マグロでも分かる船員法の解説④【給料その他の報酬編】
船員法は、船員の雇入契約や給料、労働時間、有給休暇などを定めた法律であり、一般労働者で言うところの、労働基準法にあたる法律です。
船員労働には、長時間陸上から孤立し、「労働」と「生活」とが一致した24時間体制の就労があり、かつ、常に動揺にさらされる船内では、危険な作業をともなうなどの特殊性があることから、労働基準法とは異なる規律が必要です。そのため、船員には、厚生労働省が所管する労働基準法ではなく、国土交通省が所管する船員法が適用されます。
他方、一般社会において船員法を意識する機会はほとんどなく、改めてこれを検索しようにも、そもそも詳しく解説した文献はほとんど存在していません。
そこで当サイトでは、「マグロでも分かる海事法令」シリーズとして、「船員法」について深掘りした解説を行うことにしました。本編では、まず船員法全般に通用する一般的・包括的規定である「給料その他の報酬」について解説しています。船員の生活基礎となる分野なので、しっかりと確認するようにしてください。
★船員法の構成
- 第1章 – 総則
- 第2章 – 船長の職務及び権限
- 第3章 – 紀律
- 第4章 – 雇入契約等
- 第5章 – 給料その他の報酬
- 第6章 – 労働時間、休日及び定員
- 第7章 – 有給休暇
- 第8章 – 食料並びに安全及び衛生
- 第9章 – 年少船員
- 第9章の2 – 女子船員
- 第10章 – 災害補償
- 第11章 – 就業規則
- 第12章 – 監督
- 第13章 – 雑則
- 第14章 – 罰則
- 附則
目 次
給料その他の報酬
船員法において「給料」とは、「船舶所有者が船員に対し一定の金額により定期に支払う報酬のうち基本となるべき固定給」をいいます。
この点について、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものを「賃金」と定義している労働基準法とは異なります。
船員の給料その他の報酬は、船員労働の特殊性に基き、かつ船員の経験、能力及び職務の内容に応じて、これを定めるものとされています。
給料その他の報酬の支払方法
給料その他の報酬は、その全額を通貨で、かつ、船員からその同居の親族又は船員の収入によって生計を維持する者に渡すよう請求があったとき(※)を除き、直接船員に支払う必要があります。
船舶所有者は、船員から請求があったときは、船員に支払わるべき給料その他の報酬をその同居の親族又は船員の収入によって生計を維持する者に渡さなければならない。
(船員法第56条)
ただし、法令又は労働協約に別段の定めがある場合においては、給料その他の報酬の一部を控除して支払い、又は通貨以外のもので支払うことができます。
また、船員の同意を得た場合には、給料その他の報酬の支払について船員が指定する銀行その他の金融機関に対する船員の預金又は貯金への振込みによることができるほか、退職手当の支払いについて、以下の方法によることができます。
- 銀行その他の金融機関によって振り出された銀行その他の金融機関を支払人とする小切手を船員に交付すること
- 銀行その他の金融機関が支払保証をした小切手を船員に交付すること
なお、海員の給料その他の報酬が船内において支払われるときは、船長は、直接海員にこれを手渡す必要があります。ただし、やむを得ない事由のあるときは、他の職員に手渡させることができます。
定期払いの原則
給料その他の報酬は、原則として、これを毎月1回以上一定の期日に支払う必要があります。ただし、以下の報酬以外の報酬については、定期払いの原則は適用されません。
- 給料(報酬が歩合によって支払われる場合は、歩合による毎月の額が雇入契約に定める一定額に達しないときでも下回ることができないその一定額)
- 家族手当、職務手当、乗船を事由として支払われる報酬及び船舶、航海又は積荷の態様により支払われる報酬
- その他の固定給(算定の基礎となる期間が1か月を超えるものを除く)
給料その他の報酬の支払に関する事項を記載した書面
船舶所有者は、船員に給料その他の報酬を支払う場合においては、船員に対し、給料その他の報酬の支払に関する以下の事項を記載した書面を交付する必要があります。
- 給料その他の報酬の総額及びその内訳
- 法令又は労働協約に別段の定めがある場合において給料その他の報酬から控除する額
- 法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は船員の同意を得た場合において通貨以外の支払方法で支払う額
- 船員から船員の同居の親族又は船員の収入によって生計を維持する者に渡すよう請求書があった場合におけるその額
支払期日前の支払い
船舶所有者は、以下のいずれかの事由に該当する場合には、支払期日前でも、遅滞なく、船員が職務に従事した日数に応じて、給料その他の報酬を支払う必要があります。
- 船員が解雇され、又は退職したとき
- 船員、その同居の親族又は船員の収入によって生計を維持する者が結婚、葬祭、出産、療養又は不慮の災害の復旧に要する費用に充てようとする場合において、船員から請求があったとき
傷病中の給料請求権
船員は、負傷又は疾病のため職務に従事しない期間についても、その負傷又は疾病につき船員に故意又は重大な過失のあったときを除き、雇入契約存続中、給料及び以下の手当を請求することができます。
- 家族手当、職務手当、乗船を事由として支払われる報酬及び船舶、航海又は積荷の態様により支払われる報酬
- その他の固定給(算定の基礎となる期間が1か月を超えるものを除く)
歩合による報酬
船員の報酬が歩合によって支払われる場合においては、その歩合による毎月の額が雇入契約に定める一定額に達しないときでも、その報酬の額は、その一定額を下回ることはできません。
また、船員の報酬が歩合によって支払われるときは、解雇予告手当、失業手当、雇止手当、送還手当及び有給休暇中の報酬については、雇入契約に定める額をもって1か月分の給料の額とみなされ、この額は、上記の一定額を上回るものでなければなりません。
なお、上記の一定額の報酬は、債務と相殺することができない給料及び傷病中の給料請求権に係る給料とみなされます。
報酬支払簿
船舶所有者は、船員に対する給料その他の報酬の支払に関する事項を記載した報酬支払簿(第十六号の三書式又は同書式に掲げる事項を記載できる別様式のもの)を作成し、最後の記載をした日から5年を経過する日までの間、主たる船員の労務管理の事務を行う事務所に備え置く必要があります。
最低報酬報酬
給料その他の報酬の最低基準に関しては、最低賃金法の定めによるものとされています。
まとめ
給料その他の報酬については、条文もそれほど多くなく、比較的親しみやすい分野であるように思います。ひとまずここでは基本原則や支払方法を確認するほか、一般労働者と比較して優遇されている規定をしっかりと押さえるようにしましょう。