マグロでも分かる船員法の解説⑤【労働時間、休日及び定員編】

マグロでも分かる船員法⑤

船員法は、船員の雇入契約や給料、労働時間、有給休暇などを定めた法律であり、一般労働者で言うところの、労働基準法にあたる法律です。

船員労働には、長時間陸上から孤立し、「労働」と「生活」とが一致した24時間体制の就労があり、かつ、常に動揺にさらされる船内では、危険な作業をともなうなどの特殊性があることから、労働基準法とは異なる規律が必要です。そのため、船員には、厚生労働省が所管する労働基準法ではなく、国土交通省が所管する船員法が適用されます。

他方、一般社会において船員法を意識する機会はほとんどなく、改めてこれを検索しようにも、そもそも詳しく解説した文献はほとんど存在していません。

そこで当サイトでは、「マグロでも分かる海事法令」シリーズとして、「船員法」について深掘りした解説を行うことにしました。本編では、まず船員法全般に通用する一般的・包括的規定である「労働時間、休日及び定員」について解説しています。船員法の基礎となる言葉が頻出する部分なので、しっかりと確認するようにしてください。

★船員法の構成
  • 第1章 – 総則
  • 第2章 – 船長の職務及び権限
  • 第3章 – 紀律
  • 第4章 – 雇入契約等
  • 第5章 – 給料その他の報酬
  • 第6章 – 労働時間、休日及び定員
  • 第7章 – 有給休暇
  • 第8章 – 食料並びに安全及び衛生
  • 第9章 – 年少船員
  • 第9章の2 – 女子船員
  • 第10章 – 災害補償
  • 第11章 – 就業規則
  • 第12章 – 監督
  • 第13章 – 雑則
  • 第14章 – 罰則
  • 附則

労働時間

船員法における「労働時間」とは、「船員が職務上必要な作業に従事する時間(海員にあっては、上長の職務上の命令により作業に従事する時間に限る)」をいいますが、この点について、労働時間を、「労働者が雇用主の指揮命令下で働く時間」とする労働基準法とは異なります。

船員の1日当たりの労働時間は8時間以内、1週間当たりの労働時間は「基準労働期間」について平均40時間以内と定められています。

基準労働期間

基準労働期間とは、以下の船舶の区分に応じてそれぞれ定められた期間をいいます。ただし、船舶所有者が就業規則その他これに準ずるものによりその期間の範囲内においてこれと異なる期間を定めた場合又は労働協約により1年以下の範囲内においてこれらと異なる期間が定められた場合には、それぞれその定められた期間が基準労働期間となります。

遠洋区域又は近海区域を航行区域とする船舶(国内各港間のみを航海するものを除く)1年
遠洋区域又は近海区域を航行区域とする船舶であって国内各港間のみを航海するもの及び沿海区域を航行区域とする船舶9か月
遠洋区域又は近海区域を航行区域とする船舶であって国内各港間のみを航海するもののうち定期航路事業に従事するもの6か月
沿海区域を航行区域とする船舶であって国内各港間のみを航海するもののうち定期航路事業に従事するもの及び平水区域を航行区域とする船舶3か月
平水区域を航行区域とする総トン数700トン以上の船舶であって定期航路事業に従事するもの1か月

基準労働期間の起算日は、以下の日とされています。

  • 船員が船舶に乗り組む日(その日がそれ以外の日を起算日とする基準労働期間内にある場合を除く)
  • 船員が船舶に乗り組んでいる間に基準労働期間が終了した場合にあっては、基準労働期間が終了した日の翌日

変形労働期間

基準労働期間の規定にかかわらず、就業規則その他これに準ずるものにより、あらかじめ基準労働期間及び休日の原則を遵守しうる場合にあっては、基準労働期間の起算日は、就業規則その他これに準ずるものにより起算日として定められた日となります。

休日

休日は、労働協約に特別の定めがある場合を除き、陸上休日(船舶に乗り組んでいる期間以外において与える休日)又は停泊中の休日とされており、船舶所有者が船員に与えるべき休日は、基準労働期間について1週間当たり平均1日以上とされています。

補償休日

船舶所有者は、船員の労働時間が1週間において40時間を超える場合又は船員に1週間において少なくとも1日の休日を与えることができない場合には、原則として、超過時間(1週間において少なくとも1日の休日が与えられない場合にあっては、その超える時間が8時間を超える時間)において作業に従事すること又はその休日を与えられないことに対する補償としての休日(補償休日)を、その1週間に係る基準労働期間以内にその者に与える必要があります。

ただし、以下のいずれかに該当するやむを得ない事由のあるときは、その事由の存する期間、補償休日を与えることを延期することができます。

  • 遅延その他の航海の状況に係る事由により基準労働期間内に与えるべき補償休日を与えることができないことが明らかになったとき以降において航海の途中にあるとき
  • 補償休日を与えるべき船員と交代して乗船すべき船員が負傷し、又は疾病にかかり療養のため交代して乗船できないことその他の船舶所有者の責めに帰することのできない事由により、補償休日を与えるべき船員と交代して乗船する船員が確保できないとき
  • 補償休日を与えるべき船員が負傷し、又は疾病にかかり療養のため作業に従事しない期間中であるとき
  • 補償休日を与えるべき船員が船舶の機関、設備等の故障発生時における応急措置その他の継続して従事しなければならない作業に従事しているとき

船舶所有者は、船員に補償休日を与えるときは、付与の時期及び場所を少なくともその時期の7日前までに船員に通知する必要があります。ただし、上記のやむを得ない事由がある場合には、船舶所有者は、速やかに船員に通知することにより、あらかじめ通知した時期及び場所を変更することができます。

与えるべき補償休日の日数は、超過時間の合計8時間当たり又は少なくとも1日の休日が与えられない1週間当たり1日を基準として、以下の計算により算定します。その付与の単位は、原則として1日となりますが、基準労働期間内に与えるべき補償休日の日数の合計が1未満の端数を生じる場合であって、端数が2分の1を超えるときには、端数に係る補償休日の付与の単位は1日となります。

  • 船舶に乗り組んでいる期間内に与える場合にあっては、超過時間の合計8時間当たり又は少なくとも1 日の休日を与えられない1週間当たり1日として計算した日数
  • 陸上休日として与える場合にあっては、上記により計算した日数に、5分の7を乗じた(かけ算した)日数

また、以下のいずれかに該当する場合は、補償休日の付与の単位は半日となります。

  • 労働協約に特別の定めがあるとき
  • 基準労働期間内に与えるべき補償休日の日数の合計が1未満の端数を生じる場合であって、端数が2分の1 を超えないとき

補償休日を含む1週間に係る補償休日は、それを与えられた船員が作業に従事した日であって休日以外のものとみなし、その労働時間は、8時間(補償休日が1日未満の単位で与えられたものである場合には4時間)とみなされます。

補償休日手当

船舶所有者は、補償休日を与えるべき船員が、補償休日を与えられる前に解雇され、又は退職したときは、その者に与えるべき補償休日の日数に応じ、補償休日手当を支払う必要があります。

補償休日手当の額は、解雇され、又は退職した日に係る基準労働期間の起算日から対象期間(解雇され、又は退職した日の前日までの期間)における通常の労働日の報酬(定期払いを要しないとされている報酬、家族手当、乗船を事由として支払われる報酬及び船舶、航海又は積荷の態様により支払われる報酬を除く)の平均計算額の4割増(その算定の基礎となる期間が1週間未満である報酬に係る部分については4割)以上の額でなければならない。

また、通常の労働日の報酬の平均計算額は、以下の金額に、対象期間における1日平均所定労働時間数を乗じた金額とされています。

  • 時間によって定められた報酬については、その金額
  • 日によって定められた報酬については、その金額を1日の所定労働時間数で除した金額(日によって所定労働時間数が異なる場合においては、対象期間における1日平均所定労働時間数で除した金額)
  • 月によって定められた報酬については、その金額を月における所定労働時間数で除した金額(月によって所定労働時間数が異なる場合においては、対象期間における1か月平均所定労働時間数で除した(割り算した)金額
  • 上記以外の一定の期間によって定められた報酬については、上記に準じて算定した金額
  • 船員の受ける報酬が上記の複数の報酬よりなる場合においては、その部分については上記によりそれぞれ算定した金額の合算額

時間外労働等

船長は、船舶の航海の安全を確保するため臨時の必要があるときは、労働時間の制限を超えて、自ら作業に従事し、若しくは海員を作業に従事させ、又は補償休日若しくは休息時間において、自ら作業に従事し、若しくは海員を作業に従事させることができます。

船長は、これらの場合のほか、下表のいずれかに該当する特別の必要がある場合においては、1日についてそれぞれ定める時間を限度として、労働時間の制限を超えて、自ら作業に従事し、又は海員を作業に従事させることができます。

船舶が港を出入りするとき、船舶が狭い水路を通過するときその他の場合において航海当直の員数を増加するとき4時間
防火操練、救命艇操練その他これらに類似する作業に従事するとき作業に従事するために必要な時間
航海当直の通常の交代のために必要な作業に従事するとき1時間
沿海区域を航行区域とする船舶であって国内各港間のみを航海するもののうち定期航路事業に従事するもの及び平水区域を航行区域とする船舶4時間
通関手続、検疫等の衛生手続その他の法令(外国の法令を含む)に基づく手続のために必要な作業に従事するとき2時間

船長は、補償休日又は休息時間において、自ら作業に従事し、又は海員を作業に従事させたときは、船舶の運航の安全の確保に支障を及ぼさない限りにおいて、作業の終了後できる限り速やかに休息をし、又は休息をさせるよう努めるものとされています。

時間外労働に関する協定

船舶所有者は、その使用する船員の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、船員の過半数で組織する労働組合がないときは船員の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを国土交通大臣に届け出た場合においては、その協定で定めるところにより、労働時間の制限を超えて船員を作業に従事させることができます。

協定をする船舶所有者及び労働組合又は船員の過半数を代表する者は、協定で労働時間の延長を定めるに当たっては、協定の内容が、国土交通大臣が定める基準に適合したものとなるようにしなければならず、協定には、以下の事項を必ず記載し、労働協約による場合を除き、有効期間の定めをするものとされています。

  • 時間外労働をさせる必要がある具体的事由
  • 対象となる船員の職務及び員数
  • 作業の種類
  • 労働時間の制限を超えて作業に従事させることができる期間及び時間数の限度並びに限度を遵守するための措置

船舶所有者は、時間外労働に関する協定を締結したときは、協定書及び時間外労働協定届出書(第十六号の三の二書式)を所轄地方運輸局長に提出します。

また、協定を更新しようとするときは、その旨の協定を所轄地方運輸局長に届け出ることによって、この届出に代えることができます。

補償休日の労働に関する協定

船舶所有者は、その使用する船員の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、船員の過半数で組織する労働組合がないときは船員の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを国土交通大臣に届け出た場合においては、その協定で定めるところにより、かつ、基準労働期間について1週間において1日与えられる休日であって補償休日以外のものの日数及び補償休日の日数を合計した日数の3分の1を限度として、補償休日において船員を作業に従事させることができます。

協定には、以下の事項を必ず記載し、労働協約による場合を除き、有効期間の定めをするものとされています。

  • 補償休日の労働をさせる必要がある具体的事由
  • 対象となる船員の職務及び員数
  • 作業の種類
  • 労働をさせることができる補償休日の日数の限度及び限度を遵守するための措置

船舶所有者は、補償休日の労働に関する協定を締結したときは、協定書及び補償休日労働協定届出書(第十六号の四書式)を所轄地方運輸局長に提出します。

また、協定を更新しようとするときは、その旨の協定を所轄地方運輸局長に届け出ることによって、この届出に代えることができます。

労働時間の限度

労働時間の制限を超えて船員を作業に従事させる場合であっても、船員の労働時間は、1日当たり14時間及び1週間当たり72時間が限度とされており、船舶所有者は、船員をこの労働時間の限度を超えて作業に従事させることはできません。

ただし、船長が補償休日又は休息時間において自ら作業に従事し又は海員を作業に従事させた場合における船員が作業に従事した労働時間は、労働時間の限度に係る労働時間には算入しないものとされています。

労働時間の限度の適用除外

労働時間の限度の規定は、定期的に短距離の航路に就航するため入出港が頻繁である船舶その他のその航海の態様が特殊であるため船員が労働時間の原則によることが著しく不適当な職務に従事することとなると認められる船舶として国土交通大臣の指定するものであって、海底の掘削に従事するもの又は海底資源探査船については適用されません。

★海底資源探査船

海底資源探査船とは、海底下に存在する資源の探査に従事するものであって、以下の要件すべてに該当するものをいいます。

  • 先端的な技術を用い、慎重かつ細心の注意を払って探査に従事する船舶であって、回頭する場合における旋回に長時間を要するものであること
  • 広範囲の海域において、長期にわたつて物理探査に従事する船舶であること

休息時間

船舶所有者は、休息時間を1日について3回以上に分割して船員に与えることはできません。また、休息時間を1日について2回に分割して船員に与える場合において、休息時間のうち、いずれか長い方の休息時間は、6時間以上としなければなりません。

休息時間の分割に関する協定

船舶所有者は、その使用する船員の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、船員の過半数で組織する労働組合がないときは船員の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを国土交通大臣に届け出た場合においては、その協定で定めるところにより、休息時間を、1日について3回以上に分割して、又は休息時間を1日について2回に分割して船員に与える場合において休息時間のうちいずれか長い方の休息時間を6時間未満として、船員に与えることができます。

ただし、海員にあっては、以下のいずれかに該当する者に限り、この規定が適用されます。

  • 船舶が港を出入りするとき、船舶が狭い水路を通過するときその他の場合において航海当直の員数を増加する場合において作業に従事する海員
  • 定期的に短距離の航路に就航するため入出港が頻繁である船舶その他のその航海の態様が特殊であるため船員が前二項の規定によることが著しく不適当な職務に従事することとなると認められる船舶で国土交通大臣の指定するものに乗り組む海員

協定には、以下の事項を必ず記載し、労働協約による場合を除き、有効期間の定めをするものとされています。

  • 特別な方法により休息時間を分割する必要がある具体的事由
  • 対象となる船員の職務及び員数
  • 作業の種類
  • 特別な方法により休息時間を分割することができる期間の限度及び1日についての分割回数の上限又は1日について2回に分割した場合におけるいずれか長い方の休息時間の時間数の下限並びにこれらを遵守するための措置

船舶所有者は、休息時間の分割に関する協定を締結したときは、協定書及び休息時間分割協定届出書(第十六号の四の二書式)を所轄地方運輸局長に提出します。

また、協定を更新しようとするときは、その旨の協定を所轄地方運輸局長に届け出ることによって、この届出に代えることができます。

割増手当

船舶所有者は、船員が、労働時間の制限を超えて又は補償休日において作業に従事したときは、以下に該当する場合についてそれぞれ定められた額以上の額の割増手当を支払う必要があります。

船員が、労働時間の制限を超えて作業に従事した場合通常の労働時間の報酬の計算額の3割増の額
船員が、補償休日において作業に従事した場合通常の労働日の報酬の計算額の4割増の額

通常の労働時間又は労働日の報酬の計算額は、以下の金額に、労働時間の制限を超えて又は補償休日において作業に従事した時間数を乗じた金額とされています。

  • 時間によって定められた報酬についてはその金額
  • 日によって定められた報酬については、その金額を一日の所定労働時間数で除した金額(日によって所定労働時間数が異なる場合においては、1 週間における1 日平均所定労働時間数で除した金額)
  • 月によって定められた報酬についてはその金額を月における所定労働時間数で除した金額(月によって所定労働時間数が異なる場合においては、1年における1か月平均所定労働時間数で除した金額
  • 上記以外の一定の期間によって定められた報酬については、上記に準じて算定した金額
  • 船員の受ける報酬が上記の複数の報酬よりなる場合においては、その部分については上記によりそれぞれ算定した金額の合算額

通常配置表

船長は、船舶に危険がある場合、船舶が衝突した場合、遭難船舶等を救助する場合その他非常の場合以外の通常の場合における船員の船内作業の時間帯及び作業内容に関し、以下の事項を定めた通常配置表を定め、これを船員室その他適当な場所に掲示しておく必要があります。

  • 船員の職名、作業の種類及び作業に定めた従事する時間
  • 船員の1日当たりの労働時間の限度及び1 週間当たりの労働時間の限度(時間外、補償休日及び休息時間の労働時間を除く)

労務管理記録簿

船舶所有者は、船員の労務管理を行う主たる事務所に、少なくとも以下の事項を記載した労務管理記録簿(第十六号の五書式又は必要事項を記載することができる別の様式)を、船員の死亡又は雇入契約の終了の日から5年を経過する日までの間、備え置く必要があります。

  • 船員の氏名及び職名
  • 基準労働期間並びにその期間の起算日及び末日
  • 乗り組む船舶の名称及び船舶に乗り組む期間
  • 労働時間に関する以下の事項(労働時間の限度の適用除外となる船舶を除く)
    • 作業の開始及び終了の時刻並びに作業の種類
    • 1日当たりの労働時間及び1週間当たりの労働時間
    • 1日当たりの時間外、補償休日及び休息時間の労働時間
  • 休日及び有給休暇に関する次の事項
    • 補償休日の超過時間が生じる1週間又は少なくとも1日の休日が与えられない1週間(就業規則その他これに準ずるものにより、あらかじめ基準労働期間の起算日及び基準労働期間内に与える休日が定められており、かつ、その日数の休日を与えることによって、1週間当たりの労働時間が平均40時間以内、休日が平均1日以上という原則を遵守しうる場合を除く)
    • 補償休日の超過時間(就業規則その他これに準ずるものにより、あらかじめ基準労働期間の起算日及び基準労働期間内に与える休日が定められており、かつ、その日数の休日を与えることによって、1週間当たりの労働時間が平均40時間以内、休日が平均1日以上という原則を遵守しうる場合を除く)
    • 休日(補償休日を除く)が与えられた年月日及び日数
    • 与えるべき補償休日の日数
    • 補償休日が与えられた年月日及び日数
    • 補償休日の付与の延期があったときは、その旨及び理由
    • 与えるべき有給休暇の日数
    • 有給休暇が与えられた年月日及び日数
  • 時間外又は補償休日に労働した年月日及び1日当たりの労働時間
  • 休息時間に関する次の事項
    • 1日当たりの休息時間
    • 休息時間を分割した場合は、いずれか長い方の休息時間(休息時間を3回以上に分割した場合にあっては、最も長い休息時間)

また、船舶所有者は、船員に対し、その求めに応じて、労務管理記録簿の記載事項のうち船員から求められた事項について、その写しを交付する必要があります。

労働時間の把握方法

船舶所有者は、労務管理記録簿の作成に当たり、パーソナルコンピュータその他の電子計算機による作業の開始及び終了の時刻の記録、タイムカードによる記録等の客観的な方法その他の適切な方法により、船員の労働時間の状況を把握する必要があります。

労務管理責任者

船舶所有者は、以下の事項を管理させるため、労務管理責任者を選任する必要があります。

  • 労務管理記録簿の作成及び備置きに関する事項
  • 船員の労働時間の状況の把握に関する事項
  • 船員の健康状態の把握に関する事項
  • 船員からの職業生活に関する相談に関する事項

労務管理責任者は、船員の労働時間、作業による心身への負荷その他の船員の状況に鑑み、労働時間の短縮、休日又は有給休暇の付与、乗り組む船舶の変更、勤務時間の変更、作業の転換、乗下船の時期の変更、研修の実施その他の適切な措置を講ずる必要があるときは、船舶所有者に対し、その旨の意見を述べるものとされています。

船舶所有者は、労務管理責任者の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、船員の健康状態が良好であることが明らかである場合を除き、船員の健康状態その他の実情について医師の意見を聴き、労働時間の短縮、休日又は有給休暇の付与、乗り組む船舶の変更、勤務時間の変更、作業の転換、乗下船の時期の変更、研修の実施その他の適切な措置のうち適切なものを講ずる必要があります。

船舶所有者が、これらの措置を講ずるため運航計画の作成及び実施に関する事項について変更の必要があると認めるときは、その船員が乗り組む船舶の運航の管理を行う内航運送をする内航海運業者に対し意見を述べるものとされています。

また、船舶所有者は、労務管理責任者について、必要な研修を受けさせることその他の労務管理責任者の管理事項を管理するための知識の習得及び向上を図るための措置を講ずるよう努めるものとされています。

例外規定

労働時間、休日、補償休日、時間外、補償休日及び休息時間の労働、労働時間の限度、休息時間、割増手当、通常配置表、記録簿の備置き等、労務管理責任者、特例の国土交通省令の規定は、船員が人命、船舶若しくは積荷の安全を図るため又は人命若しくは他の船舶を救助するため緊急を要する作業に従事する場合(海員にあっては、船長の命令により当該作業に従事する場合に限る)には適用されません。

船長は、補償休日又は休息時間において、これらの作業に自ら従事し、又は海員を従事させたときは、船舶の運航の安全の確保に支障を及ぼさない限りにおいて、作業の終了後できる限り速やかに休息をし、又は休息をさせるよう努めるものとされています。

定員

船舶所有者は、以下の場合を除いて、基準労働期間及び休日の原則を遵守しうる場合を遵守するために必要な海員の定員を定めて、その員数の海員を乗り組ませ、航海中これに欠員を生じたときは、遅滞なくその欠員を補充する必要があります。

ただし、欠員を生じたことにより他の海員の労務が過重となる場合における欠員手当の支給については、労働協約の定めるところによります。

  • 船舶が日本国外において定員に欠員ができて国内の港まで帰港するとき
  • 他船にひかれて航行するとき
  • 入渠、修繕又はその他の事由によって船舶を航行の用に供しないとき(※)
  • その他やむを得ない場合においてもよりの地方運輸局長の許可を受けたとき

(※)入渠、修繕又はその他の事由によって船舶を航行の用に供しない場合において定員数の海員を乗り組ませないときは、船舶所有者は、最寄りの地方運輸局長に、遅滞なく、その旨を届け出ること

そのほか船舶所有者は、航海当直その他の船舶の航海の安全を確保するための作業を適切に実施するために必要な員数の海員を乗り組ませる必要があります。

適用範囲等

漁船又は船員が断続的作業に従事する船舶で船舶所有者が国土交通大臣の許可を受けたものについては、労働時間、休日、補償休日、時間外労働、補償休日の労働、休息時間の労働、労働時間の限度、休息時間、割増手当、通常配置表、記録簿の備置き等、労務管理責任者、例外規定、定員の原則は適用されません。

労働時間の特例

下表に該当する船員に関しては、船舶の航海の態様及び当該船員の職務に応じ、それぞれ定められた一定期間、その労働時間等については、以下のように取り扱われます。

定期的に短距離の航路に就航するため入出港が頻繁である船舶のうち所轄地方運輸局長が指定するものに乗り組む船員1か月以内一定期間を平均した1日当たりの労働時間は12時間以内、1週間当たりの労働時間は平均40時間以内一定期間につき1か月当たり平均5日以上の休日を与えること
小型船(上記の船員のうち沿海区域又は平水区域を航行区域とする総トン数700トン未満の船舶で国内各港間のみを航海するもの)に乗り組むもの3か月以内一定期間を平均した1日当たりの労働時間は12時間以内、1週間当たりの労働時間は平均40時間以内一定期間につき1か月当たり平均5日以上の休日を与えること
旅客の接遇の充実を図るため、食堂、娯楽施設等を有し、かつ、旅客の接遇に関する業務に相当数の船員が従事する旅客船のうち所轄地方運輸局長が指定するものに乗り組む船員であってその業務に従事するもの1か月一定期間を平均した1日当たりの労働時間は12時間以内、1週間当たりの労働時間は平均40時間以内一定期間につき1か月当たり平均5日以上の休日を与えること
海底の掘削に従事する船舶のうち所轄地方運輸局長が指定するものに乗り組む船員6週間1日当たりの労働時間は10時間以内6週間について14日以上の連続した休日を与えること
海底資源探査船に乗り組む船員10週間1日当たりの労働時間は11時間以内10週間について33日以上の連続した休日を与えること
船員の日ごとの業務に著しい繁閑の差が生ずることが多い船舶のうち所轄地方運輸局長が指定するものに乗り組む船員1週間(※)1日当たりの労働時間は12時間以内、1週間の労働時間は、56時間以内(1週間の労働日数が6日以下の場合にあっては、48時間以内)特例が初めて適用された1週間の初日から起算して3か月以内に15日以上の休日を与えること(3か月が経過した後この特例が適用される場合も同様)
(※)1週間の各日の労働時間を遅くともその1週間の開始する前に、船員に通知すること(やむを得ない事由がある場合には、船舶所有者は、速やかに船員に通知することにより、あらかじめ通知した労働時間を変更することができる)

まとめ

労働時間、休日及び定員については、船員労働の特殊性が最も顕著な分野です。先に比較的与しやすい労働基準法を読み込んでいると、労務に関する基本的な考え方を押さえることができるのでお薦めです。

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