

登録票

登録完了後は都道府県知事から申請者に対して登録票が交付されますが、交付を受けた者が漁船の使用者でないときは、遅滞なく、登録票を漁船の使用者に交付する必要があります。

漁船の所有者が登録票の交付(再交付含む)を受けたときは、登録票の交付を受けた者がその漁船の使用者でないときを除き、遅滞なく、登録票に記載された登録番号を漁船に表示する必要があります。

漁船の使用者は、漁船を運航し、又は操業する場合には、以下の正当とされる理由がある場合を除き、漁船の船内に登録票を備え付ける必要があります。

  • 有効な登録票を添付して登録を申請しているとき
  • 建造し、又は改造した漁船を建造又は改造後始めてその主たる根拠地まで回航するとき
  • 漁船以外の船舶を航海中に漁船として転用し、これをその転用後始めて本邦の港まで回航するとき

なお、登録を受けた漁船の所有者が登録票を亡失し、又はき損したときは、理由を付して登録票の再交付を申請することにより、登録票の再交付を受けることができます。

登録票の検認

登録票の交付を受けた者は、その交付の日から5年ごとに、登録をした漁船及び登録票について都道府県知事の検認を受ける必要があります。この検認は、都道府県知事又は指定検認機関が指定した場所及び期日において行われます。

登録票の交付を受けた者は、登録票の交付(変更登録による登録票の交付にあっては、変更に際し漁船について立入検査があったものに限る)の日又は検認の日から起算して5年を経過する日の1か月前までに、検認を受けようとする場所及び期日を都道府県知事に届け出る必要があります。

登録をした漁船及び登録票について検認が完了したときは、都道府県知事から登録票に検認証印が押印されます。

変更の登録

登録を受けた漁船の所有者は、その漁船について、以下の事項について変更が生じたときは、変更の生じた日(又は所有者からの通知を受けた日)から2週間以内に、変更の理由を付して登録をした都道府県知事に対し変更の登録(登録票の書換え)を申請する必要があります。

  • 申請者の氏名(名称)
  • 申請者の住所
  • 船名
  • 総トン数
  • 船舶の長さ、幅又は深さ
  • 推進機関の種類
  • 推進機関の馬力数
  • 無線電波の型式
  • 無線電波の空中線電力
  • 使用者の氏名(名称)
  • 使用者の住所
  • 主たる根拠地
  • 漁業種類(用途)

登録を受けた漁船の所有者がその漁船の使用者でない場合において、その漁船について推進機関の種類、推進機関の馬力数、無線電波の型式、無線電波の空中線電力、使用者の氏名(名称)、使用者の住所、主たる根拠地又は漁業種類(用途)に変更を生じたときは、使用者は、遅滞なくその旨を所有者に通知する必要があります。

登録の失効・取消し

登録を受けた漁船について以下のいずれかの事由が生じた場合、漁船の登録はその効力を失います。

  • 登録を受けた漁船が漁船でなくなったとき
  • 登録を受けた漁船が滅失し、沈没し、又は解てつされたとき
  • 登録を受けた漁船の存否が3か月間不明になったとき
  • 登録を受けた漁船が譲渡されたとき
  • 登録を受けた漁船の主たる根拠地がその登録をした都道府県知事の管轄する都道府県の区域外に変更されたとき
  • 登録を受けた漁船の所有者が死亡し、解散し、又は分割(当該漁船を承継させるものに限る)をしたとき1

また、都道府県知事は、登録を受けた漁船が規定に違反して改造されたとき、若しくは規定に違反して検認を受けないとき、又は老朽、破損等のため漁船として使用することができなくなったと認められるときは、その登録を取り消すことができるものとされています。

登録が失効し、又は登録が取り消された場合、漁船の所有者は、(返納することができない正当な理由がある場合において、その理由を付してその旨を都道府県知事に届け出たときを除き)遅滞なく、登録をした都道府県知事に登録票を返納する必要があります。23

  1. 登録を受けた漁船の所有者が死亡し、解散し、又は分割(その漁船を承継させるものに限る)をした場合において、相続人、合併により設立した法人若しくは合併後存続する法人又は分割により登録を受けた漁船を承継した法人が、死亡、解散又は分割の日から1か月以内に登録を申請したときは、これに対する登録に関する処分があるまでは、被相続人、合併により解散した法人又は分割をした法人についてした登録及びこれらの者に交付した登録票は、その効力を有し、かつ、その登録又は登録票は、その申請人についてし、又は交付したものとみなされます。 ↩︎
  2. 漁船の所有者が漁船の使用者でないときは、使用者は、遅滞なく、所有者に登録票を返還する必要があります。 ↩︎
  3. 登録が失効し、又は登録が取り消された場合、漁船の所有者(漁船の所有者がその使用者でない場合にあっては使用者)は、遅滞なく、漁船に表示された登録番号を抹消する必要があります。 ↩︎

まとめ

日本は四方を海に囲われていることもあって、古くから漁業が盛んな国です。和食には魚がつきものですし、「スシ」はいまや世界標準の食文化です。戦後本格化した肉食文化に押されつつあるものの、日本漁業の底力はまだまだ侮れません。

そもそも漁業生産力の合理的発展に資することが漁船法と漁船登録制度の目的であることから、漁船であるかそうでないかは船舶にとって重要な要素です。このため漁船に該当する船舶については、他の用途に供する船舶とは異なる独自の登録制度を設けて性能の向上が図られています。

なお、当事務所においては、おもに遊漁船の登録申請や相続等に付随して生ずる漁船登録の申請をサポートしています。単独での漁船登録申請並びに漁船の建造、改造及び転用許可の申請を含め、漁船に関する手続きでお困りの際は、当事務所までどうぞお気軽にご相談ください。

漁船登録申請22,000円/隻〜
漁船登録申請(他の手続きに付随する場合)16,500円/隻〜
建造、改造及び転用の許可申請77,000円〜
変更許可申請55,000円〜
※税込み

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