海事代理士が読み解く船舶法の世界│船舶についての基本法

豪華客船

これだけ情報が氾濫した令和の時代にあっても、海事法令に関する記述には滅多にお目にかかる機会がありません。私自身知見を得ようとインターネットを駆使しますが、お目当ての記事にたどり着けず、なかなかの苦行を強いられます。

鳴かぬなら、鳴いてみせよう、ホトトギス。

数多ある海事法令のうち、ここでは船舶法を紹介し、専門的見地から、つらつらと条文を読み解いていきたいと思います。酒の肴になるかならないか程度の記述に過ぎませんが、本稿が皆さまを海事の世界に誘う一因となるのであれば幸いです。

船舶法の構成

左ノ船舶ヲ以テ日本船舶トス

(船舶法第1条)

ハイ、出ました。のっけからのカタカナ文語体条文。文系かつ現代文にはそこそこ自信のある私が、条文を読み込む意欲を丸ごと持って行かれそうになるのがこの文体です。

本法の成立が明治32年、確か私の曾祖父がそのくらいの生まれなので、ここはそのご長寿に敬意を表することにして、以降はいちいちツッコミを入れることなくサクサク進めていこうと思います。

船舶法は、日本船舶の国籍要件とその法的効果、船舶登記、船舶登録及び船舶国籍証書等について定めた法律であり、言うなれば「船舶」に関する基本法です。この点をまず頭に入れていただいた上で、あとは条文を要約しつつ読み進めていくことにしましょう。

船舶とは

ルールを制定するためには、そもそも「船舶」が何であるかを確定させる必要がありますが、実は船舶法には「船舶」を定義する条文は存在しません。したがって、「船舶」とは「社会通念上の船舶」を指すものとされています。

社会通念上の船舶とは、「物の浮揚性を利用して、水上を航行する用に供される一定の構造物」をいい、沈没船・座礁船もこれに含まれますが、推進器を有しない浚渫船(しゅんせつせん)は、船舶法施行細則により船舶とはみなされていません。

日本船舶とは

船舶法第1条では、「日本船舶」が以下のいずれかに該当する船舶であることを明示しています。

  1. 日本の官庁(国の機関)又は公署(地方公共団体の機関)の所有する船舶
  2. 日本国民の所有する船舶
  3. 日本の会社法により設立した会社であって、代表の全員及び業務執行役員の3分の2以上が日本国民である会社が所有する船舶
  4. 代表者の全員が日本国民である3以外の法人が所有する船舶

このうち、船舶法が適用されるのは、総トン数20トン以上の船舶であることから、総トン数20トン未満の日本船舶や、外国人が所有する船舶については、船舶法の大部分は適用されず、小型船舶の登録等に関する法律等の適用を受けることになります。

上記3については、「へーそうなんやー」と思われた方も多いでしょうが、実際にこの事例を取り扱った経験があるので、案外身近にある注意すべきポイントではないかと思います。

日本船舶の権利義務

日本船舶の特権としては、日本国旗を掲揚できること、税関の置かれていない日本国内の不開港への寄港ができること及び沿岸の運送事業に従事することができることなどがあります。

対する日本船舶の義務としては、船籍港を定めること、総トン数の測度を申請すること、登記・登録をすること、船舶国籍証書の検認を受けること、日本国旗を掲揚し船舶の名称・船籍港・番号・総トン数等を標示すること等があります。

日本国旗の掲揚が、権利でもあり義務でもあるところがポイントですね。

船舶登録と船舶登記

日本船舶の所有者は、船舶を登記した後、船籍港を管轄する管海官庁に備えられた船舶原簿に登録されるための申請を行う必要があります。船舶原簿とは、分かりやすく表現すると船舶の戸籍ですが、この登録がなされたときに、管海官庁は所有者に対して船舶国籍証書を交付します。

船舶登録と船舶登記は別制度として取り扱われていて、登記が必要となる総トン数20トン以上の日本船舶については、登記を前提にした登録という二元適用制度が採用されています。

船舶国籍証書

日本船舶の所有者は、船舶の構造により定められた以下の期間ごとに、船舶国籍証書を船籍港を管轄する管海官庁に提出して、その検認を受ける必要があります。

総トン数100トン以上の鋼製船舶4年ごと
総トン数100トン未満の鋼製船舶2年ごと
木製船舶1年ごと

上記の期日までに船舶国籍証書を提出しないときは、船舶国籍証書はその効力を失いますが、この場合船舶の船籍港を管轄する管海官庁は、船舶原簿について職権をもって抹消の登録を行います。

登録が抹消されると、当然船舶は未登録の状態になるため、再度新たに船舶国籍証書の交付を受けた後でなければ、日本の国旗を掲揚し、及び船舶を航行させることはできません。

仮船舶国籍証書

仮船舶国籍証書とは、船舶が日本国籍を有することや、船舶が同一性を有することを、一時的に証明するための公文書です。仮船舶国籍証書の交付を受けることができるのは、総トン数20トン以上の日本船舶であって、次のいずれかに該当する場合に限られます。

  • 船舶を取得した地が、船籍港を管轄する管海官庁の管轄区域外である場合
  • 船舶が外国の港に碇泊する間又は外国に航行する途中において、船舶国籍証書又は仮船舶国籍証書が滅失若しくは損傷し、又はこれに記載した事項に変更を生じた場合

仮船舶国籍証書の有効期間は、日本において交付するものにあっては6か月以内、外国において交付されるものにあっては1年以内と定められており、この期間中は、船舶国籍証書と同様の効果を受けることができます。やむを得ない事由がある場合には、さらに仮船舶国籍証書の交付を受けることができますが、船舶が船籍港に到着した場合は、たとえ有効期間満了前であっても仮船舶国籍証書は失効します。

船籍港について

船籍港とは、船舶所有者が船舶の登記及び登録をなし、船舶国籍証書の交付を受ける地をいいます。船籍港とすべき地は、船舶の航行しうる水面(海、川又は湖)に接した日本国内の市町村に限られ、原則として船舶所有者の住所に定めることとされています。

総トン数の測度

測度とは、船舶の総トン数を算定するために、船内の内部容積を計測することをいいます。総トン数20トン以上の日本船舶の所有者は、登記及び登録の前提要件として、船舶の総トン数の測度を受ける必要があります。船舶の総トン数の測度の手続きは、原則として、船舶所有者の申請に基づいてのみ開始されます。

新たに登記をすべき船舶、又は、再用が予定されている抹消登録済みの船舶について総トン数の測度をなすことを新規測度、すでに測度を受けた船舶の総トン数について、船舶自体の物理的変更や関係規則の改正等によって変更が生じた場合に測度をなすことを改測といいます。改測は、船舶の上甲板下全般にわたる改測であるか否かによって、さらに全部改測と一部改測とに区分されます。

測度に関する事務は管海官庁(運輸局または運輸支局の長)が管掌しますが、外国における日本船舶の総トン数の測度に関する事務については、日本国の領事が管掌します。なお、総トン数20トン未満の小型船舶の測度に関する事務については、都道府県知事に機関委任され取り扱われています。

臨検・罰則

管海官庁は、船舶の総トン数、登録又は標示に関し必要と認めるときはいつでも臨検することができます。この場合、臨検を担当する職員は、身分を証明する証票を携帯する必要があります。

また、船舶法には、国籍を詐る目的をもってする国旗掲揚等、外国船の不開港場寄港等、国旗掲揚義務の違反等に対する罰則規定が設けられています。

まとめ

条文を読み込んでいくと、改めて海事法令の特殊性を垣間見ることができました。そしてやっぱり読みにくい。笑

法令や手引書を日常的に読み込むことの多い海事代理士が苦行に感じているくらいですから、一般の皆さまにとっては、なおのこと難解に感じるのではないかと思います。

お伝えしているように、船舶にはバイクや自動車に適用されている制度とは、まったく異なる手続きが運用されています。バイクや自動車と同じように考えて手続きを進めると、後々大変な作業を強いられることになりかねませんので、分からないことは行政担当者にしっかりと確認した上で、海事代理士のような専門家に相談することをお薦めしています。

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