マグロでも分かる船員法の解説⑦【食料並びに安全及び衛生編】

マグロでも分かる船員法⑦

船員法は、船員の雇入契約や給料、労働時間、有給休暇などを定めた法律であり、一般労働者で言うところの、労働基準法にあたる法律です。

船員労働には、長時間陸上から孤立し、「労働」と「生活」とが一致した24時間体制の就労があり、かつ、常に動揺にさらされる船内では、危険な作業をともなうなどの特殊性があることから、労働基準法とは異なる規律が必要です。そのため、船員には、厚生労働省が所管する労働基準法ではなく、国土交通省が所管する船員法が適用されます。

他方、一般社会において船員法を意識する機会はほとんどなく、改めてこれを検索しようにも、そもそも詳しく解説した文献はほとんど存在していません。

そこで当サイトでは、「マグロでも分かる海事法令」シリーズとして、「船員法」について深掘りした解説を行うことにしました。本編では、船員の「食料並びに安全及び衛生」について解説しています。条文も少なく比較的与しやすい部分なので、しっかりと確認するようにしてください。

★船員法の構成
  • 第1章 – 総則
  • 第2章 – 船長の職務及び権限
  • 第3章 – 紀律
  • 第4章 – 雇入契約等
  • 第5章 – 給料その他の報酬
  • 第6章 – 労働時間、休日及び定員
  • 第7章 – 有給休暇
  • 第8章 – 食料並びに安全及び衛生
  • 第9章 – 年少船員
  • 第9章の2 – 女子船員
  • 第10章 – 災害補償
  • 第11章 – 就業規則
  • 第12章 – 監督
  • 第13章 – 雑則
  • 第14章 – 罰則
  • 附則

食料の支給

船舶所有者は、船員の乗船中、船員が職務に従事する期間又は船員が負傷若しくは疾病のため職務に従事しない期間において、船舶所有者の費用により、船員に食料を支給することを義務付けられています。

また、遠洋区域若しくは近海区域を航行区域とする船舶で総トン数700トン以上のもの又は第二種若しくは第三種の従業制限を有する漁船及び第一種の従業制限を有する漁船でさけ・ます流網漁業、さけ・ますはえ縄漁業若しくは機船底びき網漁業に従事するもの漁船に乗り組む船員に食料を支給する場合には、国土交通大臣の定める食料表に基づいてこれを行う必要があります。

食料表
食料表(備考)

なお、船舶所有者は、下表のいずれかに該当する船舶には、船内における食料の支給を適切に行う能力を有するものとしてそれぞれ定める基準に該当する者を乗り組ませる必要があります。

平水区域を航行区域とする船舶及び専ら平水区域若しくは船員法第1条第2項第3号の漁船の範囲を定める政令第2号の漁船の範囲を定める省令別表の海域において従業する漁船以外の船舶であって、その航海中に船員に支給される食料の調理が船内において行われるもの①18歳以上であること(漁船に乗り組む者にあっては、15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了していること)
②船内における調理に関する業務についての基礎的な知識を有していること
遠洋区域若しくは近海区域を航行区域とする船舶又は第三種の従業制限を有する漁船であって、総トン数千トン以上のもののうち、その航海中に船員に支給される食料の調理が船内において行われるもの①18歳以上であること(漁船に乗り組む者にあっては、15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了していること)
②船内における調理に関する業務についての基礎的な知識を有していること
③船舶料理士資格証明書を受有していること(船内における調理に関する業務を管理する地位に就く場合に限る)

安全及び衛生

船舶所有者は、作業用具の整備、船内衛生の保持に必要な設備の設置及び物品の備付け、船内作業による危害の防止及び船内衛生の保持に関する措置の船内における実施及びその管理の体制の整備その他の船内作業による危害の防止及び船内衛生の保持に関し、船員労働安全衛生規則等に定められた事項を遵守する業務を負います。

医薬品その他の衛生用品の備付け等

船舶所有者は、船員法施行規則第53条第1項に掲げる船舶について、その船舶を初めて自己のために航行の用に供するときに、それぞれの船舶の区分に応じて、国土交通大臣が告示で定める数量の医薬品その他の衛生用品(PDF:298KB)を備え付ける必要があります。

また、これらの船舶であって航海期間が3か月を超えるもの等については、その船舶に乗り組む医師、衛生管理者又は衛生担当者の意見に基づき、告示で定める数量を適宜増加する必要があります。

船員法施行規則第53条第1項に掲げる船舶の内容については少し複雑なのでここでは割愛しますが、船員の生命や身体の保護及び航行の安全確保を図る観点から、陸上医療機関へのアクセスが困難な日本籍船が対象となります。

船内への医薬品等の備付け

医薬品等の補充

船舶所有者は、医薬品等を医療箱、衛生用品戸だな等に使用しやすいように保管し、船舶が国内の港を発航してから次に国内の港に到着するまでの期間が1か月を超える場合にあってはその発航前に、その他の場合にあっては船舶に備え付けている医薬品等の数量が定められた数量の2分の1に満たなくなったときに、定められた数量に達するように医薬品等を補充する必要があります。

また、医療衛生用具については、その数量が告示で定める数量に満たなくなったときに、告示で定める数量に達するように医療衛生用具を補充する必要があります。

医療書の備置き

船舶所有者は、船舶(平水区域を航行区域とする船舶及びまき網漁業に従事する漁船の附属漁船で運搬船以外の総トン数20トン未満のものを除き、船舶に国土交通省監修「日本船舶医療便覧」を備え置く必要があります。

ただし、船員法施行規則第53条第1項第3号又は第4号に掲げる船舶にあっては、国土交通省監修「小型船医療便覧」をもってこれに代えることができます。

船内作業による危害の防止及び船内衛生の保持に関する措置

船舶所有者は、一定の危険な船内作業については、一定の経験又は技能を有しない船員を従事させることはできません。

また、伝染病にかかった船員並びに精神の機能の障害により作業を適正に行うに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない船員と医師が認めるものを作業に従事させることもできません。

医師

船舶所有者は、以下に該当する船舶には、原則として医師を乗り組ませる必要があります。

  • 遠洋区域又は近海区域を航行区域とする総トン数3,000トン以上の船舶で最大搭載人員100人以上のもの
  • 遠洋区域を航行区域とする海上運送法に規定する定期航路事業に従事する船舶その他一定の航路に常時就航する船舶(船舶に関し疾病予防並びに疾病及び傷害の治療のため有効な特別の措置を講じ、かつ、衛生管理者適任証書を受有する者2名を衛生管理者として選任したものを除く)で国土交通大臣の指定する航路に就航するもの
  • 最大搭載人員100人以上又は総トン数3,000トン以上の母船

ただし、上記に該当する船舶であってと、以下のいずれかの事由に該当するものについては、医師を乗り組ませる必要はありません。

  • 国内各港間を航海するとき
  • 東経150度、北緯21度及び北緯46度の線並びにアジア大陸の沿岸により囲まれた区域のみを航海するとき
  • もっぱら東経150度、北緯21度及び北緯46度の線並びにアジア大陸の沿岸により囲まれた区域内において航海している船舶が臨時にその区域外にわたり行う航海であって、その区域外における航海の期間が3週間以内のものを行う場合
  • やむを得ない事由がある場合において国土交通大臣の許可を受けたとき

衛生管理者

船舶所有者は、医師を乗り組ませる必要がある船舶を除く以下のいずれかに該当するものについては、船内の衛生管理に必要な業務に従事させるため、乗組員の中から衛生管理者を選任する必要があります。

ただし、国内各港間を航海する場合又は国土交通省令の定める区域のみを航海する場合は、衛生管理者を選任する必要はありません。

  • 遠洋区域又は近海区域を航行区域とする総トン数3,000トン以上の船舶
  • 母船式漁業に従事する母船
  • 総トン数3,000トン以上の漁船
  • 漁業法第52条の許可に係る遠洋かつお・まぐろ漁業(総トン数150トン未満の漁船をもって営むものを除く)漁業法第52条の許可に係る遠洋底びき網漁業であってオッタートロール又はビームトロールを使用して営むもの

衛生管理者は、原則として、衛生管理者適任証書を受有する者のうちから選任しますが、やむを得ない事由がある場合において、国土交通大臣の許可を受けたときは、衛生管理者適任証書を受有しない者のうちから、これを選任することができます。

★衛生管理者適任証書

国土交通大臣は、国土交通大臣の行う試験に合格した者又は国土交通大臣がこれと同等以上の能力を有すると認定した者に対し、衛生管理者適任証書を交付します。

船内の衛生管理業務について

健康証明書

船舶所有者は、指定医師(船員である医師、公益社団法人日本海員掖済会若しくは一般財団法人船員保険会の病院若しくは診療所の医師又は地方運輸局長が指定した医師)が船内労働に適することを証明した健康証明書を持たない者を船舶に乗り組ませることはできません。

健康証明書は、指定医師が、その判定時前3か月以内に受けた検査(指定医師以外の医師によるものを含む)の結果に基づき、業務歴の調査表による標準に合格した旨の判定を船員手帳の該当欄に行います。また、健康証明に要する費用は、雇用中の船員については、船舶所有者の負担により行います。

★検査項目
  • 既往歴の調査(服薬歴及び喫煙習慣の状況に係る調査を含む)
  • 業務歴の調査
  • 自覚症状及び他覚所見の有無の検査
  • 身長、体重及び腹囲の検査
  • BMI(=体重÷体重2
  • 運動機能、視力、色覚(船長、甲板部の職員及び部員、機関部の職員及び航海当直部員、無線部の職員並びに救命艇手に限る)、聴力及び握力の検査
  • ABO式及びRh式の血液型検査
  • 血色素量及び赤血球数の検査
  • 血糖検査
  • 血中脂質検査(低比重リポ蛋白コレステロール(LDLコレステロール)、血清トリグリセライド(中性脂肪)及び高比重リポ蛋白コレステロール(HDLコレステロール)の量の検査)
  • 肝機能検査(血清グルタミックオキサロアセチックトランスアミナーゼ(GOT)、血清グルタミックピルビックトランスアミナーゼ(GPT)及びガンマ―グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GDP)の検査)
  • 検便(虫卵及びヘモグロビンの有無の検査に限る)及び検尿
  • 血圧の検査
  • 心電図検査
  • 胸部エックス線直接撮影検査又はミラーカメラを用いて行う胸部エックス線間接撮影検査(判定時前6か月以内に船員労働安全衛生規則第32条第2項による検査において受けた場合を除く)及び喀痰検査
  • 肺活量の検査
  • 感覚器、循環器、呼吸器、消化器、神経系その他の器官の臨床医学的検査
  • 国際航海に従事する船舶に乗り組む船員にあっては、腹部の画像検査、血液中の尿酸の量の検査及び型肝炎に係る抗体検査

検査のうち、身長の検査(20歳未満の者を除く)、腹囲の検査、BMIの検査(35歳未満の者を除く)、ABO式及びRh式の血液型検査(35歳未満の者を除く)、血色素量及び赤血球数の検査、血糖検査(35歳未満の者を除く)、血中脂質検査(35歳未満の者を除く)、肝機能検査(35歳未満の者を除く)、検便(虫卵の有無の検査にあッては調理作業に従事する者に係るものを除き、ヘモグロビンの有無の検査にあっては35歳未満の者を除く)、心電図検査(35歳未満の者を除く)、喀痰検査及び国際航海に従事する船舶に乗り組む船員に係る検査(腹部の画像検査、血液中の尿酸の量の検査及び型肝炎に係る抗体検査)については、指定医師においてその必要がないと認めるものは、受ける必要はありません。

健康証明書の有効期間

健康証明書の有効期間は、船員手帳の有効期間にかかわらず、色覚の検査については6年、その他の検査については1年とされています。ただし、検査の際、結核を発病するおそれがあると認める者については、指定医師はその結核に関する検査についての有効期間を6か月に短縮することができます。

有効期間が航海中に満了したときは、有効期間が満了した日から起算して3か月を経過する日又はその航海の終了する日のいずれか早い日までの間(航海の態様その他の事情を勘案して国土交通大臣が告示で定める漁船にあっては、その航海の終了する日までの間)、その検査について、健康証明書は、なお効力を有します。

また、船舶所有者は、緊急に欠員を補充する必要がある場合その他やむを得ない場合において、最寄りの地方運輸局長の許可を受けたときは、有効期間が満了した健康証明書を受有する者を有効期間が満了した日から起算して3か月を超えない範囲内において、船舶に乗り組ませることができます。

健康証明書

まとめ

食料に関する規定は船員法独自のものであり、労働基準法には、これに対応する規定はありません。長期間にわたり船舶に取り組む船員にとっては生命や健康の維持のために必要不可欠な規定なので、しっかりと確認するようにしましょう。

安全及び衛生の規定については、一般労働者における労働安全衛生法に対応するものです。船員安全衛生規則等の関連法令と合わせて、全体像を横断的に網羅して学ぶようにしましょう。

事務所の最新情報をお届けします

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA