近代化船とは?基準と認定申請について
近代化船とは、自動化船や機関区域無人化船とも呼ばれ、その名のとおり近代化された船舶であって、その内部がほぼ全自動制御化されている遠洋を航行する船舶のことを指します。
何とも分かりやすいネーミングですが、実はこの近代化船として認められるためには、自称では足らず、基準を満たしたうえで、国土交通大臣の認定を受けることが必要とされています。
そこで本稿では、この近代化船の概要や、認定を受けるために必要とされる手続きについて、詳しく解説していきたいと思います。難解な専門用語が並びますので、まずはざっくりとだけ流して確認することをお薦めしておきます。
目 次
近代化船とは
科学技術の発展向上は目覚ましく、それは歴史ある船舶の世界においても例外ではありません。旧来より人力で担ってきた作業は、機械による制御に置き換えられていき、それに伴って、関連法令も実情を反映した近代的なものへと形を変えつつあります。具体的には、近代化船として認定された船舶については、乗り組むべき船舶職員についての基準が緩和され、航海士と機関士とを兼ねた運航士が乗り組むことができるようになっています。
法的には、次に説明する機関区域無人化船が近代化船とされており、有する設備の違いにより、第一種基準から第四種基準に区分されています。
機関区域無人化船とは
機関区域無人化船とは、機関区域に船員が継続的に配置されない船舶のことを指します。この機関区域無人化船は、以下の基準に適合するものでなければならないものとされています。(専門用語が多いので閲覧注意です。笑)
- 機関区域に船員が配置されない状態において連続して安全に作動する推進機関を有するものであること
- 船舶機関規則の規定により船舶の推進に関係のある補機を2台以上備え付ける場合には、補機の1台に異常が生じた場合に他の補機に自動的に切り換える装置を備え付けたものであること
- 次の装置を備え付けたものであること
- 主機の遠隔制御装置であって、船橋においてプロペラ軸の回転方向(可変ピッチプロペラにあってはプロペラの翼角)及び回転数を制御することができるもの(2以上のプロペラを有する船舶にあっては、プロペラに連結された主機を独立に制御できるものであること)
- ボイラの自動制御装置
- 船舶の推進に関係のある補機の自動制御装置
- 主機の潤滑油温度警報装置、ボイラの水位警報装置その他の機関に異常が生じた場合に警報を発する装置であって次の基準に適合するものを備え付けたものであること
- 同時に2以上の警報を発することができるものであること(いずれかの警報は、他の警報の妨げとならないものであること)
- 機関室内において可聴警報を発し、機関の遠隔制御のための装置が集中配置されている場所及び船橋において可視可聴の警報を発することができるものであること
- 食堂、休憩室及び船員室(機関部の船舶職員の船員室に限る)において警報を発することができるものであること
- 可聴警報は当該警報が確認されるまでの間、可視警報は当該警報の原因となった状態が復旧するまでの間、継続されるものであること
- 一定時間内に警報が確認されない場合において、機関部の船舶職員を呼び出すための装置を自動的に作動させることができるものであること
- 電源が断たれた場合に警報を発し、かつ、他の電源に自動的に切り換えることができるものであること
- 試験をするためのスイッチを有するものであること
- 機関区域のビルジにより機関の作動に支障が生じることがないように設定された高さに当該ビルジの液面が達した場合に警報を発する装置を備え付けたものであること
- 異常が生じた場合に機関の停止その他の機関の損傷を防止するための措置を自動的に講じる安全装置を備え付けたものであること
- 上記の安全装置の機能を一時的に停止するための装置を備え付ける場合には、当該装置は、次の基準に適合するものであること
- 動揺、振動、衝撃等による不時の作動を防止するための措置が講じられたものであること
- 作動中であることを表示することができるものであること
機関区域とは
機関区域とは、特定機関区域(主機若しくは合計出力375kw以上の補助機関として使用する内燃機関、油だき装置又は燃料油装置のある場所及びこれらの場所に至るトランク)並びに推進機関、ボイラ、蒸気機関、内燃機関、主要電気設備、冷凍機、減揺装置、送風機又は空気調和機械のある場所、給油場所及びこれらに類似した場所並びにこれらの場所に至るトランク、及び機関の遠隔制御のための装置が集中配置されている場所を指します。
主機の始動空気圧力
始動に圧縮空気を必要とする主機の始動用空気の圧力は、自動的に保持されるものでなければなりません。
燃料油装置等
燃料油常用タンク | 機関区域に船員が配置されない状態において機関を作動するために十分な容量のものであること(当該タンクへの燃料油の補給が自動制御により行われるものについてはこの限りでない) |
主機及び発電機を駆動する補助機関の燃料油装置(燃料油を加熱する場合に限る) | 燃料油の温度を自動的に調節できる装置を備え付けたものであること |
燃料油の清浄機及び加熱器 | 火災を発生するおそれのない場所に備え付けたものであること |
燃料油常用タンクへの燃料油の補給が自動制御若しくは遠隔制御により行われる場合又は燃料油の清浄機を備え付ける場合 | あふれた燃料油を適当なタンクに導くための措置が講じられたものであること |
燃料油セットリングタンク又は燃料油常用タンクに加熱管を設ける場合 | 温度警報を発する装置を備え付けたものであること |
主機及び発電機を駆動する補助機関の潤滑油装置 | 潤滑油の温度を自動的に調節できる装置を備え付けたものであること |
主機及び発電機を駆動する補助機関の冷却装置 | 冷却水又は冷却油の温度を自動的に調節できる装置を備え付けたものであること |
ビルジ管装置等
機関区域のビルジウェル | 機関区域に船員が配置されない状態において発生するビルジの量に対し十分な容量のものであること |
ビルジ吸引管に備え付けられた弁若しくはコック又は船舶の喫水線下の外板の開口部に備え付けられた弁若しくはコック | 浸水した場合においても容易に操作することができるものであること |
旅客船に対する特例
旅客船は旅客を運搬することから、機関区域無人化船である旅客船の機関は、上記のほか、旅客の安全を確保するため管海官庁が必要と認める基準に適合させる必要があります。
近代化船の基準
国土交通省令で定める基準では、近代化船の共通基準を以下のように定めています。
- 船体、機関、帆装、排水設備、操舵、繋船及び揚錨の設備、救命及び消防の設備、居住設備、衛生設備、航海用具、危険物その他の特殊貨物の積附設備、荷役その他の作業の設備、電気設備、その他国土交通大臣が定める事項が、機関区域無人化船に係る基準に適合する船舶であること
- 総トン数5,000トン以上で、かつ、出力6,000kw以上の推進機関を有する遠洋区域を航行区域とする船舶であること
- 船舶の設備、用途及び就航航路に応じて停泊中における船舶の設備の点検及び整備その他の作業に係る支援体制が確保されていることについて、国土交通大臣の認定を受けたものであること
また、近代化船をその有する設備に応じて、第一種基準から第四種基準に分類しています。
第一種基準
共通基準に加えて、次の設備をすべて備えるを第一種基準として分類しています。
- 燃料油タンクの船外からの注油管の弁の遠隔制御装置(弁の配置により遠隔制御を要しない船舶を除く)
- 燃料油タンク(機関室内のものを除く)の遠隔液面監視装置及び高位警報装置
- 主機の運転状態の自動記録装置
- 衛星航法装置
- 自動操舵だ装置
- 船首及び船尾の係船装置の遠隔制御装置
- 液体貨物の遠隔制御荷役装置(ばら積みの液体貨物を輸送するために使用される船舶に限る)
- 遠隔制御バラスト水張排水装置(荷役時において特に船体の傾斜及びトリムの制御を要する船舶に限る)
- 荷役用のサイド・ポート、ランプ・ウェイ及び暴露甲板鋼製ハッチ・カバー(ポンツーン型のものを除く)の動力開閉装置
- 海事衛星通信装置
第二種基準
共通基準に加えて、次の設備をすべて備えるものを第二種基準として分類しています。
- 燃料油タンクの船外からの注油管の弁の遠隔制御装置(弁の配置により遠隔制御を要しない船舶を除く)
- 燃料油タンク(機関室内のものを除く)の遠隔液面監視装置及び高位警報装置
- 主機の運転状態の自動記録装置
- 機関の運転状態の集中監視装置(船橋に設置されるものに限る)
- 衛星航法装置
- 自動衝突予防援助装置
- 自動操舵だ装置
- 船首及び船尾の係船装置の遠隔制御装置
- 液体貨物の荷役ホースの揚卸装置(ばら積みの液体貨物を輸送するために使用される船舶に限る)
- 液体貨物の遠隔制御荷役装置(ばら積みの液体貨物を輸送するために使用される船舶に限る)
- 遠隔制御バラスト水張排水装置(荷役時において特に船体の傾斜及びトリムの制御を要する船舶に限る)
- 荷役用のサイド・ポート、ランプ・ウェイ及び暴露甲板鋼製ハッチ・カバー(ポンツーン型のものを除く)の動力開閉装置
- 非常用えい索の動力巻取装置(ばら積みの引火性高圧ガス及び引火性液体類を輸送するために使用される船舶に限る)
- 冷凍装置付きコンテナの保冷状態の集中監視装置(コンテナ貨物を輸送するために使用される船舶に限る)
- 海事衛星通信装置
第三種基準
共通基準に加えて、次の設備をすべて備えるものを第三種基準として分類しています。
- 燃料油タンクの船外からの注油管の弁の遠隔制御装置(弁の配置により遠隔制御を要しない船舶を除く)
- 燃料油タンク(機関室内のものを除く)の遠隔液面監視装置及び高位警報装置
- 主機の運転状態の自動記録装置
- 機関の運転状態の集中監視装置(船橋に設置されるものに限る)
- 機関の集中制御装置(船橋に設置されるものに限る)
- 無線電信室(令別表第四号の表の適用を受ける船舶において船橋に設置されるものに限る)
- 衛星航法装置
- 自動衝突予防援助装置
- 自動操舵装置
- 船首及び船尾の係船装置の遠隔制御装置(係船機のドラムを独立して制御できるものに限る)
- 液体貨物の荷役ホースの揚卸装置(ばら積みの液体貨物を輸送するために使用される船舶に限る)
- 液体貨物の遠隔制御荷役装置(ばら積みの液体貨物を輸送するために使用される船舶に限る)
- 遠隔制御バラスト水張排水装置(荷役時において特に船体の傾斜及びトリムの制御を要する船舶に限る)
- 荷役用のサイド・ポート、ランプ・ウェイ及び暴露甲板鋼製ハッチ・カバー(ポンツーン型のものを除く)の動力開閉装置
- 非常用えい索の動力巻取装置(ばら積みの引火性高圧ガス及び引火性液体類を輸送するために使用される船舶に限る)
- 水先人用はしごの動力巻取装置
- 冷凍装置付きコンテナの保冷状態の集中監視装置(コンテナ貨物を輸送するために使用される船舶に限る)
- 固定式甲板洗浄装置(ばら積みの石炭、鉄鉱石又はこれらに類似する貨物を輸送するために使用される船舶に限る)
- 海事衛星通信装置
第四種基準
共通基準に加えて、次の設備をすべて備えるものを第四種基準として分類しています。
- 燃料油タンクの船外からの注油管の弁の遠隔制御装置(弁の配置により遠隔制御を要しない船舶を除く)
- 燃料油タンク(機関室内のものを除く)の遠隔液面監視装置及び高位警報装置
- 主機の運転状態の自動記録装置
- 機関の運転状態の集中監視装置(船橋に設置されるものに限る)
- 機関の集中制御装置(船橋に設置されるものに限る)
- 主機の遠隔制御及び操舵装置(船橋の両ウイングで使用できるものに限る)
- 無線電信室(令別表第四号の表の適用を受ける船舶において船橋に設置されるものに限る)
- 衛星航法装置
- 自動衝突予防援助装置
- 自動操舵装置
- 船首及び船尾の係船装置の遠隔制御装置(係船機のドラムを独立して制御できるものに限る)
- 液体貨物の荷役ホースの揚卸装置(ばら積みの液体貨物を輸送するために使用される船舶に限る)
- 液体貨物の遠隔制御荷役装置(ばら積みの液体貨物を輸送するために使用される船舶に限る)
- 遠隔制御バラスト水張排水装置(荷役時において特に船体の傾斜及びトリムの制御を要する船舶に限る)
- 荷役用のサイド・ポート、ランプ・ウェイ及び暴露甲板鋼製ハッチ・カバー(ポンツーン型のものを除く)の動力開閉装置
- 非常用えい索の動力巻取装置(ばら積みの引火性高圧ガス及び引火性液体類を輸送するために使用される船舶に限る)
- 水先人用はしごの動力巻取装置十八 冷凍装置付きコンテナの保冷状態の集中監視装置(コンテナ貨物を輸送するために使用される船舶に限る)
- 固定式甲板洗浄装置(ばら積みの石炭、鉄鉱石又はこれらに類似する貨物を輸送するために使用される船舶に限る)
- 海事衛星通信装置
認定の申請
国土交通大臣の認定を受けようとする船舶所有者は、次の事項を記載した申請書を、住所地(日本の法令により設立された法人である場合は主たる事務所の所在地)を管轄する地方運輸局を経由して国土交通大臣に提出することにより申請を行います。
- 船舶所有者の氏名又は名称及び住所
- 申請の種別
- 船舶の名称、用途、航行区域、総トン数及び推進機関の出力
- 就航航路
- 船舶に係る停泊中における作業及びその支援体制の概要
必要となる書類
- 認定申請書
- 船舶国籍証書の写し
- 船舶検査証書の写し
- 船舶検査手帳の写し
国土交通大臣は、申請があった場合は、申請の内容を審査し、基準に適合するものに対して認定を行います。その後、認定に伴って基準に適合する船舶となるときは、近代化船適合証書を交付します。
認定の取消し
国土交通大臣は、認定をした船舶が基準に適合しなくなったときは、その認定を取り消すとともに船舶の船舶所有者に対してその旨を通知します。
近代化船適合証書の返納
近代化船適合証書の交付を受けた船舶の船舶所有者は、当該船舶が基準に適合しなくなった場合、認定取消の通知を受けた場合又は他の近代化船適合証書の交付を受けた場合は、速やかに近代化船適合証書を国土交通大臣に返納します。
国土交通大臣に返納すべき近代化船適合証書は、船舶所有者が、日本の国籍を有する者である場合にあっては住所地を管轄する地方運輸局を経由して国土交通大臣に返納します。
まとめ
現在、日本の外航海運は、円高などの影響によって国際競争力を失いつつあります。日本船籍及び日本人船員自体が減少の一途をたどっているのが現状であり、近代化船制度は、そんな外航海運の現状に対するカンフル剤となるべく導入されたものです。技術革新は現代人の進歩の証でもありますが、その反面、機械化や全自動化に対しては複雑な思いがあります。
ともあれ、ツールや制度を利用してより良く生きることが現代人の権利であり勤めでもあります。まずはしっかりと制度を把握し、周辺知識を蓄えることが肝要です。船舶の近代化にはこれからも目が離せません。