面舵(おもかじ)が右、取舵(とりかじ)が左の由来
面舵(おもかじ)いっぱ〜い!!
海洋系の映画やアニメでこのようなセリフを見聞きしたことのある人は多いのではないかと思います。ただ「何かカッコイイよね」というイメージは残っても、その意味についてまで深掘りして調べようと思う人は少ないのではないかと思います。
面舵の対になるものとして、「取舵」(とりかじ)がありますが、映画やアニメではどちらかと言えば「面舵」のイメージの方が鮮烈で、こちらの認知度については約2割ほど面舵に遅れをとっています。まぁ知りませんけども。
面舵取舵に関しては数点面白いトリビアがあり、特にその呼称の由来については、知ればきっと誰かに話したくなる内容であることは間違いありません。
そんなわけで、今回は普段船舶と接する機会が少ないであろう一般の方に向けて、「面舵」「取舵」にまつわる雑学を紹介させていただこうと思います。
面舵と取舵
面舵とは、船舶の航行において舵(かじ)を転じて進行方向を右にとることをいいます。対して取舵は、舵を転じて進行方向を左にとることをいいます。また、「いっぱい」というのは、そのまんま「目一杯」という意味になります。
要するに「面舵いっぱい!!」と船長が叫んでいるシーンでは、「思い切り舵を右に回して右方向へ進め!!」と指示を出しているわけで、これが「取舵」である場合は「左方向へ進め!!」と叫んでいることになります。
なお、船舶には自動車でいうところのブレーキがついていません。スクリューの推進力が原動力なので、進行をストップさせるためにはこれを逆回転させて逆方向の推進力を得る必要があります。したがって、前方に障害物を確認したときは、スクリューと操舵の合わせ技で船をコントロールしてこれを回避します。
ちなみに声で指示を出すことから、操舵(そうだ)する乗組員が聞き間違いをしないように、面舵(おもかじ)は“おもぉぉかぁじ”と発声し、取舵(とりかじ)は、“とぉぉりかぁじ”と発声することで、イントネーションによっても指示を識別できるよう工夫が施されています。
それでは皆さんご一緒に。
とぉぉりかぁじいぃぃっぱぁぁい!!
面舵と取舵の由来
面舵取舵の入門編を終えたところで、次はいよいよ本題となるその呼称の由来について触れていきたいと思います。
「そういえば何で『面』が右方向で『取』が左方向なの?」
確かに右方向を「面」と表現するのには少し違和感を覚えますし、「取」にせよ、それが左方向を想起させる単語であるかといえばそんなこともありません。
実は「面」と「取」はいわゆる当て字であって、漢字そのものにはあまり意味がありません。はじめに「おもかじ」と「とりかじ」と発する単語があって、後出しでそれっぽい漢字を当てはめたと言えば伝わりやすいかもしれません。
ところで日本人である皆さまであれば、当然「十二支」はご存じであるものと思います。「子(ね)」から始まり「亥(い)」で終わるお馴染みのアレです。
余談ですが、筆者は「巳(み)年」なので、「巳」=「へび」ということから、昔からあまり良いことを言われた記憶がありません。いわく「へびは執念深い」だとか「しつこい」だとか何だとか。そんなこと言ってしまえば私と机を並べて苦楽を共にした同級生達は皆とんでもない曲者になってしまうわけで、私のコミュニティはそんな曲者揃いの秘密結社になってしまいます。よって私は生年月日や血液型等で他人をラベリングする占いの類は一切信じておりません。
話しが逸れたので本題に戻しますが、有力な説では、「おもかじ」「とりかじ」の呼称は、この十二支が大きく関わっているものとされています。
面舵と取舵の由来
元々「取舵」は十二支の「酉(とり)」から取って「酉舵(とりかじ)」、「面舵」は「卯(う)」から取って「卯の舵(うのかじ)」であったものと推察されています。「うのかじ」については、発音しやすいように転じていった結果が現在の「おもかじ」であるというわけです。
ご存じの方も多いのですが、十二支は年だけでなく時刻や方位にも使われています。方角については、北が「子(ね)」で南が「午(うま)」といった具合に、ちょうど上のイラスト通りに十二支が配置されています。北極と南極とを結ぶ線を「子午線(しごせん)」と言うのも、この十二支の方位がその由来となっています。
さて、同じく上のイラストで確認していただくと分かるとおり、「酉(とり)」は西(左)で、「卯(う)」は東(右)に配置されています。
ここまで説明すればもうお分かりいただけると思いますが、とどのつまり、面舵取舵は十二支の示す方位をその呼称の由来としているわけです。
誰かに教えたくなりましたか?
※「卯の舵(うのかじ)」については、「卯面舵(うむかじ)」と呼称していた時代もあったようです。
ちなみに、南北を結ぶ「子午線」に対し、東西を結ぶ線は「卯酉線(ぼうゆうせん)」と呼ばれています。
まとめ
本稿のように、普段生きていく上ではあまり役に立たない情報、あるいは知らなくても特に問題ない情報は世の中に溢れ返っています。実際に船舶に携わる方の中でも、面舵取舵の呼称の由来をご存じでない方はたくさんいらっしゃいますし、それで何かに困窮することもありません。
一方で知的探究心は人生をより豊かなものに変えます。これからも海事代理士として皆さまを海にいざなうため、あまり役立つことのない情報を含めて発信を継続していきたいと思います。
ちなみに「巳年」は「お金持ちになりやすい」などとも言われてきましたが、それなりの年齢に達した現在でも一向にその気配はありません。やっぱり占いなんて信じるものじゃないですね。(しつこい)