内航海運業に関する登録(許可)申請と届出について
内航海運業法では、内航運送を船舶による海上における物品の運送であって、船積港及び陸揚港のいずれもが日本国内にあるものと定義し、さらに内航運送をする事業又は内航運送の用に供される船舶の貸渡しをする事業を内航海運業として定義しています。
内航海運業を営もうとするとき(若しくは営むとき)は、使用する船舶の規模により、登録申請若しくは事後届出のいずれかの手続きを必ず行う必要があります。
他方、陸上における運送事業以上に耳馴染みの少ない事業形態であることから、この手続きはあまり一般的ではありません。
そこで本稿では、内航海運業に関する制度を詳しく知りたい方に向けて、内航海運業に求められる基準や手続方法について、できる限り詳しく解説していきたいと思います。
目 次
内航海運業
冒頭で触れているとおり、内航運送とは、船舶による海上における物品の運送であって、船積港及び陸揚港のいずれもが日本国内にあるものを指します。ここで言うところの「船舶」には艀(はしけ)を含み、櫓櫂船(ろかいせん)と漁船は除外されています。
また、内航海運業を形態別に区分すると、①内航運送をする事業(内航運送業)、②内航運送の用に供される船舶の貸渡しをする事業(内航船舶貸渡業)、③内航運送の用に供される船舶の管理をする事業(内航船舶管理業)の3つがこれに該当することになります。
内航運送業
内航海運業に該当する「内航運送をする事業」からは、海上運送法に規定する旅客定期航路事業及び旅客不定期航路事業、港湾運送事業法に規定する港湾運送事業並びに政令指定港湾以外の港湾において港湾運送事業に相当する事業を営む事業は除外されています。
★政令指定港湾
都道府県 | 港湾 |
---|---|
北海道 | 稚内、留萌、小樽、函館、室蘭、苫小牧、釧路 |
青森 | 青森、八戸 |
岩手 | 久慈、宮古、釜石、大船渡 |
宮城 | 石巻、仙台塩釜、 |
福島 | 小名浜 |
秋田 | 秋田船川 |
山形 | 酒田 |
新潟 | 新潟、両津、直江津 |
茨城 | 日立、鹿島 |
千葉 | 木更津、千葉 |
東京 神奈川 | 京浜 |
神奈川 | 横須賀 |
静岡 | 田子の浦、清水 |
愛知 | 三河、衣浦、名古屋 |
三重 | 四日市 |
富山 | 伏木富山 |
石川 | 七尾、金沢 |
福井 | 敦賀 |
京都 | 舞鶴、宮津 |
和歌山 | 和歌山下津 |
大阪 | 阪南、大阪 |
兵庫 | 尼崎西宮芦屋、神戸、東播磨、姫路 |
徳島 | 徳島小松島 |
香川 | 高松、坂出 |
愛媛 | 新居浜、今治、松山、郡中 |
高知 | 高知 |
岡山 | 岡山、宇野、水島、笠岡 |
広島 | 福山、尾道糸崎、呉、広島 |
鳥取 島根 | 境 |
山口 | 岩国、徳山下松、三田尻中関、宇部、小野田 |
山口 福岡 | 関門 |
福岡 | 苅田、博多、大牟田、三池 |
佐賀 | 唐津 |
佐賀 長崎 | 伊万里 |
長崎 | 臼浦、相浦、佐世保、長崎 |
熊本 | 三角、八代、水俣 |
大分 | 大分、津久見、佐伯 |
宮崎 | 細島、油津 |
鹿児島 | 鹿児島、名瀬 |
沖縄 | 運天、那覇、平良、石垣 |
内航船舶貸渡業
内航海運業に該当する「内航運送の用に供される船舶の貸渡しをする事業」には、定期傭船が含まれ、主として港湾運送事業の用に供される船舶の貸渡しをはじめとする一般的な船舶の貸渡しは除かれます。
内航船舶管理業
内航海運業に該当する「内航運送の用に供される船舶の管理をする事業」とは、委託その他いかなる名義をもってするかを問わず、他人の需要に応じ、船舶に船員を乗り組ませ、船舶の点検及び整備並びに航海を行う業務をいいます。また、主として港湾運送事業の用に供される船舶に係るものはここからは除外されています。
登録及び届出
総トン数100トン以上又は長さ30m以上の船舶による内航海運業を営もうとする者は、国土交通大臣に対して申請を行い、その登録を受ける必要があります。
また、総トン数100トン未満の船舶であって長さ30m未満のものによる内航海運業を営む者は、事業開始の日から30日以内に、その旨及び事業計画を国土交通大臣に届け出るものとされています。
したがって、内航海運業を営もうとするとき(若しくは営むとき)は、登録申請若しくは事後届出のいずれかの手続きを必ず行う必要があります。登録申請であるか事後届出であるかは、使用する船舶の規模により決します。(下表)
使用する船舶の規模 | 必要となる手続き |
---|---|
総トン数100トン以上又は長さ30m以上の船舶 | 登録申請 |
総トン数100トン未満かつ長さ30m未満の船舶 | 事後の届出 |
事業開始の届出
総トン数100トン未満の船舶であって長さ30m未満のものによる内航海運業を営む者は、事業開始の日から30日以内に、所轄地方運輸局に対して事業開始届出書及び以下の事業計画を記載した書類を提出することにより届出を行います。
- 資金計画
- 船員配乗計画
- 使用船舶の明細
- 主として取引しようとする相手方の氏名又は名称及び住所
- 他に営業を行っている場合はその営業の種類及び概要
- 内航貨物定期航路事業を営もうとする者にあっては、内航貨物定期航路事業の明細
登録の申請
総トン数100トン以上又は長さ30m以上の船舶による内航海運業を営もうとする者は、以下の書類を地方運輸局に対して提出することにより登録申請を行います。
- 登録申請書
- 事業計画を記載した書類
- 定款及び登記事項証明書(法人)
- 最近の事業年度における貸借対照表(法人)
- 役員又は社員の名簿(法人)
- 定款及び発起人(又は設立者)の名簿並びに株式の引受け、出資(又は財産)の寄附の状況及び見込みを記載した書類(法人を設立しようとする者)
- 財産目録及び戸籍抄本(又は本籍の記載のある住民票の写し)(個人)
- 登録事項証明書その他の船舶の所有又は貸借関係を証する書類
- 船員の雇用契約書の写しその他の船員配乗計画の実施のための準備の状況を示す書類
また、上記の登録申請書及び事業計画には、それぞれ以下の事項を記載する必要があります。
★登録申請書の記載事項
- 氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては代表者の氏名
- 営業所の名称及び位置
- 使用する船舶の名称、船種、総トン数及び長さ
- 船舶所有者(船舶が共有されている場合は船舶管理人)の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては代表者の氏名
- 船舶所有者以外の者から船舶を借り受けている場合は、船舶の貸渡しをした者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては代表者の氏名
- 船舶の管理に係る役務の提供を受ける場合は、役務を提供する者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては代表者の氏名
- 船舶の貸渡し又は船舶の管理をする事業を営もうとするときは、その貸渡しを受ける者又はその船舶の管理に係る役務の提供を受ける者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては代表者の氏名
- 内航貨物定期航路事業を営もうとする者にあっては、航路の名称、起点及び終点並びに運航回数
- 海運組合に加入している場合は海運組合の名称
★事業計画の記載事項
- 資金計画
- 船員配乗計画
- 使用船舶の明細
- 主として取引しようとする相手方の氏名又は名称及び住所
- 他に営業を行っている場合はその営業の種類及び概要
- 内航貨物定期航路事業を営もうとする者にあっては、内航貨物定期航路事業の明細
登録の基準
基本的に船舶が1隻あれば始めることができる事業ですが、登録を受けるためには、申請者が登録拒否事由に該当しないことを前提として、船舶基準、財産的基礎基準及び事業計画基準のすべての基準をクリアする必要があります。
登録拒否事由
そもそもの条件として、登録を受けようとする者が以下のいずれかの事由に該当する場合は、内航海運業者としての適格性を欠く者として登録を受けることはできません。
- 申請者がこの法律の規定に違反して刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から1年を経過しない者であるとき
- 申請者が内航海運業の登録を取り消され、その取消しの日から1年を経過しない者(登録を取り消された者が法人である場合においては、取消しに係る聴聞の通知が到達した日前60日以内にその法人の役員(いかなる名称によるかを問わずこれと同等以上の職権又は支配力を有する者を含む)であった者で取消しの日から1年を経過しないものを含む)であるとき
- 申請者が申請前1年以内に内航海運業に関し不正な行為をした者であるとき
- 申請者が法人である場合において、その役員が上記のいずれかに該当する者であるとき
船舶基準
内航運送をする事業又は船舶の貸渡しをする事業に係る申請にあっては、申請者が総トン数100トン以上又は長さ30m以上の船舶を有している必要があります。この基準を満たしていない場合は前述した届出事業に該当することになります。
財産的基礎基準
船舶の管理をする事業のみに係る申請にあっては、申請者の有する財産及び損益の状況が良好であることが求めれています。
事業計画基準
申請者が資金計画、船員配乗計画その他の事項について以下の基準に適合する事業計画を有していないときは登録を受けることはできません。
資金計画
資金計画については、以下の費用及び借入金を勘案して適切に定められているものであることが必要とされています。
- 船舶検査に要する費用
- 船員の労働関係に関する法令の規定による船員の労働条件、安全衛生その他の労働環境の整備に要する費用
- 船舶の建造又は改造のため必要な資金を借り入れた場合はその借入金
船員配乗計画
船員配乗計画については、以下の基準に適合しているものであることが必要とされています。
- 船舶職員及び小型船舶操縦者法の規定による船舶職員の乗組みに関する基準
- 船員の労働関係に関する法令の規定による船員の労働時間及び定員に関する基準
内航運送約款
内航運送をする内航海運業者は、ロールオン・ロールオフ船又はコンテナ船により内航運送をする事業を行おうとするときは、内航運送をする事業に関する内航運送約款を定め、その実施の日までに、内航運送約款設定届出書及び以下の事項について設定した内航運送約款を地方運輸局に対して提出することにより国土交通大臣に届け出るとともに、内航運送約款を営業所その他の事業所において公衆に見やすいように掲示する必要があります。
- 運賃及び料金の収受又は払戻しその他の運賃及び料金に関する事項
- 運送の引受けに関する事項
- 貨物の受取、引渡し及び保管に関する事項
- 損害賠償その他責任に関する事項
- その他内航運送約款の内容として必要な事項
なお、国土交通大臣が標準内航運送約款を定めて公示した場合において、内航運送をする内航海運業者が、標準内航運送約款と同一の内航運送約款を定め、又は現に定めている内航運送約款を標準内航運送約款と同一のものに変更したときは、その内航運送約款について届出をしたものとみなされます。
書面の交付
内航海運業者は、内航海運業に係る業務に関し契約を締結したときは、契約が内航運送約款によるものである場合(特約が付されたものを除く)、又は災害その他やむを得ない事由により書面の交付が困難である場合(当該事由がなくなるまでの間に限る)を除き、契約の相手方に対し、遅滞なく以下の事項を記載した書面を交付する必要があります。(契約の相手方の承諾を得て、、書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することもできます。)
- 契約の当事者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては代表者の氏名
- 提供する役務の範囲、期間及び対価に関する事項提供する役務に係る費用を負担する者に関する事項
- 荷役作業その他の内航海運業に附帯する業務を行う者及び当該業務に係る費用を負担する者に関する事項
- 契約の変更及び解除に関する事項
- 損害賠償の責任に関する事項定期傭船契約にあっては以下の事項
- 契約に係る船員の職種及び数並びに予備船員の数に関する事項
- 契約に係る船員の過労を防止するための航行期間の制限その他の船舶の利用の制限をする場合は制限に関する事項
- 契約が特約の付された内航運送約款によるものである場合には特約の内容
安全管理規程
内航運送をする内航海運業者は、事業を開始する日までに、安全管理規程設定届出書及び以下の事項について設定した安全管理規程を地方運輸局に対して提出することにより国土交通大臣に届け出るものとされています。
- 輸送の安全を確保するための事業の運営の方針に関する事項
- 基本的な方針に関する事項
- 関係法令及び安全管理規程その他の輸送の安全の確保のための定めの遵守に関する事項
- 取組に関する事項
- 輸送の安全を確保するための事業の実施及びその管理の体制に関する事項
- 組織体制に関する事項
- 勤務体制に関する事項
- 経営の責任者による輸送の安全の確保に係る責務に関する事項
- 安全統括管理者の権限及び責務に関する事項
- 運航管理者の権限及び責務に関する事項
- 輸送の安全を確保するための事業の実施及びその管理の方法に関する事項
- 情報の伝達及び共有に関する事項
- 船舶の運航の管理に関する事項
- 運航計画、配船計画及び配乗計画の作成、改定及び臨時変更の際における船員の労働時間の確認その他の安全性の確認に関する事項
- 運航を中止すべき気象及び海象の条件並びに発航中止の指示に関する事項
- 気象通報その他の船舶の運航の管理のため必要な情報の収集及び伝達に関する事項
- 危険物その他の乗組員の安全を害するおそれのある物品の取扱いに関する事項
- 船舶の離着岸の際における安全性の確保のため必要な作業方法に関する事項
- 船舶その他の輸送施設の点検及び整備に関する事項
- 事故、災害等の防止対策の検討及び実施に関する事項
- 事故、災害等が発生した場合の対応に関する事項
- 内部監査その他の事業の実施及びその管理の状況の確認に関する事項
- 教育及び研修に関する事項
- 輸送の安全に係る文書の整備及び管理に関する事項
- 事業の実施及びその管理の改善に関する事項
- 安全統括管理者の選任及び解任に関する事項
- 運航管理者の選任及び解任に関する事項
安全統括管理者及び運航管理者
内航運送をする内航海運業者は、安全統括管理者及び運航管理者を選任しなければならず、これを選任し、又は解任したときは、遅滞なく、その旨を国土交通大臣に届け出る必要があります。
安全統括管理者
安全統括管理者は、以下のすべての要件を満たす者のうちから選任する必要があります。
- 内航海運業の安全に関する業務の経験の期間が通算して3年以上である者又は地方運輸局長(運輸監理部長を含む)がこれと同等以上の能力を有すると認めた者であること
- 国土交通大臣の命令により解任され、解任の日から2年を経過しない者でないこと
運航管理者
運航管理者は、以下のいずれかに該当する18歳以上の者であって、国土交通大臣の命令により解任され、解任の日から2年を経過しない者ではないものを選任する必要があります。
- 船舶の運航の管理を行おうとする内航海運業に使用する船舶のうち最大のものと同等以上の総トン数を有する船舶に船長として3年又は甲板部の職員として5年以上乗り組んだ経験を有する者であること
- 船舶の運航の管理を行おうとする内航海運業と同等以上の規模の内航海運業における船舶の運航の管理に関し3年以上の実務の経験を有する者であること
- 内航海運業における船舶の運航の管理に関し上記の者と同等以上の能力を有すると地方運輸局長が認めた者であること
選任及び解任の届出
安全統括管理者又は運航管理者の選任又は解任の届出をしようとする者は、安全統括管理者(運航管理者)選任(解任)届出書に以下の書類を添付して地方運輸局に対して提出することにより届出を行います。
安全統括管理者選任届出書 | 選任された安全統括管理者が事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にあること及び要件を備えることを証する書類 |
運航管理者選任届出書 | 選任された運航管理者が前条各号に掲げる要件を備えることを証する書類 |
内航海運業関連サポート
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