船員労務供給事業について
船員労務供給とは、「供給契約に基づいて人を船員として他人の指揮命令を受けて労務に従事させること」をいい、船員派遣に該当するものを含まないものとされています。
何人も、労働組合等が許可を受けて行う場合を除いては、船員労務供給事業を行い、又はその船員労務供給事業を行う者から供給される人を船員として自らの指揮命令の下に労務に従事させることはできません。これを逆に言うのであれば、労働組合等は、国土交通大臣の許可を受けたときは、無料の船員労務供給事業を行うことができます。
なお、船員労務供給事業には、定期傭船(ようせん)契約による場合を除き、請負契約により人を船員として他人の指揮命令を受けて労務に従事させる事業が含まれます。
無料船員労務供給事業の許可
無料船員労務供給事業の許可を受けようとする労働組合等は、告示で定める事項を記載した許可申請書を、国土交通大臣に提出して申請を行います。国土交通大臣は、許可申請書を受理したときは、交通政策審議会の意見を聴き、許可するかどうかを決定します。
無料の船員労務供給事業の許可の有効期間は5年とされており、有効期間の満了後引き続き当該許可に係る無料の船員労務供給事業を行おうとする者は、許可の有効期間の更新を受ける必要があります。
帳簿書類・事業報告書
無料船員労務供給事業者は、告示で定める帳簿書類を備え付け、用済後3年間、これを保存しなければならないものとされています。また、毎年4月30日までに、その年の前年の4月1日からその年の3月31日までの間における無料の船員労務供給事業に係る事業報告書を作成し、国土交通大臣に提出する必要もあります。
労働条件の明示義務
船員労務供給を受けようとする者は、あらかじめ、無料船員労務供給事業者に対し、無料船員労務供給事業者は、紹介に当たり、求職者に対し、その従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示する必要があります。
明示すべき労働条件のうち、以下の事項については、やむを得ない事由によりあらかじめこれらの方法によることができない場合において、これらの方法以外の方法により明示したときを除き、定められた方法により明示しなければならないものとされています。
労働条件 | 明示の方法 |
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①賃金(船員法に規定する報酬に限る)の額に関する事項 ②基準労働期間、労働時間、休息時間及び休日に関する事項 ③求職者が従事すべき業務の内容に関する事項 ④雇用期間に関する事項 ⑤求職者が乗り組むべき船舶に関する事項 ⑥健康保険法による健康保険、厚生年金保険法による厚生年金、労働者災害補償保険法による労働者災害補償保険、雇用保険法による雇用保険及び船員保険法による船員保険の適用に関する事項 | ①書面の交付の方法 ②電子情報処理組織を使用する方法のうち、書面交付者の使用に係る電子計算機と書面被交付者の使用に係る電子計算機とを接続する電気通信回線を通じて送信し、書面被交付者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法(書面被交付者がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものに限る)によることを書面被交付者が希望した場合における当該方法 |
②の方法により行われた明示事項の明示は、書面被交付者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルへの記録がされた時に当該書面被交付者に到達したものとみなされます。
個人情報の保護
無料船員労務供給事業者は、その業務に関し、求職者の個人情報を収集し、保管し、又は使用するに当たっては、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合を除き、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければなりません。また、求職者の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講ずる義務があります。
船員労務供給の制限
無料船員労務供給事業者は、労働争議に対する中立の立場を維持するため、同盟罷業、閉出又はけい船の行われている船舶につき、船員を供給することはできません。
このほか、労働委員会が地方運輸局長に対し船舶において同盟罷業(ストライキ)、閉出又はけい船に至るおそれの多い争議が発生していること及び船員を無制限に供給することによって当該争議の解決が妨げられることを通報した場合においては、地方運輸局長は、その旨を無料船員労務供給事業者に通報するものとし、当該通報を受けた無料船員労務供給事業者は、当該争議の発生前通常使用されていた船員の員数を維持するため必要な限度まで船員を供給する場合を除き、当該船舶につき、船員を供給することはできません。
まとめ
陸上も海上も、労働者供給事業に関しては厳格な規制が設けられており、いずれの業種であっても、許可を受けた労働組合等が無料で行う場合のみ認められるにとどまります。ここに船員に特有の規定が加わることで、その実態はさらに複雑な構造を呈しています。
船員労働の特殊性については、様々な記事において発信しているとおりです。船員の雇用については、船員法や船員職業安定法といった船員労働法規に精通した専門家に相談することができる環境を整えることが重要です。弊所においても船員労働や雇用に関するサポートを取り扱っておりますので、海や船舶の手続きのほか、これらのご相談についてもどうぞお気軽にお問い合わせください。