マグロでも分かる船員法の解説②【船長・紀律編】
船員法は、船員の雇入契約や給料、労働時間、有給休暇などを定めた法律であり、一般労働者で言うところの、労働基準法にあたる法律です。
船員労働には、長時間陸上から孤立し、「労働」と「生活」とが一致した24時間体制の就労があり、かつ、常に動揺にさらされる船内では、危険な作業をともなうなどの特殊性があることから、労働基準法とは異なる規律が必要です。そのため、船員には、厚生労働省が所管する労働基準法ではなく、国土交通省が所管する船員法が適用されます。
他方、一般社会において船員法を意識する機会はほとんどなく、改めてこれを検索しようにも、そもそも詳しく解説した文献はほとんど存在していません。
そこで当サイトでは、「マグロでも分かる海事法令」シリーズとして、「船員法」について深掘りした解説を行うことにしました。本編では、船長の職務及び権限並びに紀律について解説しています。一般社会とは異なる規定が多く、興味深い分野ではあるので、楽しみながら、根気強くしっかりと確認するようにしてください。
★船員法の構成
- 第1章 – 総則
- 第2章 – 船長の職務及び権限
- 第3章 – 紀律
- 第4章 – 雇入契約等
- 第5章 – 給料その他の報酬
- 第6章 – 労働時間、休日及び定員
- 第7章 – 有給休暇
- 第8章 – 食料並びに安全及び衛生
- 第9章 – 年少船員
- 第9章の2 – 女子船員
- 第10章 – 災害補償
- 第11章 – 就業規則
- 第12章 – 監督
- 第13章 – 雑則
- 第14章 – 罰則
- 附則
目 次
- 1 船長
- 2 船長の職務及び権限
- 2.1 指揮命令権
- 2.2 発航前の検査
- 2.3 航海の成就
- 2.4 甲板上の指揮
- 2.5 在船義務
- 2.6 船舶に危険がある場合における処置
- 2.7 船舶が衝突した場合における処置
- 2.8 遭難船舶等の救助
- 2.9 異常気象等
- 2.10 非常配置表
- 2.11 操練
- 2.12 航海当直の実施
- 2.13 巡視制度
- 2.14 水密の保持
- 2.15 非常通路及び救命設備の点検整備
- 2.16 旅客に対する避難の要領等の周知
- 2.17 船上教育
- 2.18 船上訓練
- 2.19 手引書の備置き
- 2.20 操舵設備の作動
- 2.21 自動操舵装置の使用
- 2.22 船舶自動識別装置の作動
- 2.23 船舶長距離識別追跡装置の作動
- 2.24 船橋航海当直警報装置の作動
- 2.25 作業言語
- 2.26 航海に関する記録
- 2.27 クレーン等の位置
- 2.28 水葬
- 2.29 遺留品の処置
- 2.30 在外国民の送還
- 2.31 書類の備置き
- 2.32 海員名簿
- 2.33 航海日誌
- 2.34 航行に関する報告
- 3 紀律
- 4 まとめ
船長
船長とは、船舶の乗員の中で、船舶の最高責任者、かつ船主の代理人として、法定の権限を有する者をいいます。
船長は、船主もしくは船舶借入人により、航行区域と船舶の大きさに従って、船舶職員及び小型船舶操縦者法に定める有資格者のうちから選任されますが、船舶共有の場合は、船舶管理人が選任を行います。
その地位は、雇用契約の終了事由により失われるほか、船舶所有者は、いつでも船長を解任することができます。ただし、正当な理由なく解任したときは、船長は、船舶所有者に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができるものとされています。
船長がやむを得ない事由により自ら船舶を指揮することができないときは、法令に別段の定めがある場合を除いて、他人を「代船長」に選任して自己の職務を行わせることができます。この場合において、船長は、代船長の選任について、船舶所有者に対して責任を負います。
また、船長が死亡したとき、船舶を去ったとき、又はこれを指揮することができない場合において他人を選任しないときは、運航に従事する海員は、その職掌の順位に従って、「代行船長」として、船長の職務を行います。(船員法第20条)
船長の職務及び権限
本章では、船長の重責な職務と、その権限について解説していますが、この分野の性質としては、一般労働における労働基準法というよりも、労働安全衛生法としての側面の方が強いように感じます。
中盤辺りからは、専門用語や関連法令が増えるため、尻上がりに難易度が高くなっていきます。
文言そのものではなく、文言から想起される実務の場面をイメージしながら読み進めるようにすると理解も進むように思います。
指揮命令権
船長は、海員を指揮監督し、かつ、船内にある者に対して自己の職務を行うのに必要な命令をすることができます。(船員法第7条)
ここで言う「海員」とは、「船内で使用される船長以外の乗組員で、労働の対償として給料その他の報酬を支払われる者」を指します。
船長は、海員について、当然にこれを指揮監督する権限を有するほか、例えば、船主や政府の高官であったとしても、「船内にある者」に対しては、自己の職務を行うのに必要な命令をすることができます。
発航前の検査
船長は、発航前に船舶が航海に支障ないかどうかその他航海に必要な準備が整っているかいないかを検査する義務があります。(船員法第8条)
具体的な検査事項については、船員法施行規則第2条の2において定められており、船長は、発航前に、以下の事項について検査をする必要があります。
- 船体、機関及び排水設備、操舵設備、係船設備、揚錨設備、救命設備、無線設備その他の設備が整備されていること
- 積載物の積付けが船舶の安定性をそこなう状況にないこと
- 喫水の状況から判断して船舶の安全性が保たれていること
- 燃料、食料、清水、医薬品、船用品その他の航海に必要な物品が積み込まれていること
- 水路図誌その他の航海に必要な図誌が整備されていること
- 気象通報、水路通報その他の航海に必要な情報が収集されており、それらの情報から判断して航海に支障がないこと
- 航海に必要な員数の乗組員が乗り組んでおり、かつ、それらの乗組員の健康状態が良好であること
- 航海を支障なく成就するため必要な準備が整つていること
ただし、発航の前12時間以内に操舵設備に係る事項について発航前の検査をしたとき、発航の前24時間以内に「船体、機関及び排水設備、係船設備、揚錨設備、救命設備、無線設備その他の設備が整備されていること」、「燃料、食料、清水、医薬品、船用品その他の航海に必要な物品が積み込まれていること」、「水路図誌その他の航海に必要な図誌が整備されていること」について発航前の検査をしたときは、その事項については、検査を省略することができます。
航海の成就
船長は、航海の準備が終わったときは、遅滞なく発航し、かつ、必要がある場合を除いて、予定の航路を変更しないで到達港まで航行する義務を負います。(船員法第9条)
このように、船長には、準備ができ次第なるべく早く発航し、予定の航路についても、できる限り変更することなく航行させることを義務が課されています。
甲板上の指揮
船長は、船舶が港を出入りするとき、船舶が狭い水路を通過するときその他船舶に危険のおそれがあるときは、甲板にあって自ら船舶を指揮する義務を負います。(船員法第10条)
これは、船長に対して、船舶に危険のおそれがあるときは、現場の最高責任者として、実際に現場の陣頭指揮を取らせ、その責務をまっとうさせるために設けられた規定です。
在船義務
船長は、やむを得ない場合を除いて、自己に代わって船舶を指揮すべき者(代船長)にその職務を委任した後でなければ、荷物の船積及び旅客の乗込の時から荷物の陸揚及び旅客の上陸の時まで、自己の指揮する船舶を去ることはできません。(船員法第11条)
割と有名な船長の「在船義務」ですが、船長は、原則として、荷物の陸揚及び旅客の上陸を完遂するまでは、その船舶から下船することはできません。
船舶に危険がある場合における処置
船長は、自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときは、人命の救助並びに船舶及び積荷の救助に必要な手段を尽くす義務を負います。(船員法第12条)
当然と言えば当然ですが、船舶に急迫した危険があるとき、船長は、人命の救助並びに船舶及び積荷の救助に「必要な手段を尽くす義務」を負い、これを放棄したり、我先にと逃げ出すことは許されません。また、「必要な手段を尽くす義務」については、相当厳格に解釈されています。
これに違反した事件として、2014年4月に韓国で起きた「セウォル号事件」が有名ですが、この事件では、転覆・沈没した貨物船から、船長が真っ先に脱出した結果、乗組員の指示に従って船室に残った修学旅行生・教員261人を含む304人が犠牲となりました。船長の責任は重く、逮捕され裁判にかけられた後、最終的には死亡した304人に対する殺人罪が認められ、終身刑となっています。
船舶が衝突した場合における処置
船長は、船舶が衝突したときは、自己の指揮する船舶に急迫した危険があるときを除き、互いに人命及び船舶の救助に必要な手段を尽くし、かつ船舶の名称、所有者、船籍港、発航港及び到達港を告げる義務を負います。(船員法第13条)
これは船舶同士が衝突した際に、互いの船長について課された義務であり、衝突原因がどちらにあるか等については、ここでは問題となりません。
遭難船舶等の救助
船長は、他の船舶又は航空機の遭難を知ったときは、自己の指揮する船舶に急迫した危険がある場合及び国土交通省令の定める場合を除き、人命の救助に必要な手段を尽くす義務を負います。(船員法第14条)
救助の必要の無い「国土交通省令の定める場合」については、船員法施行規則第3条において定めがあり、自己の指揮する船舶に急迫した危険がある場合のほか、以下のいずれかの事由があるとき、船長はこの義務を免除されます。
- 遭難者の所在に到着した他の船舶から救助の必要のない旨の通報があったとき
- 遭難船舶の船長又は遭難航空機の機長が、遭難信号に応答した船舶中適当と認める船舶に救助を求めた場合において、救助を求められた船舶のすべてが救助に赴いていることを知ったとき
- やむを得ない事由で救助に赴くことができないとき、又は特殊の事情によって救助に赴くことが適当でないか若しくは必要でないと認められるとき
3.の場合において、その旨を付近にある船舶に通報し、かつ、他の船舶が救助に赴いていることが明らかでないときは、遭難船舶の位置その他救助のために必要な事項を海上保安機関又は救難機関(日本近海にあっては、海上保安庁)に通報する必要があります。
異常気象等
無線電信又は無線電話の設備を有する船舶の船長は、暴風雨、流氷その他の異常な気象、海象若しくは地象又は漂流物若しくは沈没物であって、船舶の航行に危険を及ぼすおそれのあるものに遭遇したときは、その異常な現象が存することについて海上保安機関又は気象機関があらかじめ予報又は警報を発している場合を除き、下表に従い、その旨を、付近にある船舶及び海上保安機関その他の関係機関に通報する義務を負います。(船員法第14条の2)
異常な現象の種類 | 通報すべき事項 |
---|---|
熱帯性暴風雨又はその他のビューフォート風力階級10以上(風速毎秒24.5m以上)の風を伴う暴風雨 | ①日時(協定世界時及び位置 ②気圧(補正の有無を明らかにすること)及び前3時間中の気圧の変化の状況 ③風向(真方位による)及び風力(ビューフォート風力階級による)又は風速 ④うねりの進行方向(真方位による)及び周期又は波長その他の海面の状態 ⑤船舶の針路(真方位による)及び速力 |
構造物上にはげしく着氷を生ぜしめる強風 | ①日時及び位置 ②気温 ③表面水温 ④風向及び風力又は風速 |
漂流物又は通常の漂流海域外における流氷若しくは氷山 | ①日時及び位置 ②形状、漂流方向(真方位による)及び漂流速度 |
その他船舶の航行に危険を及ぼすおそれのある異常な現象 | ①日時及び位置 ②概要 |
ただし、異常な現象について、港則法第24条、航路標識法第25条、水路業務法第20条、気象業務法第7条第2項又は海上交通安全法第43条第1項の規定による報告を行ったときは、海上保安庁に対する通報は不要です。
なお、この規定による通報は、電波法第52条第3号に定める安全通信(船舶又は航空機の航行に対する重大な危険を予防するために安全信号を前置する方法その他総務省令で定める方法により行う無線通信)により行う必要があります。
非常配置表
以下の船舶の船長は、船舶に危険がある場合、船舶が衝突した場合、他の船舶又は航空機の遭難を知った場合その他非常の場合における海員の作業に関し、非常配置表を定め、これを船員室その他適当な場所に掲示して置く必要があります。(船員法第14条の3第1項)
- 旅客船(平水区域を航行区域とするものにあっては、国土交通大臣の指定する航路に就航するものに限る)
- 旅客船以外の遠洋区域又は近海区域を航行区域とする船舶
- 特定高速船
- 専ら沿海区域において従業する漁船以外の漁船
非常配置表とは、船舶において火災や浸水などの非常事態に備えて、乗組員が緊急時にどのように行動すべきかを定めた表のことを言いますが、この非常配置表には、以下のとおり、非常の場合における作業について、海員の配置を定める必要があります。
なお、国内各港間のみを航海する旅客船以外の旅客船の非常配置表は、船舶の運航管理の事務を行う事務所の所在地を管轄する地方運輸局長(運輸監理部長)の承認を受けた様式を使用する必要があります。
- 水密戸、弁、舷窓その他の水密を保持するために必要な閉鎖装置の閉鎖、排水その他の防水作業
- 旅客船にあっては、復原性計算機の利用、損傷制御用クロス連結管の操作その他の損傷時における船舶の復原性を確保するために必要な作業
- 防火戸の閉鎖、通風の遮断、消火設備の操作その他の消火作業
- 食料、航海用具その他の物品の救命艇、端艇及び救命いかだ並びに救助艇への積込み、救命艇等及び救助艇の降下並びに救命艇等及び救助艇の操縦
- 救命索発射器、救命浮環その他の救命設備の操作旅客の招集及び誘導、旅客の救命胴衣の着用の確認その他旅客の安全を確保するための作業
- 船倉、タンクその他の密閉された区画における救助作業
海員の配置は、単に配置する海員の人数を記載するものではなく、以下の事項について、具体的に配置する海員を示すものである必要があります。
- 1.2.3.6.の作業現場における指揮者及びその代行者
- 救命艇等及び救助艇ごとの指揮者及び副指揮者(端艇、救命いかだ、救助艇及び沿海区域又は平水区域を航行区域とする旅客船に搭載する救命艇にあっては、指揮者)(※)
- 内燃機関、無線設備又は探照灯を有する救命艇等及び救助艇にあっては、当該救命艇等及び救助艇ごとにこれらの設備を操作することができる者
(※)救命艇手規則第1条の船舶(旅客船及び旅客船以外の最大搭載人員100人以上の船舶)に搭載する救命艇等にあっては、船員法第118条の救命艇手をもって充てる必要があります。
最大搭載人員より著しく少ない人員を搭載して航海を行う場合において、救命艇手の員数を減ずることについて、最寄りの地方運輸局長(運輸監理部長を含む)の許可を受けたとき、又は国内各港間のみを航海する船舶であって、膨脹式救命いかだへの海員及び旅客の誘導及び乗艇並びに膨脹式救命いかだの運航に関し安全確保のための特別の措置が講じられているものについて、その船舶に搭載する膨脹式救命いかだに割り当てるべき救命艇手の員数を減ずることについて、船舶の運航管理の事務を行う事務所の所在地を管轄する地方運輸局長の許可を受け、救命艇手の員数を減じた場合における減じた員数に等しい数の救命艇等については、この限りではありません。
非常配置表には、これらのほか、以下の事項についても、あらかじめ定めておく必要があります。
- 非常の場合において海員をその配置につかせるための信号
- 非常の場合において旅客を招集するための信号(汽笛又はサイレンによる連続した7回以上の短声とこれに続く1回の長声とすること)並びに信号が出された場合に海員及び旅客がとるべき措置
- 船体放棄の命令を表す信号
- 非常の場合において旅客の乗り込むべき救命艇等
- 非常の場合において救命艇等及び救助艇に積み込むべき物品の名称及び数量
- 救命設備及び消火設備の点検及び整備を担当する職員
★特定高速船
特定高速船とは、船舶安全法施行規則第1条第14項に規定する管海官庁が1974年の海上における人命の安全のための国際条約附属書第10章第1規則に規定する高速船コードに従って指示するところにより船舶が船舶安全法第2条第1項に掲げる事項を施設し、かつ、同法第3条の規定による満載喫水線の標示をしている旨及び船舶に係る航行上の条件が、船舶安全法施行規則第13条の5第2項の規定により記入された船舶検査証書を受有する船舶をいいます。
そもそも「高速船」とは、通常の船舶よりも高速で航行できる船舶の総称であり、国土交通省海事局や日本海難防止協会では、航海速力22ノット以上の船舶を、高速船として定義しています。(航海速力35ノット以上の船舶は超高速船)
上記の特定高速船に関する説明は、船員法施行規則によるものを、そのまま記述したものですが、簡単に表現すると、高速船のうち、特定の設備等を備える船舶がこれに該当することになります。
操練
非常配置表を定めて掲示して置く必要がある船舶の船長は、国土交通省令の定めるところにより、海員及び旅客について、防火操練、救命艇操練その他非常の場合のために必要な操練を実施する必要があります。(船員法第14条の3第2項)
この操練は、非常配置表に定めるところにより、海員をその配置につかせるほか、下表に基づいて実施する必要があります。
防火操練 | 防火戸の閉鎖、通風の遮断及び消火設備の操作を行うこと |
救命艇等操練 | 救命艇等の振出し又は降下及びその附属品の確認、救命艇の内燃機関の始動及び操作並びに救命艇の進水及び操船を行い、かつ、進水装置用の照明装置を使用すること |
救助艇操練 | 救助艇の進水及び操船並びにその附属品の確認を行うこと |
防水操練 | 水密戸、弁、舷窓その他の水密を保持するために必要な閉鎖装置の操作を行うこと |
非常操舵操練 | 操舵機室からの操舵設備の直接の制御、船橋と操舵だ機室との連絡その他操舵設備の非常の場合における操舵を行うこと |
密閉区画における救助操練 | 保護具、船内通信装置及び救助器具を使用し、並びに救急措置の指導を行うこと |
損傷制御操練 | 旅客船にあっては、前各号に掲げるところによるほか、復原性計算機の利用、損傷制御用クロス連結管の操作その他の損傷時における船舶の復原性を確保するために必要な作業を行うこと |
特定高速船 | 特定高速船にあっては、上記のほか、以下の操練を実施すること ①防火操練 火災探知装置、船内通信装置及び警報装置の操作並びに旅客の避難の誘導を行うこと ②救命艇等操練 非常照明装置及び救命艇等に附属する救命設備の操作並びに海上における生存方法の指導を行うこと ③防水操練 ビルジ排水装置の操作及び旅客の避難の誘導を行うこと。 |
操練を義務付けられる船舶の船長は、下表の区分ごとに、それぞれ定められた頻度で、海員に対する操練を実施する必要があります。
旅客船(国内各港間のみを航海する旅客船及び特定高速船を除く) | 少なくとも毎週1回 |
旅客船である特定高速船 | 1週間を超えない間隔 |
旅客船以外の船舶である特定高速船 | 1か月を超えない間隔 |
上記以外の船舶 | 少なくとも毎月1回 |
海員に対する操練のうち、下表に該当する操練については、操練の区分ごとに、それぞれ定められた頻度でこれを実施する必要があります。
膨脹式救命いかだの振出し又は降下及びその附属品の確認 | 少なくとも1年に1回 外洋大型漁船以外の漁船においては少なくとも2年に1回 |
救命艇の進水及び操船 | 搭載する全ての救命艇について少なくとも3か月に1回(国内各港間のみを航海する船舶(特定高速船及び漁船を除く) 国内航海船等(外洋大型漁船以外の漁船)においては少なくとも1年に1回、 |
救助艇操練及び非常操舵操練 | 少なくとも3か月に1回 国内航海船等の救助艇操練にあっては、少なくとも1年に1回 |
損傷制御操練の船舶 | 少なくとも3か月に1回 |
密閉区画における救助操練 | 少なくとも2か月に1回 |
操練を義務付けられる船舶船舶以外の船舶における非常操舵操練 | 少なくとも3か月に1回 |
操練を義務付けられる船舶船舶以外の船舶における密閉区画における救助操練 | 少なくとも2か月に1回 |
操練を義務付けられる船舶のうち、漁船以外の船舶(国内各港間のみを航海する旅客船を除く)及び外洋大型漁船においては、発航の直前に行われた海員に対する操練に海員の4分の1以上が参加していない場合は、発航後24時間以内にこれを実施する必要があります。
また、国内航海船等以外の船舶(国内各港間のみを航海する特定高速船を除く)であって、出港後24時間を超えて船内にいることが予定される旅客が乗船するものにおいては、荒天その他の事由により実施することが著しく困難である場合を除き、旅客に対する避難のための操練を、旅客の乗船後最初の出港の前又は出港の後直ちに実施する必要があります。
★外洋大型漁船
外洋大型漁船とは、その名のとおり、外洋において操業する大型の漁船のことを指します。具体的には、船舶職員及び小型船舶操縦者法施行令別表第一の配乗表の適用に関する通則12又は13の乙区域又は甲区域において従業する総トン数500トン以上の漁船がこれに該当します。
航海当直の実施
平水区域を航行区域とする船舶又は専ら平水区域若しくは下表の海域において従業する漁船以外の船舶の船長は、航海当直の編成及び航海当直を担当する者がとるべき措置について、国土交通大臣が告示で定める航海当直基準(PDF:153KB)に従って、適切に航海当直を実施するための措置をとる必要があります。
また、船長は、航海当直をすべき職務を有する者に対し、酒気帯びの有無について確認を行うとともに、その者が酒気を帯びていることを確認した場合には、その者に航海当直を実施させることはできません。
巡視制度
旅客船(平水区域を航行区域とするものにあっては、国土交通大臣の指定する航路に就航するものに限る)の船長は、船舶の火災の予防のための巡視制度を設けなければならないほか、ロールオン・ロールオフ旅客船の船長は、ロールオン・ロールオフ貨物区域もしくは車両区域における貨物の移動又はこれらの区域への関係者以外の者の立入りを監視するための巡視制度を設ける必要があります。
ただし、これらの区域について、監視装置を備えている場合又は監視装置を備えることを要しないこととされている場合は、巡視制度を設ける必要はありません。
★ロールオン・ロールオフ旅客船
ロールオン・ロールオフ船(RORO船)とは、専門的に言えば、「ロールオン・ロールオフ貨物区域又は車両区域を有する旅客船」(船舶設備規程第2条第4項)ですが、これを平たく言えば、船の前後にある乗入口から、貨物を積んだトラックやトレーラーが自走して乗り降り(ロールオン・ロールオフ)することができるように設計された貨物船です。
★ロールオン・ロールオフ貨物区域
ロールオン・ロールオフ貨物区域とは、貨物を通常水平方向に積卸しすることができる貨物区域であって、船舶の全長又は全長の相当の部分にわたって区画されることのないものをいいます。(船舶防火構造規則第2条第17号の2)
★車両区域
車両区域とは、自走用の燃料を有する自動車を積載する貨物区域であって、旅客が出入りすることができるものをいいます。(船舶防火構造規則第2条第18号)
★監視装置
ロールオン・ロールオフ旅客船には、管海官庁が当該船舶の構造、航海の態様等を考慮して差し支えないと認める場合を除き、機能等について告示で定める要件に適合するテレビ監視装置その他の有効な監視装置を備える必要があります。
ただし、巡視制度による巡視が行われているロールオン・ロールオフ貨物区域又は車両区域については、監視装置を備える必要はありません。(船舶設備規程第146条の46)
水密の保持
水密とは、水が密閉され、水圧がかかっても漏れないようになっている状態又はその構造をいいますが、船長は、船舶の水密を保持するとともに、海員が以下のを遵守するよう監督する義務を負います。
- 甲板間における貨物倉を区画する水密隔壁に取り付けた水密戸及び甲板間における貨物倉を区画する甲板に取り付けたランプは、発航前に水密に閉じ、航行中は、これを開放しないこと
- 機関室内の水密隔壁にある取外しの可能な板戸は、発航前に水密を保つよう取り付け、航行中は、緊急の必要がある場合を除き、これを取り外さないこと
- 船舶区画規程第50条第1項の工事用の出入口に設ける水密すべり戸は、発航前に水密に閉じ、航行中は、緊急の必要がある場合を除き、これを開放しないこと
- 船舶区画規程第102条の11第1項第1号の水密戸及び昇降口の水密閉鎖装置は、発航前に水密に閉じ、航行中は、通行のため必要がある場合を除き、これを開放しないこと
- 船舶区画規程第54条の水密すべり戸は、航行中は、旅客の通行その他船舶の運航のため必要がある場合を除き、これを開放してはならず、旅客の通行その他船舶の運航のため開放したときは、直ちに閉じ得るよう準備しておくこと
- 5.以外の水密隔壁に取り付けた水密戸及び漁船の最上層の全通甲板下の船側の開口であって、船内の閉囲された場所に通じるもの(舷窓を除く)は、発航前に水密に閉じ、航行中は、作業又は通行のため必要がある場合を除き、これを開放してはならず、作業又は通行のため開放したときは、直ちに閉じ得るよう準備しておくこと
- 貨物を積載する場所にある舷窓その他航行中に近寄ることが困難な場所にある舷窓及びそのふたは、発航前に水密に閉じ、かつ、錠前その他の開くことを防止するための装置を付すべきものにあっては、施錠し、航行中はこれを開放しないこと
- 船舶区画規程第58条第2項の舷窓の下縁が発航前の喫水線の上方1.4m(満載喫水線規則別表第1の熱帯域又は熱帯季節期間における季節熱帯区域に船舶があるときは1.1m)に船舶の幅の1,000分の25を加えた距離に最低点を有する隔壁甲板に平行な線より下方にあるときは、舷窓のある甲板間のすべての舷窓を発航前に水密に閉じ、かつ、施錠し、航行中はこれを開放しないこと
- 外板の開口で垂直方向の損傷範囲を制限する甲板より下方にあるもの(7.8.の舷窓を除く)は、発航前に水密に閉じ、かつ、錠前等を付すべきものにあっては、施錠し、航行中は、開口の開放が船舶の安全性を損なう状況にない場合であって、船舶の運航のため必要があるときを除き、これを開放しないこと
- 載貨扉は、①船舶が離着岸する場合であって、載貨扉が船舶の接岸中操作するに適しない構造のものであるために、載貨扉を開放する必要があるとき、又は②船舶が安全に錨泊し、かつ、載貨扉の開放が船舶の安全性を損なう状況にない場合であって、旅客の乗降その他船舶の運航のために、載貨扉を開放する必要があるときを除き、発航前に水密に閉じ、かつ、安全装置を作動させ、航行中はこれを開放しないこと
- 舷門、載貨門その他の開口で隔壁甲板より下方にあるものは、発航前に水密に閉じ、航行中は、これを開放しないこと
- 灰棄て筒、ちり棄て筒等の船内の開口で隔壁甲板より下方にあるものは、使用した後直ちにそのふた及び自動不還弁を確実に閉じること
(※)下表の船舶については、それぞれ上記の規定について、適用されません。
特定旅客船(船舶区画規程第2編の適用を受ける船舶)以外の船舶 | 3.5.10 |
特定貨物船等(船舶区画規程第3編、第4編又は第5編の適用を受ける船舶)以外の船舶 | 4. |
特定旅客船又は特定貨物船等である船舶以外の船舶 | 8.9.11.12. |
上記7.8.の舷窓並びに9.の開口のかぎ又は暗証番号その他の解錠に必要な情報は、船長が保管又は管理する義務を負います。
そのほか旅客船の船長は、国内各港間のみの航海を行なう場合を除き、水密戸、水密戸に附属する表示器その他の装置、区画室の水密を保つための弁及び損傷制御用クロス連結管の操作用弁を毎週1回点検し、かつ、主横置隔壁にある動力式水密戸を毎日作動させる必要があります。
非常通路及び救命設備の点検整備
船長は、非常の際に脱出する通路、昇降設備及び出入口並びに救命設備を少なくとも毎月1回点検し、かつ、整備しなければならないほか、以下の救命設備については、それぞれ定められるところにより、少なくとも毎週1回点検を実施する義務を負います。
救命艇等及び救助艇並びにそれらの進水装置 | 目視により点検すること |
救命艇等及び救助艇(国内航海船等に備え付けられているものを除く)の内燃機関 | 始動及び前後進操作を行うことにより点検すること |
旅客船及び漁船以外の船舶(国内航海船等を除く)に備え付けられている救命艇(船尾からつり索を用いることなく進水するものを除く)及びその進水装置 | 救命艇を格納位置から移動することにより点検すること |
非常の場合において旅客を招集するための信号を発する装置 | 使用することにより点検すること |
旅客に対する避難の要領等の周知
船長は、避難の要領並びに救命胴衣の格納場所及び着用方法について、旅客の見やすい場所に掲示するほか、旅客に対して周知の徹底を図るため必要な措置を講ずる必要があります。
船上教育
非常配置表を定めて掲示して置く必要がある船舶の船舶の船長は、海員が船舶に乗り組んでから2週間以内に、船舶の救命設備及び消火設備の使用方法に関する教育を施さなければならないほか、海員に対し、船舶の救命設備及び消火設備の使用方法並びに海上における生存方法に関する教育を、少なくとも毎月1回(国内各港間のみを航海する旅客船以外の旅客船においては、少なくとも毎週1回)施す必要があります。
このうち救命設備及び消火設備の使用方法に関する教育については、2か月以内ごと(旅客船である特定高速船にあっては、1か月以内ごと)に、船舶のすべての救命設備及び消火設備についてこれを施す必要があります。
これらのほか、非常配置表を定めて掲示して置く必要がある船舶の船長は、海員に対し、非常配置表により割り当てられた消火作業に関する教育その他船舶の火災に対する安全を確保するための教育を施する必要があります。
船上訓練
非常配置表を定めて掲示して置く必要がある船舶の船舶の船長は、海員が船舶に乗り組んでから2週間以内に、船舶の救命設備及び消火設備の使用方法に関する訓練を実施しなければならないほか、いかだの使用方法に関する訓練を少なくとも4か月に1回、非常配置表により割り当てられた消火作業に関する訓練を定期的に実施する必要があります。
手引書の備置き
非常配置表を定めて掲示して置く必要がある船舶の船長は、船舶の救命設備の使用方法、海上における生存方法及び火災に対する安全の確保に関する手引書を、食堂、休憩室その他適当な場所に備え置く必要があります。
操舵設備の作動
複数の動力装置を同時に作動することができる操舵設備を有する船舶の船長は、船舶交通のふくそうする海域、視界が制限されている状態にある海域その他の船舶に危険のおそれがある海域を航行する場合には、これらの動力装置を作動させておく必要があります。
自動操舵装置の使用
船長は、自動操舵装置の使用に関し、以下の事項を遵守ずる義務を負います。
- 自動操舵装置を長時間使用したとき又は船舶交通のふくそうする海域、視界が制限されている状態にある海域その他の船舶に危険のおそれがある海域を航行しようとするときは、手動操舵を行うことができるかどうかについて検査すること
- 危険のおそれがある海域を航行する場合に自動操舵装置を使用するときは、直ちに手動操舵だを行うことができるようにしておくとともに、操舵を行う能力を有する者が速やかに操舵を引き継ぐことができるようにしておくこと
- 自動操舵から手動操舵への切換え及びその逆の切換えは、船長もしくは甲板部の職員により又はその監督の下に行わせること
船舶自動識別装置の作動
船舶設備規程第146条の29の規定により、船舶自動識別装置を備える船舶の船長は、船舶が抑留されもしくは捕獲されるおそれがある場合その他の船舶の船長が航海の安全を確保するためやむを得ないと認める場合又は海上保安庁の船舶であって警備救難の業務に従事するもの、水産庁の船舶であって漁業の取締まりの業務に従事するものもしくは漁船であって操業中であるものを除き。船舶の航行中、船舶自動識別装置を常時作動させておく必要があります。
船舶長距離識別追跡装置の作動
船舶設備規程第146条の29の2の規定により、船舶長距離識別追跡装置を備える船舶の船長は、船舶の航行中は、船舶長距離識別追跡装置を常時作動させておく必要があります。
船舶が抑留されもしくは捕獲されるおそれがある場合その他の船舶の船長が航海の安全を確保するためやむを得ないと認める場合、その必要はありませんが、船舶長距離識別追跡装置を停止した場合は、遅滞なく、海上保安庁に通報する義務を負います。
船橋航海当直警報装置の作動
船舶設備規程第146条の49の規定により、船橋航海当直警報装置を備える船舶の船長は、船舶の航行中は、船橋航海当直警報装置を、常時作動させておく必要があります。
作業言語
船長は、乗組員が航海の安全に関し適切な動作を確実にするために使用する作業言語を決定し、その作業言語名を航海日誌の第一表の余白に記載する必要があります。ただし、作業言語を日本語に決定し、かつ、国際航海(一国と他の国との間の航海)に従事しない場合には、作業言語名を記載する必要はありません。
これに加え、船長は、非常配置表又は旅客に対する避難の要領等に関する掲示物において、上記の規定により決定された作業言語以外の言語が使用されている場合には、その作業言語への訳文を付す必要があります。
また、以下の船舶(推進機関を有しない船舶を除く)の船長は、乗組員が航海の安全に関して船外と通信連絡を行う場合及び航海当直を実施している者が水先人と会話をする場合には、相手方の使用する言語が日本語又は英語以外の言語であって乗組員の使用するものと同一であるときを除き、日本語(相手方の使用する言語が日本語である場合に限る)又は英語を使用させる必要があります。
- 国際航海に従事する旅客船
- 旅客船又は自ら漁ろうに従事する漁船以外の船舶であって、国際航海に従事するもの(国際総トン数」が500トン以上のものに限る)
航海に関する記録
国際航海に従事する国際総トン数150トン以上の船舶(推進機関を有しない船舶及び自ら漁ろうに従事する漁船を除く)の船長は、国土交通大臣が定める告示(PDF:73.70KB)に則り、航海に関する記録を作成し、これを船内に保存ずる必要があります。
クレーン等の位置
船長は、クレーン、デリックその他これらに類する装置を航海の安全に支障を及ぼすおそれのない位置に保持する必要があります。
水葬
船長は、船舶の航行中船内にある者が死亡したときは、これを水葬に付することができます。(船員法第15条)
ただし、以下のすべての条件を備えなければ、死体を水葬に付することはできません。
- 船舶が公海にあること
- 死亡後24時間を経過したこと(伝染病によって死亡したときを除く)
- 衛生上死体を船内に保存することができないこと(船舶が死体を載せて入港することを禁止された港に入港しようとするときその他正当の事由があるときを除く)
- 医師の乗り組む船舶にあっては、医師が死亡診断書を作成したこと
- 伝染病によって死亡したときは、十分な消毒を行ったこと
船長は、死体を水葬に付するときは、死体が浮き上らないような適当な処置を講じ、かつ、なるべく遺族のために本人の写真を撮影した上、遺髪その他遺品となるものを保管し、相当の儀礼を行う必要があります。
遺留品の処置
船長は、船内にある者が死亡し、又は行方不明になったときは、遅滞なく、その船舶に乗り込む本人の親族、友人その他適当な者2名以上を立ち会わせて、その遺留品を取り調べた上、遺留品目録を作成する必要があります。
遺留品目録には、以下の事項を記載して、船長及び立会人がこれに氏名を記載する必要があります。
- 本人の氏名、本籍、住所並びに死亡し、又は行方不明となった位置及び年月日時
- 遺留品の品名及び数量
- 遺留品目録の作成年月日
- 売却その他の処分をしたときは、その顛末
船長は、遺留品を相続人その他の利害関係人の利益に適する方法により管理し、遺留品目録と共に相続人その他の権利者に引き渡す義務を負いますが、遺留品目録及び遺留品の管理及び引渡しを、船舶所有者に委託することができます。
船長又は船舶所有者が、遺留品の権利者の存否又は所在が分らないときは、最寄りの地方運輸局長にこれを遺留品目録と共に提出する必要があります。また、この規定によって遺留品目録と共に遺留品を地方運輸局長に提出したときは、遺留品目録の写しに地方運輸局長の証明を求めることができます。
在外国民の送還
船長は、外国に駐在する日本の領事官が、法令の定めるところにより、日本国民の送還を命じたときは、正当の事由がなければ、これを拒むことができません。(船員法第17条)
書類の備置き
船長は、原則として、以下の書類を船内に備え置く必要があります。
- 船舶国籍証書もしくは仮船舶国籍証書又は国籍証明書、一部事項証明書もしくは全部事項証明書(一部事項証明書もしくは全部事項証明書については、現に小型船舶登録原簿に登録された事項を証するものに限る)
- 海員名簿
- 航海日誌
- 積荷目録
- 海上運送法第26条第3項に規定する航海命令により航海に従事する船舶である旨の証明書
ただし、以下の船舶については、上記の書類のうち、船舶国籍証書等を備え置く必要はありません。
- 船舶法施行細則第4条の規定により航海を行う船舶
- 総トン数20トン未満の船舶(漁船を除く)であって、ろかい又は主としてろかいをもって運転する舟、係留船その他国土交通省令で定める船舶
- 総トン数20トン未満の船舶(漁船を除く)であって、臨時航行する船舶
- 総トン数20トン未満の船舶(漁船を除く)であって、新規登録又は変更登録を受けた後に、国籍証明書等を備え置くため航行する船舶
また、船積港又は陸揚港が外国にある物品運送を行なう船舶以外の船舶においては、積荷目録を備え置く必要はありません。
海員名簿
海員名簿は、船員の氏名、船内における職務、雇入期間その他の船員の勤務に関する事項を記載する書類ですが、船長は、船員の雇入契約の成立等があったときは、遅滞なく、これらの事項を、海員名簿に記載する必要があります。また、海員名簿が滅失し、又は毀損したときは、遅滞なく、新たに海員名簿を作成する必要があります。
ただし、船舶が沈没もしくは滅失したこと又は全く運航に堪えなくなったことにより雇入契約が終了した場合において、海員名簿が滅失し又は毀損したときには、これらの規定は適用されません。
一括届出の許可を受けた船舶に係る海員名簿は、主たる船員の労務管理の事務を行う事務所の所在地を管轄する地方運輸局長(その事務所が国外にあるときは、関東運輸局長(船舶貸借の場合であって船舶の所有者の住所地等が国内にあるとき(住所地等が複数ある場合であって、これらが複数の地方運輸局の管轄区域にわたるときを除く)は、住所地等を管轄する地方運輸局長)が指定した場所に備え置く必要があります。
海員名簿は、船員の死亡又は雇入契約の終了の日から5年を経過する日までの間、船内又は地方運輸局長が指定した場所に備え置く必要がありますが、船舶を譲渡したときその他のやむを得ない事由があるときは、主たる船員の労務管理の事務を行う事務所にこれを備え置くことができます。
★一括届出
一括届出とは、複数の船舶を有する船舶所有者が、雇入契約等について、まとめて提出することができる制度です。
船舶に船員として船舶に乗り組むためには、雇入契約を締結し、これを届け出る必要がありますが、下船したときや、その契約内容を変更したときも、そのつど、これを届け出る必要があります。
船員が乗下船するたびに届け出ることは事務的負担が大きいことから、同一船舶所有者に属する航海の態様が類似し、かつ、船員の労働条件が同等である複数の船舶相互間において一定の条件を満たした上で一括届出の許可を受けることにより、許可を受けた複数の船舶に乗下船するたびに届出をする必要がなくなります。
航海日誌
船長は、定められた事項を航海日誌に記載し、最後の記載をした日から3年を経過する日までの間、船内に備え置く必要があります。
航海日誌の様式は、以下の様式(第二号書式)を使用するものとされていますが、国内各港間のみを航海する船舶又は第一種の従業制限を有する漁船については、この様式のうち、出生、死亡及び死産に関する第六表から第八表までは備える必要はありません。
また、航海日誌は、外国語によって作成することもできます。
航海日誌には、航海の概要を第四表に記載するほか、以下のいずれかの場合については、その概要を第五表に記載する必要があります。
- 発航前の検査として操舵設備について検査を行ったとき
- 自己の指揮する船舶に急迫した危険がある等の理由により、遭難船舶等を救助しなかったとき
- 操練を行い、又は行うことができなかったとき
- 水密を保持すべき水密戸等を開放し、若しくは閉じ、又は点検したとき
- 救命設備の点検整備を行ったとき
- 船上訓練を行ったとき
- 船舶が抑留され若しくは捕獲されるおそれがある場合その他の船舶の船長が航海の安全を確保するためやむを得ないと認める場合等の理由により、義務があるのに船舶自動識別装置を作動させておかなかったとき
- 船舶が抑留され若しくは捕獲されるおそれがある場合その他の船舶の船長が航海の安全を確保するためやむを得ないと認める場合等の理由により船舶長距離識別追跡装置を作動させておかなかったとき
- 水葬、遺留品の処置、在外国民の送還、懲戒、危険に対する処置、強制下船又は行政庁に対する援助の請求を行ったとき
- 航行に関する報告が必要な場合に該当したとき
- 船長以外の者が船長の職務を行ったとき
- 自蔵式呼吸具、送気式呼吸具及び空気圧縮機の点検を行ったとき
- 船員労働安全衛生規則第71条第2項第8号の規定により検知を行ったとき
- 貨物タンクの圧力逃し弁の設定圧力の変更を行ったとき
- 燃料タンクの圧力逃し弁とタンクとの間の空気管の流路の遮断を行ったとき
- 船内において出生又は死産があったとき
- 海員その他船内にある者による犯罪があったとき
- 労働関係に関する争議行為があったとき
- 国際航海に従事する船舶において事故その他の理由による例外的な船舶発生廃棄物の排出を行ったとき(海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律施行規則第12条の2の43ただし書の場合を除く)
- 国際航海に従事する船舶(海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律施行規則第12条の17の5の2第1項ただし書の船舶を除く)が海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律施行令第11条の7の表第1号上欄に掲げる海域に入域し、若しくはその海域から出域するとき又は当該海域内において原動機を始動し、若しくは停止するとき
- 海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律第19条の21第1項の規定により、海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律施行令第11条の10の表第1号上欄に掲げる海域に入域する場合であって、同号下欄に掲げる基準に適合する燃料油の使用を開始するとき
- 国際航海に従事する船舶が海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律施行令別表第1の5に掲げる南極海域又は北極海域に入域し、若しくはその海域から出域するとき又は当該海域において海氷の密接度が変化するとき
航行に関する報告
船長は、以下のいずれかに該当する場合には、国土交通大臣に、その旨を報告する義務を負います。
- 船舶の衝突、乗揚、沈没、滅失、火災、機関の損傷その他の海難が発生したとき
- 人命又は船舶の救助に従事したとき
- 無線電信によって知ったときを除いて、航行中他の船舶の遭難を知ったとき
- 船内にある者が死亡し、又は行方不明となったとき
- 予定の航路を変更したとき
- 船舶が抑留され、又は捕獲されたときその他船舶に関し著しい事故があったとき
船長は、これらの報告をしようとするときは、遅滞なく、地方運輸局長又は指定市町村長に対し、第四号書式による報告書3通を提出し、かつ、航海日誌を提示しなければならない。ただし、滅失その他やむを得ない事由があるときは、航海日誌の提示は不要です。
この規定により航海日誌を提示する場合において、航海日誌が英語を除く外国語によって作成されているときは、翻訳者を明らかにした日本語又は英語による訳文を添付するものとされています。
なお、船長が報告をした事実及び船舶所有者がこれに準じて航行に関する報告をした事実については、船長又は船舶所有者は、地方運輸局長に対し航海日誌を提示し、かつ、申請書を提出して、報告書の写しに証明を求めることができます。
紀律
小難しい専門用語が飛び交う前章とは異なり、本章は条文数も少なく、比較的取り組みやすい分野となっています。
「規律」と「紀律」は、ともに「集団や機構の秩序を維持するルール」を意味する言葉ですが、あえて「紀律」の方を使用しているのは、船員に適用するルールについて、「風紀を律する」という点に重きを置いている証左です。
昭和の空気感を体感していない世代にとっては、やや面食らうであろう規定ばかりですが、船員労働の特殊性が垣間見える分野なので、しっかりと習得するようにしてください。
船内秩序
海員は、以下の事項を遵守する義務を負います。
- 上長の職務上の命令に従うこと
- 職務を怠り、又は他の乗組員の職務を妨げないこと
- 船長の指定する時までに船舶に乗り込むこと
- 船長の許可なく船舶を去らないこと
- 船長の許可なく救命艇その他の重要な属具を使用しないこと
- 船内の食料又は淡水を濫費しないこと
- 船長の許可なく電気若しくは火気を使用し、又は禁止された場所で喫煙しないこと
- 船長の許可なく日用品以外の物品を船内に持ち込み、又は船内から持ち出さないこと
- 船内において争闘、乱酔その他粗暴の行為をしないこと
- その他船内の秩序を乱すようなことをしないこと
懲戒
船長は、海員が上記の事項を守らないときは、これを懲戒することができます。この懲戒には、上陸禁止及び戒告の2種があり、上陸禁止の期間は、初日を含めて10日以内(停泊日数のみを算入)とされています。
船長が海員を懲戒しようとするときは、3人以上の海員を立ち会わせて本人及び関係人を取り調べた上、立会人の意見を聴く必要があります。
危険に対する処置
船長は、海員が凶器、爆発又は発火しやすい物、劇薬その他の危険物を所持するときは、その物につき保管、放棄その他の処置をすることができるほか、船内にある者の生命若しくは身体又は船舶に危害を及ぼすような行為をしようとする海員に対し、その危害を避けるのに必要な処置をすることができます。
また、船長が必要があると認めるときは、旅客その他船内にある者に対しても、これらの処置をすることができます。
強制下船
船長は、雇入契約の終了の届出をした後、届出に係る海員が船舶を去らないときは、その海員を強制して船舶から去らせることができます。
行政庁に対する援助の請求
船長は、海員その他船内にある者の行為が人命又は船舶に危害を及ぼしその他船内の秩序を著しくみだす場合において、必要があると認めるときは、行政庁に援助を請求することができます。
争議行為の制限
争議行為とは、労働関係の当事者が、その主張を貫徹することを目的として行う行為(ストライキ、怠業、作業所閉鎖など)ですが、労働関係に関する争議行為は、船舶が外国の港にあるとき、又はその争議行為により人命若しくは船舶に危険が及ぶようなときは、これを行うことができません。
まとめ
船長は、「船舶」という孤立した自治体の首長とも言える存在です。強大な権限が与えられている一方で、極めて重い職責を負わされる立場でもあります。
ここではまず、船長の職務の全体像を項目でざっくりと把握してから、その後に細かい規定に目を通し、詳細なイメージを固めるようにしてください。
理解が進めば、海事特有の世界観を垣間見ることができる興味深い分野ではあるので、根気強く何度も読み込んで、しっかりと習得するようにしてください。