マグロでも分かる船員法の解説⑥【有給休暇編】
船員法は、船員の雇入契約や給料、労働時間、有給休暇などを定めた法律であり、一般労働者で言うところの、労働基準法にあたる法律です。
船員労働には、長時間陸上から孤立し、「労働」と「生活」とが一致した24時間体制の就労があり、かつ、常に動揺にさらされる船内では、危険な作業をともなうなどの特殊性があることから、労働基準法とは異なる規律が必要です。そのため、船員には、厚生労働省が所管する労働基準法ではなく、国土交通省が所管する船員法が適用されます。
他方、一般社会において船員法を意識する機会はほとんどなく、改めてこれを検索しようにも、そもそも詳しく解説した文献はほとんど存在していません。
そこで当サイトでは、「マグロでも分かる海事法令」シリーズとして、「船員法」について深掘りした解説を行うことにしました。本編では、船員の「有給休暇」について解説しています。条文も少なく比較的与しやすい部分なので、しっかりと確認するようにしてください。
★船員法の構成
- 第1章 – 総則
- 第2章 – 船長の職務及び権限
- 第3章 – 紀律
- 第4章 – 雇入契約等
- 第5章 – 給料その他の報酬
- 第6章 – 労働時間、休日及び定員
- 第7章 – 有給休暇
- 第8章 – 食料並びに安全及び衛生
- 第9章 – 年少船員
- 第9章の2 – 女子船員
- 第10章 – 災害補償
- 第11章 – 就業規則
- 第12章 – 監督
- 第13章 – 雑則
- 第14章 – 罰則
- 附則
有給休暇
有給休暇とは、労働者の休暇日のうち、使用者から賃金が支払われる休暇日のことであり、労働基準法でいうところの、「年次有給休暇」に当たります。
船舶所有者は、船員が同一の事業に属する船舶において初めて6か月間連続して勤務(船舶の艤装(ぎそう:艦船に種々の装置・設備を施し、航海や戦闘ができるような工事をすること)又は修繕中の勤務を含む)に従事したときは、その6か月の経過後1年以内に、その船員に、連続した勤務期間に応じた日数の有給休暇を与えなければなりません。
また、船員が6か月間連続勤務した後に同一の事業に属する船舶において1年間連続して勤務に従事したときは、その1年の経過後1年以内にその船員に定められた日数の有給休暇を与える必要があります。
ただし、船舶が航海の途中にあるとき、又は船舶の工事のため特に必要がある場合において国土交通大臣の許可を受けたときは、その航海又は工事に必要な期間(工事の場合にあっては3か月以内に限る)、有給休暇を与えることを延期することができます。
- 他の船舶所有者の行う事業に属する船舶における勤務(他の船舶所有者に雇用されて従事したものを除く)
- 船舶における勤務に係る技能の習得及び向上等を目的として受ける教育訓練であって、船舶所有者の職務上の命令に基づくもの
- 係船中の船舶における勤務
- 同一の船舶における連続した勤務のうちその船舶が他の船舶所有者の事業に属する間に従事したもの
みなし勤務期間
船員が同一の事業に属する船舶において以下に該当するもの(勤務に準ずる勤務)に従事した期間並びに船員が職務上負傷し、又は疾病にかかり療養のため勤務に従事しない期間、育児休業、介護休業をした期間及び妊娠中の女子船員又は出産後8週間を経過しない女子が勤務に従事しない期間は、連続して勤務に従事した期間の計算については、同一の事業に属する船舶において勤務に従事した期間とみなされます。
また、船舶における勤務が中断した場合において、その中断の事由が船員の故意又は過失によるものでなく、かつ、その中断の期間の合計が1年当たり6週間を超えないときは、その中断の期間は、船員がその期間の前後の勤務と連続して勤務に従事した期間とみなされます。
有給休暇付与の延期
船舶が航海の途中にあるとき、又は船舶の工事のため特に必要がある場合において国土交通大臣の許可を受けたときは、その航海又は工事に必要な期間、有給休暇を与えることを延期することができますが、この規定により許可を受けようとする船舶所有者は、以下の事項を記載した申請書2通を所轄地方運輸局長に提出して申請を行います。
- 有給休暇の付与を延期しようとする船員の氏名及び職務
- 船員が有給休暇を請求しうるに至った日
- 船舶の名称、総トン数及び航行区域
- 船舶の工事の内容
- 延期しようとする事由
- 延期しようとする期間
有給休暇の日数
同一の事業に属する船舶において初めて6か月間連続して勤務に従事した船員に与えるべき有給休暇の日数は、連続した勤務6か月について15日とされており、これに連続した勤務3か月を増すごとに5日を加えていきます。ただし、国土交通大臣の許可を受けて有給休暇の付与を延期したときは、その延期した期間が1か月を増すごとに2日を加えます。
また、船員が6か月間連続勤務した後に同一の事業に属する船舶において1年間連続勤務した後1年以内にその船員に与えなければならない有給休暇の日数は、連続した勤務1年について25日とし、連続した勤務3か月を増すごとに5日を加えます。ただし、国土交通大臣の許可を受けて有給休暇の付与を延期したときは、その延期した期間1か月を増すごとに2日を加えます。
沿海区域又は平水区域を航行区域とする船舶で国内各港間のみを航海するものに乗り組む船員に与えなければならない有給休暇の日数は、連続した勤務6か月について10日とし、その後連続した勤務3か月を増すごとに3日(同項ただし書に規定する期間については、ただし、国土交通大臣の許可を受けて有給休暇の付与を延期したときは、その延期した期間が1か月を増すごとに1日を加えます。
また、沿海区域又は平水区域を航行区域とする船舶で国内各港間のみを航海するものに乗り組む船員が6か月間連続勤務した後に同一の事業に属する船舶において1年間連続勤務した後1年以内にその船員に与えなければならない有給休暇の日数は、連続した勤務1年について15日とし、連続した勤務3か月を増すごとに3日を加えます。ただし、国土交通大臣の許可を受けて有給休暇の付与を延期したときは、その延期した期間が1か月を増すごとに1日を加えます。
なお、船舶所有者が船員に週休日、祝祭日の休日、慣習による休日又はこれらに代わるべき休日を与えているときは、その休日の日数については、有給休暇の日数に算入しないものとされているほか、負傷又は疾病により勤務に従事しない日数についても、有給休暇の日数には算入しないものとされています。
初めて6か月間連続して勤務に従事した船員 | ①15日 ②連続した勤務3か月を増すごとに5日追加 ③国土交通大臣の許可を受けて有給休暇の付与を延期したときは、その延期した期間が1か月を増すごとに2日追加 |
6か月間連続勤務した後に同一の事業に属する船舶において1年間連続勤務した船員 | ①25日 ②連続した勤務3か月を増すごとに5日追加 ③国土交通大臣の許可を受けて有給休暇の付与を延期したときは、その延期した期間が1か月を増すごとに2日追加 |
沿海区域又は平水区域を航行区域とする船舶で国内各港間のみを航海するものに乗り組む船員(初めて6か月間連続して勤務に従事した者) | ①10日 ②連続した勤務3か月を増すごとに3日追加 ③国土交通大臣の許可を受けて有給休暇の付与を延期したときは、その延期した期間が1か月を増すごとに1日追加 |
沿海区域又は平水区域を航行区域とする船舶で国内各港間のみを航海するものに乗り組む船員(6か月間連続勤務した後に同一の事業に属する船舶において1年間連続勤務した者) | ①15日 ②連続した勤務3か月を増すごとに3日追加 ③国土交通大臣の許可を受けて有給休暇の付与を延期したときは、その延期した期間が1か月を増すごとに1日追加 |
有給休暇の与え方
有給休暇を与える時期及び場所については、船舶所有者と船員との協議によるほか、労働協約の定めるところにより、期間を分けて、これを与えることもできます。
有給休暇中の報酬
船舶所有者は、有給休暇中船員に給料並びに手当及び食費を支払う必要あるほか、有給休暇を請求することができる船員が有給休暇を与えられる前に解雇され、又は退職した場合についても、その者に与うべき有給休暇の日数に応じ、給料、手当及び食費を支払う必要があります。
支払うべき手当は、家族手当、職務手当、乗船を事由として支払われる報酬及びこれら以外の固定給(船舶、航海又は積荷の態様により支払われる報酬及び算定の基礎となる期間が1か月を超えるものを除く)とされており、食費は、乗船中支給しなければならない食料の費用の額と同額とされています。
適用範囲等
有給休暇の規定は、漁船又は船舶所有者と同一の家庭に属する者のみを使用する船舶については適用されません。
まとめ
有給休暇については、外形的な労働の軽重により、与えられる日数が異なるという点や、「連続勤務」としてみなされる期間に関する考え方、国土交通大臣に許可を受けることにより有給休暇を延期することができる等の点について、しっかり押さえるようにしましょう。